22. 友達とはいえ無理!
ナークさんが怖い目つきになっちゃったけど、気持ちはわからなくはない。
焦熱の魔人レヴァンティア。私は知らなかったけど、ゼウロ教の信徒の間では有名な悪魔らしい。遙か昔、ゼウナロク文明の時代に、幾つもの国を滅ぼし、焦土と化した伝説的な存在。ゼウロ教にとっては怨敵であると同時に、恐怖の対象なんだって。
「確認できませんか?」
レヴァンティアが召喚されているかどうか。ナークさんはどうしても気になるみたいだ。確認方法をシュロに尋ねるけど、その答えがとんでもなかった。
「うーん、難しいかな。あ、誰か召喚して聞いてみたら?」
悪魔が召喚されているかどうかを別の悪魔に確認するだなんて、普通はない発想だ。悪魔はそんな風に軽々しく召喚していい存在じゃないからね。悪魔だからこその発想……なのかな?
「呼ぶならニヴレインかな? あ、でも、レヴァンティアとはあんまり仲が良くないから不機嫌になるかも……」
「いえいえ、呼ばないでいいですよ! 呼ばないでください!」
「あはは、心配しなくても、僕は呼べないよ。この世界の住人が招くという形じゃないとね」
「そうですか……。いや、驚かさないでくださいよ」
とんでもない提案に、ナークさんの険しい表情も崩れてしまった。それも、しょうがない。ニヴレインもレヴァンティアと同格とみなされる大悪魔だからね。
とはいえ、レヴァンティアは本当にこちらの世界に召喚されているのかな? 国を滅ぼすような悪魔なんだよね? そんな悪魔が力を
「さすがにシュロの考えすぎじゃない?」
「いいえ。おそらく、レヴァンティアは召喚されています」
私の言葉に答えたのは何故かナークさんだった。
「何故、そう思うんですか?」
「……ゼウロ教には悪魔召喚を検知する技術があります」
「そうなんですか!?」
「はい。といっても、よほどに大規模な儀式でなければ検知はできないのですが」
びっくりだね。ゼウロ教にそんな技術があったなんて。
話の流れからすると、その技術で悪魔召喚が実行されたことを検知したわけだよね。そんな状況下で、レヴァンティアの魔術の威力が上がった。シュロ曰く、その要因としては本人がこちらに召喚されている可能性がある、と。だからこそ、ナークさんはレヴァンティアが召喚されていると判断したんだ。
「それはいつですか? 場所もわかってるんですか?」
「今から一ヶ月ほど前のことです。正確な場所はわかりません。ですが、聖都より北方で行われた可能性が高いと中央教会では見ています」
聖都というのは聖レインデル皇国の首都。ゼウロ教の総本山である中央教会がある場所だ。そして、その北方と言えば、ナルコフ子爵領も該当する。
「もしかして、ナークさんがサイハに来たのって……」
「ええ、儀式が行われた場所……そして悪魔の契約者を探るためです」
「そうだったんですか……」
ナークさんは、やっぱり教会の関係者だったみたい。
「なんかすみません。そんな使命があるのに遺跡調査に連れ回したりして……」
いくら遺跡好きな私でも優先順位くらいはわかる。そういう事情があるのなら、私だって我慢したのに。
だけど、ナークさんは苦笑いで首を横に振った。
「いえ、それは私の判断でやったことなので。悪魔のことを知るにはシュロさんと仲良くなるのが早道だと思ったのです。実際、それで召喚されたのがレヴァンティアであると推定できました」
なるほどなぁ。シュロと仲良くなったのには、そんな打算もあったんだ。ただ、シュロの可愛さに流されただけじゃなかったんだね。
「契約者はまだ見つかってないんですよね?」
「そうですね。それどころか、今のところ悪魔による災害の報告は教会にも入っていません。何を考えているのかはわかりませんが、契約者と悪魔は潜伏しているようです」
悪魔を召喚したからには、そこまでして叶えたい願いがあるはずなのだけど。慎重に機会を窺っているのかな?
でも、シュロみたいな可愛い悪魔ならともかく、恐ろしい悪魔を匿っておけるものなんだろうか。
「本当に、この辺りで悪魔召喚が行われたんですか?」
「……正直に言えば、ある程度の方向しか絞り込めていないんです。でも、おそらく、大きく外れてはいないはずです。ここで魔物の異常発生が起きたのも、もしかすると儀式の影響かもしれません」
「そうなんですか?」
「はい。大規模な召喚の儀式が行われると、マナが乱れて魔物が生まれやすくなると伝えられています」
そうなのか。ひょっとして、森の遺跡に現れた魔物も召喚の影響だったのかな?
なかなか厄介だね、悪魔召喚。魔物が増えるなんて、基本的には迷惑でしかない。冒険者としては、お仕事が増えるかもしれないけど、その分、危険も増えるからね。
まあ、それより何より、悪魔そのものの方が危険なんだろうけど。契約者が何を望んだかにもよるけど、たいていは周囲を巻き込むろくでもない結果になるんだよね。だからこそ、悪魔は忌み嫌われているんだ。
「契約者が見つかったとして、どうにかできるんですか?」
「並の悪魔ならともかく、焦熱の魔人が相手では難しいでしょうね。私では太刀打ちできないでしょう。応援を呼んで、教会の総力をあげて討つという形になるでしょうが、それでも達成できるかどうか……」
ナークさんに恐れはない。それでも、戦力分析としては圧倒的に不利という認識みたいだ。レヴァンティアはそれほどまでに強い悪魔なんだね。
「シュロは友達なんでしょ? 帰ってもらうことはできないの?」
「えぇ? さすがに無理だよ。契約しているのならそれに縛られているだろうからね。それに、こっちに召喚されているときは、こっちのイメージに影響されてるんだ。話くらいはできるかもしれないけど、僕の知ってるレヴァンティアとは性格も違うだろうし」
「そっかぁ……」
うぅん。話し合いで解決できたらと思ったけれど、そんなに甘くないか。契約者の願いが平和的なものならいいんだけど……それは望み薄かなぁ。
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