30. 燃費悪すぎ!
「というわけで、早速、マナの充填を試してみたいんですが。どうです、隊長?」
軍事技術だし、子爵家で研究するなら私は蚊帳の外だなぁと思っていたら、ドグさんがそんなことを言い出した。
「……そうだな。まあ、やるだけやってみるか」
グレフさんも少し考えてから許可を出す。ちょっとびっくりだ。
「あの……いいんですか? こういうのって秘密にするものなんじゃ? 私もそうですけど、ナークさんもいますし」
尋ねると、グレフさんは軽く頷く。
「もちろん、公にするつもりはないですよ。ステラ嬢にも秘密にして頂きたい。ただ、我々も専門家ではないので意見を聞きたいのです。その……シュロ殿にも」
ああ、なるほど。それだったら、わからなくもない、かな。
私の遺跡調査はあくまで趣味。興味のない人よりは知識はあるけど、専門家と呼べるほどじゃない。今回のような魔法技術の解析なんかではとても役に立つとは思えないし、きっとグレフさんもそれほど期待はしていないだろう
でも、シュロは違う。遙か昔から生きている古の悪魔だもの。魔法技術についての直接的な知識はあまりないみただいけど、天使と悪魔については詳しい。そんな存在に話を聞ける機会はなかなかないからね。どうせなら巻き込んでしまおうということかな。
「ナーク殿に関しては今更でしょう。調査に同行しているのですから、我々が、この鎧を発見したことを教会に隠すことはできない」
グレフさんから視線を向けられると、ナークさんは苦笑いを浮かべながら頷いた。
「そうですね。私としても教会に報告しないというのは難しいです」
「でしょうね。となれば、隠すのはむしろ悪手でしょう。いらぬ疑いを呼ぶ可能性があります」
たしかに。こそこそと研究してたら、かつての技術を蘇らせる気なのではと勘ぐられるかもしれない。そんなことしないよとアピールするためにも、教会には協力を仰ぐような形にした方がいいのかもね。教会にも成果を開示する必要があるだろうけど、敵対するよりはマシだろうし。
「わかりました。私がどれくらい役立てるかわかりませんが」
「はは、そんなに気負わなくてもいいって。どうせ誰にもわからないんだから。それじゃ、早速だけど、意見を聞かせてくれるかな。どうやってマナを充填すればいいだと思う?」
ドグさんが楽しそうに意見を聞いてくる。もちろん、私も知ってるわけじゃないから、みんなで議論しながら、推測していく。
例の設備から抽出したマナは、接続された管から鎧に流れていたと考えられる。となると管が通る辺りが怪しい。鎧の背面部分のパーツを観察していると、装甲の一部がスライド式になっていることに気がついた。スライドさせると、半透明の水晶体のようなものが露わになる。
「これ、関係ありそうですね?」
「おお、そうだね。早速、やってみようか!」
ノリノリのドグさんが、水晶体に手を翳す。しばらく様子を見ていたけど……何の変化もない。
「あれ、違いましたか?」
「いや、そうじゃなくてね」
マナの注ぎ口ではなかったのかと問うと、ドグさんから返ってきたのは否定の言葉。では、何なのだろうと思っていると、ドグさんは恥ずかしそうに頭を掻いた。
「ええと、マナって、どうやって充填するのかな?」
そんなこと知らずに試そうとしてたの……?
と思ったけど、よく考えたら、私も知らないや。浄化を手伝ったときは、シュロがやってくれたし。
「シュロ、マナの充填ってどうやるの? わかる?」
「んん? 別にそんなに難しいことじゃないよ。マナを分けてあげたいって思うだけ。人間には難しいのかな? そういう魔法とかないの?」
何かコツでもあればとシュロに聞いてみたけど、特別な方法はないみたいだね。でも、アドバイスで思い出した。そういえば、自分のマナを人に分け与える魔法があったよ。そもそも魔法を使う知り合いなんていないから忘れてた。
「ディストリビュートマナという魔法があるね」
「それを使ってみればいいんじゃない?」
なるほどなぁ。対象は人じゃなくでもいいのか。
とはいえ、そうなるとドグさんがマナの充填をするというのは難しい。何故なら、ドグさんは魔法を使えないから。才能がないという意味ではなくて、訓練してないって意味でね。
基礎的な魔法を教えるくらいなら、私にもできるだろうけどね。それでも全く知識がないところからだと実際に使えるようになるまでそれなりに時間がかかるだろう。少なくとも今日明日でどうにかできるとは思えない。
「じゃあ、私が充填してみますね」
背面パーツの水晶体に触れて呪文を唱える。分け与える量は……思い切って半分くらいにしておこう。
体からマナが抜けて少しけだるさを感じる。これだけの量のマナを一気に消費すると、やっぱりちょっときついね。
でも、その甲斐あってか、マナの充填はうまくいったと思う。白く濁ったようだった水晶体がかなり透き通って見える。満タンとは言わないけど、結構、貯まったんじゃないかな?
「よぉし、早速動かしてみよう!」
ドグさんがウキウキで宣言する。動かすとなると、この鎧を着込む必要があるけど、その役目は自分でやるみたい。
安全かどうかも定かじゃない状態での実験だ。普通なら尻込みしてもおかしくはないんだけどなぁ。でも、興味があれば私もやっちゃうだろうから、人のことは言えない。
ストップ役のグレフさんも止めることはなかった。
「セイリッド様に報告する前に、ある程度の安全確認は必要ですから」
というのがグレフさんの考えだ。何が起こるかわからない安全確認役に自ら立候補してくれるのなら、止める理由がないってことかな。
そんなわけで、みんなで手分けしてドグさんに鎧を着せていく。検証の話には興味を示していなかったハセルたちも加わって、どうにか準備を終えた。もう、これだけでも大仕事だ。
「よし、それじゃあ、試してみますよ」
不思議なことに、全身に巨大な鎧を纏っているにもかかわらず、ドグさんの声は明瞭だ。いったい、どうなってるんだろう。
まあ、それはともかく、実験だ。動かし方がわかるのかなと心配だったけど、それは杞憂だったみたい。ドグさんの宣言から結果が出るまではすぐだった。
びゅんと風を切る音。そこに先ほどまでいたはずの大鎧を着たドグさんはいない。ほぼ同時に派手な衝突音が響く。どうやら、凄い速さで壁際の鎧に突っ込んでしまったみたい。
ガシャガシャと音を立てて、並んでいた鎧が倒れる。それに巻き込まれる形でドグさんも倒れた。油断すると、どれが中身入りかわからなくなりそうだ。
「ドグさん、大丈夫ですか!?」
「あ、ああ。怪我はないよ。あまりに一瞬すぎて何が起こったかわからなかったけど」
呼びかけると、返事はある。意識ははっきりしているみたい。あの速さでぶつかって、怪我がないっていうのは凄いね。鎧だけあって、ダメージを抑える工夫はしっかりしているのかも。
そんなことを考えながら、ドグさんが立ち上がるのを待っていたけど……しばらく待ってもピクリとも動かない。
「どうした、ドグ! やはり、怪我があったのか!?」
心配したグレフさんが声を掛ける。それに対してばつの悪そうな声でドグさんが答えた。
「……いえ、その……動けないので、鎧を外して貰えますか。どうやらマナ切れのようです……」
えぇ、あの一瞬で私のマナの半分を使い切っちゃったの?
これは、なかなか運用が難しそうだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます