第5話・混沌の帝国

 俺は、自他共に認めるオカマちゃんである彼と一緒に登校しました。

 性自認自体がオカマちゃんです。オカマと呼ぶのが失礼だとかそんなのは、俺の考えることではないのです。


「もみじさん……あの……本当に俺が同性なのですか?」


 呼称はもみじを求められました。なんというか、ボタニカルで中性的。でも、可愛らしい名前とは思います。


「そうよ、なんで?」


 俺は今日、もみじさんの定めるところの同性の分類に本当に自分が属せているのか不安になっています。


「あの……距離が……」


 すると、もみじさんはバッと離れてくれました。


「ごめんねぇ! ほら、男子からはやっぱりキモがられることが多かったから、結局お友達は女の子だったのよ! 男子の距離感忘れてたわ……」


 なんだかほっとしました。確かに、女性同士は距離が近いですし、ハグとかの回数も多く見受けられます。それが原因と考えると、ちょっと近いのも納得です。

 そんな時です、前方から一人の小さな男の子が現れました。


「よ! もみもみ! って、そいつは?」


 なんでしょう、年下の男の子にも見えますし、女の子が男装しているように見えます。


「紹介するわ。彼は、アキラちゃん! 私のルームメイトで、普通の男の子よ!」


 すると、その子は、ちょっといじけたような顔をしました。


「機械的で嫌になっちゃうぜ……。んで、アキラだっけ? よろしく!」


 でも最後には、パッと明るい笑顔で俺を迎えてくれるのです。なんでしょう、やはり年下感がありますね。

 素直で元気で、とても好感が持てるのですが……。


「よろしくお願いします! えっと……?」


 お名前をお伺いしていないのを少し失念していました。


「ナツ! みんなそう呼ぶぜ! つかさぁ、もみもみはみんなちゃん呼びなんだよ。マジで遺憾だ……」


 でも、同い年なのでしょうね。俺たちは一年生です。

 遺憾と言いつつ、もみじさんとの間に収まるのはどうなのでしょう……。

 しかし、全体として名前通りに呼ばれたくない人は多いですね。両親と決別したのであれば当たり前なのかもしれません。両親には何度もその名前を呼ばれたのでしょうから……。


「遺憾とおっしゃる割に、とても仲は良いのですね!」


 つい、笑ってしまいます。そしておそらく、もみじさんが俺との距離が近かったのは彼のせいですね。


「おう! もみもみはいいやつだぜ? 可愛いしな!」


 しかし、先ほどもみじさんは女性との交友関係が多いとお聞きしたのですが……。


「この子、距離感はまだ女の子なのよねー」


 何か、色々と話がややこしくなってまいりました……。


「しゃーねーだろ。元々女子なんだからよ!」


 ものすごく、竹を割ったかのような、気持ちのいい性格をしているとは思います。


「宣言しちゃうのですか!?」


 でも、それを俺が聞いていいのでしょうか……。今日会ったばかりですし、そういうのは秘密にするものだと思っておりました。


「どうあがいたって変わんねぇことだ! んじゃ、相手に迷惑かけない範囲で都合のいい時だけ女に戻ってやる!」


 吹っ切れていますね……。パワフルですね……。

 俺はなんだか、押し流されてしまいそうです。


「まぁ、そこがなっちゃんのいいところよね?」


 その気持ちはよくわかるのです。気を使われるより、とにかく肉弾戦で来いと言われているみたいで……。


「あんま褒めんな、照れるだろ?」


 しかし、本当に親友ですね。きっともみじさんが救われた友人はナツさんでしょう。でも、逆も同じことのように思えます。その上、とても性格の良い方に思えます。

 言葉だけは、ちょっと乱暴ですが……。


「ふふっ、そういうところ可愛いわよね! 食べちゃおうかしら?」


 そう言って、もみじさんはナツさんを持ち上げてくるくると回るのです。

 もみじさん、フィジカルがすごいです……。


「下ろせコラ!」


 やっぱり、ナツさんはちょっと年下に思えます。


「ほっぺ膨らましたら余計可愛いわよ? ツンツンしちゃう!」


 ナツさんはもみじさんの宣言通り、膨らませた頬を指でつつかれています。

 疎外感すら感じます。お二人、仲が良すぎやしないでしょうか……。


「よし決めた! 今日こそワカらせる!」


 体をよじって、地上に着地したナツさん。


「あら、怒っちゃったわ!」


 そう言って、駆け出すもみじさん。


「神妙にお縄につけええええええええ!!!」


 叫びながら、ナツさんはもみじさんを追いかけるのですが、身体能力が全然違いました。

 これは、もみじさんの距離感も非常に納得です。こんな相手とばかり関わっていたら、あの距離感になります。

 しかしながら、見ていて癒される関係性ですね。頬は、知らず知らず緩んでおりました。

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