15. 襲撃されてる!
三刻くらい採取に集中したら、薬草は十分に集まった。品質も……一部を除いて問題ない。必要量は十分に確保したから、私たちはサイハへと戻ることにした。お昼の鐘には間に合わないだろうけど、お昼時を少し過ぎたくらいには街に着くだろうね。
「はぁ……なんで、私はうまく採取できないのかしら」
「まあまあ。その分、魔物退治で頑張ってくれたじゃない」
「ステラも半分くらいは納品できるって言ってたし、十分だって」
落ち込むメイリをハセルとロウナが励ましている。
実は、品質に問題のあった葉の大部分は、メイリが採取したやつなんだよね。思うに、メイリは力を込めすぎなんじゃないかな。普段はちゃんとコントロールできているのに、薬草採取となると力んじゃうのは何故なんだろう。苦手意識があるせいかな。
その分、採取中に出た魔物に関しては、率先して対処してくれた。なんかもう、鬱憤を晴らすかのようにメイスを叩きつけてたね。普段はおっとりとしてるけど、戦いになると人が変わるからなぁ、メイリは。
「ぬわぁ……ナークに負けちゃったよぅ」
「ふふ、今回は私の勝ちですね」
薬草採取勝負は、ナークさんの勝ち。意外にも、わりと接戦だったけどね。
シュロは視線が低いせいか、薬草を見つけるのが早いんだ。最初に見つけたのも偶然じゃなかったみたい。ただ、とてとて走りだから、見つけても薬草の場所まで移動するのに時間がかかる。それもあって、ナークさんには及ばなかったんだ。
とはいえ、シュロも十分な働きだ。少なくとも、クッキー数日分の稼ぎは確保したんじゃないかな。自分の食い扶持は自分で稼ぐ。なんて優秀なヌイグルミなんだろう。……あ、普通はヌイグルミに食費はかからないか。
森を出てサイハへと向かう街道に合流する。ここからなら、あと半刻もしないうちに街へとたどり着くだろう。そんなときだった。
「……あれは何でしょうか?」
ナークさんが真剣な顔で呟く。その言葉に、ハセル達も一瞬で意識を切り替えたみたい。直前まで賑やかにお喋りしていたのが嘘のように、ナークさんが示す方向を確認している。さすがは若手の注目株。私も、もうちょっとしっかりしないだめかな。
みんなから少し遅れて、私もそちらへと視線を向けた。街とは逆側。道の先に何がいる。そして、その何に集るように黒い点が迫ろうとしていた。
「……馬車だ! 何かに襲われてる……たぶん、魔物!」
私には判別がつかない。だけど、ロウナにはしっかりと見えているみたい。彼女が言うのなら間違いないだろう。ロウナはハセルたちのパーティーで最も目が良い。
「戦況は?」
「護衛が迎え撃ってるけど、あんまり良くないっス。魔物が多すぎる!」
ナークさんが問い、ロウナが答える。馬車には護衛戦力がついているみたいだけど、魔物が多すぎて多勢に無勢といった感じみたい。
「私は加勢します。みなさんは?」
ナークさんは助けに入ることを決めたみたい。
街道を行くのは自己責任だから、助けに入る義務はない。これは倫理的な問題だ。自分たちの命が危ないならともかく、余裕がありそうなら助力するのが人の道。私たちも顔を見合わせて頷き合った。
「ボクたちも行きます。指示はナークさんが」
「わかりました」
この中で冒険者としての戦闘ランクが高いのはハセルの星3。だけど、実力はナークさんの方が上なんだろうね。指示役はナークさんが請け負った。
「あまり余裕がなさそうなので、私が先行します。法術で防御を固めますので、みなさんは急ぎすぎないペースでついてきてください。接触すれば、即戦闘なので、息を切らしては駄目ですよ」
「了解です!」
すぐにナークさんが方針を示す。私たちが了承するのを確認すると、ナークさんはすぐに走り出した。法術で身体能力でも強化しているのか、凄まじい速度が出ている。その姿はみるみるうちに小さくなっていった。
「わぁ。ナーク、早いなぁ!」
シュロが呑気な感想を口にしているけれど、私たちものんびりとはしていられない。駆け足程度で、ナークさんを追う。
馬車へとたどり着いたころには、ナークさんが馬車を取り囲むように結界を張っていた。魔物が次々と飛びかかっているけど、あっさりと弾かれておしまい。さすがはナークさんだ。
とはいえ、護衛を含めて、全員が結界の中。つまり、完全に防御に専念している状態だ。護衛は五人いるけど、誰も彼も負傷している。状況を見て、ナークさんは、私たちが到着するまで持ちこたえることを優先したのだろう。
「私は結界に専念します。みなさんで仕留めてください」
「はい!」
ナークさんから指示が飛ぶ。頷いて、私たちは魔物へと向かった。
結界を取り囲んでいるのは、魔狼グレイウルフ。わずかだけど風の力を操る魔物だ。個体の驚異度はそれほどでもないけど、何しろ数が多い。結界の周りには数体の死骸が転がっているのに、まだ十匹以上が残っている。そのうち半分ほどが、私たちに向かって襲いかかってきた。
「あはは、結構な歓迎ぶりじゃないか」
「ロウナ、メイリ。無理しないようにね。ステラは後ろで支援をして」
「わかった。気をつけてね」
「なかなかハードな復帰戦になりそうねぇ」
ナークさんが結界の方に手を取られているのでハセルが指示を出す。軽い雰囲気だけど、決して油断していい相手じゃない。私もしっかりしないと……。
「ねえ、ステラ」
サポートが必要になったら即座に対応できるように、状況をしっかりと把握しないといけない。そんなときに、腕に抱いたシュロが呼びかけてきた。視線を外すわけにはいかないので、前を向いたまま答える。
「どうしたの、シュロ? 今、忙しいんだけど……」
「うん。あのね、ステラが魔術を使ったら倒せるんじゃない?」
……そういえば、シュロに教わった魔術があったっけ。
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