20. いざ、地下遺跡へ!
セイリッド様とのお茶会から数日後。私たちは再び、ナルコフ子爵のお屋敷へとやってきた。
今日は、お茶会のときとは違い、みんな冒険者として装いをしている。というのも、セイリッド様の依頼を受けて、遺跡調査をするからだ。正式な依頼なので、あんまり遺跡に興味がないハセル達も、やる気充分。その辺りはプロだね。ただ、セイリッド様への対応は私に任せるつもりなのか、ほとんど喋らないけど。
セイリッド様自らの案内で、お屋敷のとある一室へと導かれる。その地下には、大きな扉があった。
「これが地下遺跡へとつながる昇降機だ」
誇らしげな表情で、セイリッド様が扉を示す。
「もしかして、動くんですか?」
「もちろん……と言いたいところだが人力だな」
マドゥール文明では魔法技術によってスイッチ一つで動く昇降機が使われていたんだけど、残念ながらその多くは故障して動かなくなっている。だけど、ガタが来ているのはたいていは動力機構。人力で動くように改造すれば使えるようになる昇降機も多いみたい。ここの昇降機もそうみたいだね。
昇降機の扉を開くと、この地下室と同じくらいの部屋があって、その中央に大きなハンドルがついていた。これを回すと部屋が上下するそうだ。
回すのはセイリッド様の護衛としてついてきた衛兵の人たちがやってくれるみたい。グレフさんを筆頭に八人。馬車の護衛についていた人は全員いるから、三人が初めましてだ。まあ、たいていはグレフさんを通してやりとりをするので、直接話す機会はあまりないと思うけど。
ハンドルを回すたびにキュルキュルと不快な音が響く。同時にゴゥンゴゥンと重々しい音も。ちょっぴり不安を誘う音を響かせながらも、昇降機は順調に降下しているみたい。
ドンと大きめの揺れが到着の合図だった。衛兵さんの一人が先導して昇降機の扉を開く。その先はすでに薄暗い地下遺跡だ。
「真っ暗だね!」
「地下だから日の光が届かないだね」
興味深そうに遺跡へと視線を向けるシュロを自分の頭の上に乗せながら、
地下遺跡を探索するからにはそれなりに準備が必要だ。具体的に言えば、ランタン。衛兵の人たちも準備しているけど、それに頼り切りだといざというときに困っちゃう。アクシデントで火が消えちゃったり、何らかの要因ではぐれちゃう可能性もあるからね。こういうときには、明かりを複数用意しておくのが定石だ。
そんなわけで自分用のランタンを腰元のポーチから取り出して火をつけた。
同じようにハセル達もきちんとランタンを用意している。ナークさんは法術で光球を生み出したみたい。光球は特に指示を出さずとも、ナークさんの動きに合わせて移動するようだ。あれなら手を塞ぐことなく、邪魔にもならない。ランタンよりも明るいし、マナを消費するという点を除けばとても便利そうだね。
「それでは打ち合わせ通りに」
グレフさんの言葉に従い、隊列を変える。まず、衛兵さんのうち四人が先行し、安全を確認するんだ。そのあとに、私たち冒険者がセイリッド様を囲むようにして続く。グレフさんを含め、残りの四人はセイリッド様の護衛だ。
ランタンと法術の光球に照らされているとはいえ、明るさは十分とは言えない。先を見通すことができないから、ちょっとの油断が危険につながる。衛兵さんもハセル達もみんな真剣だ。
だというのに、私は少し浮かれていた。だって、こんなに大規模な遺跡を見るのは初めてなんだもの。
薄らと照らし出される光景は古代の地下都市だ。今、私たちが進んでいるのは大きな通り。その左右には箱形の建物が並んでいた。中には倒壊しているものもあるけど、そのほとんどは形状を保っている。マドゥール文明の頃から残っているんだとしたら、魔法技術で丈夫にしてあるんだろうね。
「この規模の遺跡となると、なかなか調査が進まないんでしょうね」
「そうなのだ。だからこそ、長年放置されている」
私の言葉に、セイリッド様が苦々しく頷いた。
この地下遺跡は古くからナルコフ子爵家が管理している。といっても、過去に何度か調査隊を派遣したくらいで調査が終わったとは言えない状態みたい。理由は世知辛いことに資金不足。
もちろん、子爵家が本気になってお金をつぎ込めばいつかは隅々まで調査できると思う。そうなれば、人々の生活が豊かになるような発見があるかもしれない。
でも、あくまで“かもしれない”なんだよね。逆に言えば、有用な物が何一つ見つからず、お金を無駄にするかもしれないんだ。子爵家のお金といえば、基本的には領民から得た税金。その税金を遺跡調査という博打に使うよりは、領内の整備を優先して、直接的に領民の生活を豊かにした方がいい。それが、歴代当主の方針だったらしい。
その方針にはセイリッド様も納得している。それでも、何か発見があればと、今回みたいな小規模な調査を父である子爵に認めてもらっているようだ。
「何か有用な発見があれば、調査を本格化させることができるかもしれないからな」
「そうですね!」
私に声を掛けたのも、新たな発見を期待してのことかな。そうなると責任重大だけど……とはいえ過度な期待をかけられているわけじゃないと思う。セイリッド様はちゃんと遺跡調査の現実を知っているからね。何かきっかけになればという程度の考えだろう。
「……ん、魔物か?」
「そのようです。ご注意を」
前方で声が上がる。先行した衛兵隊が魔物と遭遇したみたい。セイリッド様を庇うようにグレフさんが前に出て、他の衛兵さんもその周囲で素早く身構えた。さすがに手慣れているね。
全域の調査が終わっていないとはいえ、何度も調査隊を派遣している遺跡だ。どんな魔物がどの程度出没するのかはわかっている。そもそも、セイリッド様が調査に同行することを許されている時点で危険は少ないはずだ。そのはずなのに。
「この数は無理ですって! 退かなきゃ死にますよ!」
「馬鹿な、セイリッド様がいるのだぞ!」
「ですが、これじゃあ囮にもならないですって!」
前方から不穏な声が聞こえてくる。どうやら、想定以上の魔物が現れたみたい。先行した衛兵さんたちでは対処できない状況のようだ。
「まずいですね……。セイリッド様、撤退します」
護衛の責任者であるグレフさんが出した結論は撤退。護衛対象であるセイリッド様がここにいる以上、当然の判断と言える。
「しかし、それでは先行した者達が……」
グレフさんの判断に異を唱えたのがセイリッド様。先行した衛兵数名を置き去りにはできないとの主張だ。だけど、さすがにそれは認められないだろうね。セイリッド様を置いて助けにはいけないし、かといってセイリッド様を危険に晒すわけにはいかないもの。
となれば、動けるのは私たちだけだ。全員が助けに向かうのはグレフさんも良い顔はしないだろうけど、私とシュロだけなら許可して貰えるかも知れない。
「私が先行隊の撤退を援護します! ハセルたちはセイリッド様の護衛を!」
「待ってください。私も行きます。私が防ぎ、ステラさんが魔術で攻撃すればよほどのことがない限り殲滅できるでしょう」
「僕も! 僕もがんばるよ!」
私とナークさん……あとついでにシュロの主張に、グレフさんも頷く。
「なるほど。たしかに、あの魔術ならば……。わかりました、お願いします」
よし、許可はとれた!
急いで、先行隊のもとに向かわないと!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます