第6話・縛鎖
一緒に登校するはずが、学校に入る頃には引き離されてしまいました。二人は、走って行ってしまったのです。
微笑ましいというかなんと言いますか。
そのまま教室に向かうとまたしても微笑ましい物が襲ってきます。すずめさんの視線でした。いつもはもっと遅く来るのも知っていますし、少し眠たげだった目が俺を見つけて華やぐのも見てしまいました。もうなんというか、とても可愛らしいのです。
ですが、すぐに彼女は目線を窓の外へと向け、そっけない素振りをするのです。
「おはようございます。昨日は良く眠れましたか?」
彼女がよく眠れなかったことは知っています。でも、話し始めるきっかけはなんでもいいのだと思います。
「そこそこ……」
嘘をつくわけでもないのですが、心配させまいという気持ちもあるのでしょう。クマができてるのですから相当眠れなかったのではないでしょうか……。
「それはなによりです」
そんな時です。俺の言葉を遮るように、すずめさんが小さな声を上げました。
「あ……」
つられて目線を追いかけると、そこには一羽の雀が止まっています。どうやらまだ冬毛のようですね……。
「ふっくらとしていて可愛らしいですね……」
風が吹けばコロコロと転がってしまいそうです。非常に可愛らしいのですが、それがどうやらすずめさんには不満だったようです。
「太ってない……」
彼女が自分の呼び名を決めるときに考えていたのは、夏の雀だったみたいです。
「あなたの場合、もう少し太っても良いくらいかと……」
ずずめさんは痩せています。それは少し心配になってしまうほどに。
「うん……」
細い腕に、痛々しくいくつかの線が走っています。彼女のリストカットの痕です。
「ご飯はちゃんと食べていますか?」
そうだ、少し彼女の食生活が不安になります。
「それなり……違うか……」
彼女は諦めたように言いました。
「どうしてですか?」
彼女の食生活にはほんの少し問題があったのです。
「親が、ヴィーガンだから……」
ヴィーガンの全てが悪いとは言いません。ですが、ヴィーガンには豊富な食物の知識が必要だと私は思います。肉も野菜も全てだべるような人以上に、人類が肉から得ている栄養を把握しなくてはいけません。
実際、そのようなヴィーガンの方の方が成功されるでしょう。
「悪いことだとは思いませんが……」
しかし、この学校であれば、ヴィーガンのために栄養管理をしてくれる先生もいらっしまいます。ヴィーガン二世を受け入れる体制も、必要だったのです。
知識のないヴィーガンは人体への虐待にほかなりません。
「私は望んでない。でも、肉を食べさせてもらったことないから……」
彼女は、肉を食べてみたいのでしょうか……。
彼女の両親は少し知識不足のヴィーガンだったように思われます。今彼女が、こう思ってしまっているのですから。
「お肉を食べるのが怖いですか?」
その恐怖がどこから来るのか、調べてみましょう。
「嫌いな味だったら……。残しちゃったらって……」
残して無駄にするのは嫌だと考えるのでしょうか。なんと優しい人でしょうか……。
「じゃあ、こういうのはどうでしょう……。俺が普段より多く頼みます。最初にほんの一口だけ切り分けて、それを食べてみましょう!」
そうすれば、間接キスなどのセンシティブなことを避けられます。
「私って魅力無いかな……」
話が急に変わってしまったように思います。
「どうしてですか? とても、美人だと思いますよ?」
本当に、少し細すぎるのを除けば非の打ち所などございません。だからこそ、もう少し笑っておいて欲しいものです。
「健全な男子高校生なら、間接キスとか……」
そこまで言って、すずめさんは顔を真っ赤にして言葉を止めてしまいました。
「それは、将来好きな人が出来た時などに」
だから笑って、流したつもりだったのだ。
「答えないでよ馬鹿! 恥ずかしくてやめたの! てか、ホントにさ、親か何か!?」
そもそも答えてはいけなかったみたいで、失敗してしまったようです。
「一応異性なのですよ。そういうのは、大切にするべきかなって……特に、女の子ですし」
かと言って、親かなにかかと問われて、答えないのも気が引けました。
「いや! ママかよ! あぁー、恥ずかしがって損した……。でも、それでいいの?」
損は多少行動が多くなる程度でしょうか。あと少し、午後はお腹いっぱいかもしれません。
得は、彼女の挑戦を応援できることでしょう。価千金、考えるまでもございません。
「もちろん!」
だから断言しましょう。俺は彼女の友人で、取るに足らない程度の支出で、価千金です。
「やっぱアキラってママだ……」
しかしとて、こればかりは遺憾です。
「俺も同級生の、しかも、男子なのですが……」
同い年の男子を捕まえてママママと連呼するのはちょっと微妙な気分です。
「ねぇ……本当に私とご飯食べてくれる……?」
そんなに不安なものでしょうか。だとしたら、そんなに約束を守ってもらえなかったのでしょう。
「約束です」
守る前例を作りましょう。
そんな時でした、予鈴が鳴り、俺は席に戻らなくては行けなくなったのです。
「では、昼休みに!」
言葉をかけると、すずめさんは外を向きながらではありますがひらひらと手を振って返してくれました。
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