第16話・紅葉前線

 昼休みの最後の時間は、俺は風紀委員としての仕事があります。

 あるのですが……。


「はい、愛邏あきらさん。待って……愛邏さん!?」


 この顔で職員室に行く事になってしまったのです。

 俺の顔はもみじさんによって化粧を施されています。その化粧は、あろう事か俺の元来の女性らしさを助長するようなナチュラルメイクなのです……。


「えっと……同室のもみじさんに話の流れで化粧をしてもらうことになりまして……」


 鏡を見て、俺も驚きました。鏡の向こうに、母性溢れてそうな女性がいたのですから。まぁ、俺ですし男性ですが……。


「えっと……なるほど」


 先生と俺はそうして、お互いに愛想笑いを交わすことになりました。

 そして、本題が始まります。


「昨日のこと、先生も自分なりに考えてみました。先生が考えたのはサポートグループですね。そこに複数人、心理学を学んだ人がいれば問題が悪い方向に行かないようにサポートすることができると思います。人間の良心を利用することになりますが、善意の人になりたい人はたくさんいるのは知ってますね? オンラインで行えば、おそらく相談を受けようと思う人も来てくださるかなと。心理学の知識がある人には給料も必要でしょう。問題はそこですね」


 先生はしっかりと自分なりかもしれませんが、考えてみてくれました。

 次は俺の番でしょう。


「ありがとうございます。そうったコミュニティの価値を証明できれば、公金が投入される可能性もありませんか?」


 数人がその環境を維持する仕事に当たれればいいのではないかと考えます。だから、コストは思ったよりもかからない可能性があるでしょう。


「それが実は、心理学的知識がある人がいるそういったコミュニティも既に存在するでしょう。でも未だ公金が投入されたグループについてはあまり認知されていないか、あるいは存在しないのではないでしょうか……。先生は聞いたことがないです」


 確かに、海外では盛んであるということは聞きます。それを日本に持ってこようと考える人がいない方が不自然です。日本には一億人以上も人がいますから。


「そうですね……また行き詰まってしまったように感じます」


 開けては行き詰まり、だけどそれでも考え続ければいつか道は開かれる。少なくとも俺はそうだと信じたいのです。


「別の意見を入れましょう。茜先生!」


 すると、先生はその場に歴史と科学の先生をやっている茜先生を呼びました。


「なんですか!? カップリング論争ですか!?」


 しかし、この先生は本当にこの先生です。いつだって頭の中にBLが存在している気がします。つい笑ってしまいます。


「違いますよ……。実は彼の話を」


 すると、茜先生は大いに興奮したのです。


「彼!? わかりました! 拓海先生に禁断の恋をしちゃったヒロインくんですね!!!」

「違いますよ!!!」


 もうあまりにあまりで、俺は思わず彼女と同じ勢いで否定してしまいました。


「っと、冗談はここらへんにしておいて……。なんとなく聞いてたんですけど、いくつかそれっぽいSNSがあります。でも結局SNSでやると、なぜか過激化してしまいます。画面の向こうに人がいることをついつい忘れちゃうのかもしれないですね。それに、自分が愛してほしいって人同士で、ライバル的に相手を感じてしまうのかもしれません。現実空間のコミュニティが望ましいと私は思いますね……」


 途中からは茜先生は本当に真面目に、そして親身に話をしてくれました。

 そこで、ため息をついていた担任の拓海先生も彼女を見直し、真剣に話を聞いていました。きっと、何かしらの意図があったのかもしれません。


「現実空間ですか。余計にコスト問題が出てきますね……」


 悩ましいことは山積みです。拓海先生の今のため息は、その課題の山に辟易したものだと、誰でもわかります。


「どうしても引きこもりがちになってしまうのも、うまくいかない原因かもしれませんね……。本当にどうしましょう……」


 もしくはそろそろ、彼を巻き込むべきなのかもしれません。もみじさんは強い人ですし、洞察も深い方です。少し頼ってみましょう……。


「正直引きこもるのもわかります。心の強くない人ほどそうだろうなって思いますね。インターネットの発展で、本当だったらもっと孤独はなくなるはずだったのに、余計にみんな孤独になって……。あぁ、私が感じてるだけです」


 茜先生の言葉には納得できます。俺たち人間は、本当はもっと野山をかけめぐらなければならなかったのかもしれません。孤独だから辛くなって、つらい人が増えたから、外には出たくなくなって。



「一緒に考えてくれて本当にありがとうございます。俺も、同室のもみじさんに意見を伺ってみます」


 ふと、巻き込む形になるかという罪悪感が消えました。よくよく考えれば、もみじさんが最初にこの話を始めたのです。本人抜きで俺は何をやっているのでしょうか……。


「愛邏君って本当にしっかりしてますね! こっちも、いろいろ考えてみますね!」


 こうして、このことに関して力を貸してくれる人は増えて行きました。ひとりの力はいつだって限りがあります。だから、ゆっくりともみじさん理論で世界を変えていきましょう。

 その後、拓海先生とは、すずめさんについての情報共有を行いました。昼休みが短いのは、仕方のないことです。

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