31. 魔法顧問……辞めます!
ごく短時間とはいえ、鎧の機能は確認できた。充填したマナが続く限り、驚くほどの運動性と防御性能を発揮するみたい。マナの消費は激しいけど、運用法については子爵家で考えることだ。
魔物の異常発生の原因は取り除けたし、施設の調査も終わったので、私たちはお屋敷に戻った。鎧は背面パーツひとつだけを持ち帰る。さすがに全部を持ち帰るのは大変だったからね。あとで衛兵隊を動員して、持ち帰ることにしたんだ。まあ、持ち帰るにしても、ひとまずは一式で十分だろうけど。
調査結果はセイリッド様を通して、領主様へも伝えられたみたい。ついでに、ナルコフ子爵家の近くで大悪魔が潜伏している可能性も伝えられた。それらを考慮して、領主様は調査を強化する方針へと切り替えたみたい。
といっても、当面は鎧関連の研究がメインだ。遺跡を調査したいというセイリッド様の思惑が叶ったとは言えない。というか、遺跡調査に使われていた予算が鎧の研究に投入されることになったから、今後はセイリッド様主導で調査隊を送るのも難しくなるだろう。ただ、遺跡の知識が役に立つ実績ができたと言えるので、悪魔の件が落ち着いたら、調査も進むかもしれないね。
「さてと、今日の分の充填は終わり。だいぶ、水晶体もキラキラしてきたね」
「本当だね! そろそろ満タンなんじゃない?」
「ようやくだね。二十日以上続けてやっとかぁ。本当にマナ食らいだね」
私とシュロは、ここしばらくの間、子爵家に雇われてお仕事をしていた。
私の仕事は、ディストリビュートマナを中心に簡単な魔法を子爵家の使用人や関係者に教えること、それと毎日少しずつ鎧のマナ充填をすることだ。実働時間のわりに、お給料は良い。おかげで、毎日のクッキー代に不自由することもないよ。それどころか、頼めばお菓子まで支給して貰える。素晴らしい!
雇われているのは私だけじゃなくて、シュロもだ。お仕事は、アドバイザー! といっても、特にやることがあるわけじゃないので、私と一緒に行動してるけど。
まあ、子爵家としては、何か困ったときに、シュロの知識が当てにできればという思惑があるんだと思う。給料はノービリスのレモンタルト一つ。なかなかの待遇だね。
とはいえ、さすがに飽きてきたかな。子爵家の遺跡調査記録なんかを読ませて貰えたから充実した毎日だったけど、やっぱり遺跡調査は実際に出向いて確認するに限るよ。
「というわけで、お役目をやめたいと思うんですけど」
「そうですか。それは残念です」
衛兵隊の詰め所でグレフさんを探して、辞職の連絡を入れる。本来なら、子爵家の家令に報告すべきとこなんだけど、私の場合、特殊な一時雇いなので窓口はグレフさんにしてもらったんだ。
いや、だって貴族家の家令の人ってちょっと厳しいイメージがあったんだもの。実際には、そんなことなかったけどね。優しいおじいちゃんだった。
「できれば、正式に当家の魔法顧問になって頂ければと思っていたんですが」
「いや、さすがにそれは……」
冗談かと思えば、グレフさんは本当に残念そうにしている。実際、臨時とはいえ、ナルコフ子爵家魔法顧問なんて大層な肩書きを与えられてたんだよね、私。
ある意味それらしき仕事はしてたけど、魔法顧問の肩書は大袈裟すぎる。大した知識もないし、教えることができるのも低級の魔法がせいぜいなのに。そんなんで顧問を名乗るのはちょっと恥ずかしいかな……。
いや、そもそも貴族家に仕える気がないんだけども。私が冒険者をやってるのも、気楽な立場が好きだって理由が大きいからね。
「後任はドグさんにお願いすればいいんじゃないですか」
衛兵のドグさんを含め、何人かには魔法の才能があったみたい。私が教えた魔法はすでに習得済みだ。誰かに押しつければ、私を引き留める理由もないだろうと思って、ドグさんの名前を挙げさせてもらった。ドグさんなら、例の鎧に興味を持っていたので、引き継いでもらえるだろうと思っての人選だ。
だけど、グレフさんは首を横に振る。
「いえ、ドグには将来的に衛兵隊長を引き継いでもらわないとなりませんので。使用人の中で習熟が進んでいる者に引き継がせましょう」
どうやら、ドグさんは未来の隊長候補だったみたい。実際、戦闘能力は高いって話だからね。その上、魔法も得意だなんて、優秀な人なんだなぁ。とても、そうは見えないけど。
そして、とばっちりを受けた使用人の人はかわいそうだけど頑張って欲しい。マドゥール文明の遺跡が多いナルコフ子爵家ならば、他の地方よりは魔法に関する知識も手に入るはずだ。研究を続けていればきっと立派な魔法博士になれるよ。
「こちらで手に負えないことがあれば、また協力をお願いすることになると思いますが」
「遺跡関連でしたら、私も興味がありますから、もちろん協力しますよ。しばらくはサイハで活動するつもりですし、冒険者の斡旋所に依頼をください。指名依頼なら私に連絡がきますから」
斡旋所には指名依頼という形式もある。特定の冒険者に依頼したいときに使うんだ。
もちろん、連絡が取れるんなら斡旋所を通さず直接依頼してもいいんだけどね。依頼で不在ってことも多いから、冒険者に連絡を取るなら斡旋所を通した方が確実なんだ。
「はい。……悪魔関連のことを依頼しても?」
グレフさんが、こちらを……というかシュロを窺いながら聞いてくる。グレフさんが気にしてるのは、そっちか。
「お役に立てるかどうかわかりませんが、話を聞くだけなら」
「そうですか。助かります」
請け負うと、グレフさんはほっと息を吐いた。レヴァンティアのこともあるし、不安なんだろうなぁ。私たちでどうにかできる相手でもなさそうだけどね。
「それじゃあ、私はこれで。今までありがとうございました」
「じゃあね、グレフ! レモンタルトありがとう!」
「はは。こちらこそ。ステラ嬢とシュロ殿のおかげで色々と助かりました」
挨拶をしてナルコフ子爵のお屋敷を辞す。
さあて、ずっとお屋敷でのお仕事だったし、少しは体を動かしたいかな。まずは、斡旋所に行ってみよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます