第4話・世界を変えちゃう♥
放課後の選択肢は、全寮制でありながら実に豊富です。でも、今日はすずめさんと少しばかり談笑して帰ることにしました。
今日感じたすずめさんの全てを書き留めていました。
「終わったー?」
ふと、窓の外は茜色に染まっていました。
そうでした。この部屋は二人部屋、同室の同級生がいらっしゃいます。
「はい、ちょうど今……」
メモを閉じ、振り向くとその同級生が少し笑っていらっしゃいました。
「ちょうどじゃないの。待ってたのよ」
彼はオカマちゃんだそうです。彼だとか彼女とかどうでもよく、自分はただオカマちゃんであると、そうおっしゃったのです。
「ごめんなさい、集中しすぎていたようですね」
彼は少し、老成した雰囲気を持っていらっしゃいます。
「いいのよ……。それより、風紀委員になったのかしら?」
「はい」
質問に答えると、彼はベッドに腰を下ろしました。
「じゃあ、アタシの話もちょっと聞いて?」
本当にこの学校は混沌です。いろんな方がいらっしゃいます。
「もちろんですよ」
風紀委員は相談を受けてもいいし受けなくてもいいのです。完全に受けなくてもいいわけではありませんが、風紀委員は辞めることができます。現在の日本、精神医療分野の人材不足を解消するための苦肉の策でもあるわけです。
「アタシね、友達って存在に救われてるのよ。ただ根気があるだけの、ズブの素人に。先生はアタシを腫れ物扱いして、親には気持ち悪がられる、そんな地獄から……ね」
それが相談なのかどうなのかわからなくなり、俺は思わずメモを落としてしまいました。
「保護生……なのですか?」
保護生、この学校の優先入学権を持つ、自治体によって両親から離されてこの学校に入学した生徒のことです。
「バリバリ保護生よ……。こう見えてね……。でも、保護生になれたのは救われたからだわ。さっき言った友達にね……」
もはやこれは相談では無いようですね。でも、ありがたい。きっと俺だけでは気付かなかったことです。
「友達にしか救えない人が居る……ということでしょうか?」
きっとそう言いたいのだ。お金で買えないものはない、転じて何者にも値段をつけて売る。それが俺の親世代の一般的な考え方でした。
「わかってるのよ。心の問題を解決するための人たちも、生きていかなきゃならない。相談っていうのはここ、どうしたらそれを実現できると思うかしら?」
非常に有意義でした。まるで啓蒙を頂いたような、目が開けた感覚になります。
確かに、友情も今や値札が付いています。でも、それはかつては値札がつかなかったもの。そして、今でもついていないものの方が多いものです。
「ごめんなさい、きっと俺には何もできることはないと思います……」
俺にはただの一人の専門家としての力しかありません。問題は認識できました、でも俺に何ができるわけでもない、そう思っていました。
「あなたは、最も一緒に過ごす時間の長い5人の友達の平均になる。ジム・ローンだったかしら? アタシはこれが本当の気がするの。裏を返せば、その五人は五分の一づつあなたの影響を得るって……」
思わず俺は、椅子を押しのけて立ち上がってしまいました。
「世界を変えられると!? 俺は無力じゃないのですか!?」
そして急いで同室の彼の手をとって、詰め寄ってしまいました。
「え、ええ……。私はそう思ってるのよ……。だから、風紀委員じゃなくてこっちに来ない? 世界変えちゃうナカマ帝国に……」
ギャグみたいな名前です。でも、それでも理念はいたって真面目でした。
「でも、俺は……」
風紀委員です。少なからず、この学校そのものが世界を変えるための取り組みの始まりに感じるのです。
だから、二つ返事だったのです。自分でやることを諦めて、だれかの枠組みの中で少しづつ。そんなアニメキャラクター、いらっしゃいましたね……。
「掛け持ち上等よ! 曖昧でいいの!」
そうおっしゃってくれるのであれば、もはや迷う必要もないと思います。
「なら、貸せるだけ力を貸したいと考えます!」
光明が一つ増えました。しかし、やはり机上の勉強だけではいけませんね。その五人の平均という考え方を、俺は学んでいませんでした。
そしてそれを裏返してしまうかのような彼の考え方も、全く知りませんでした。
「ようこそ!」
彼は、そう言って歓迎してくれました。
「あ、それからあなた顔は悪くないから距離に気をつけてね。アタシがオカマだから襲われてないようなものよ?」
困りましたね、そこは少しコンプレックスなのです。顔立ちが少し女性よりなのです。
しかし、入学した日に言われました。“あなたはアタシから見れば同性よ”と。
その理由は、彼の定めるところの同性というのが、性的意欲の沸かない相手を指しているから。そして、その相手というのは可愛い男性と、女性とのことです。
寮の法整備も、まだまだ問題がたくさんありますね……。
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