13. 斡旋所で再会!
朝食を食べ終えたら、斡旋所に向かう。もともとそのつもりだったけれど、お財布の軽さに危機感を覚えたので、今の私はちょっぴりやる気に満ちてるよ!
街を東西に走る大通りはすでに人が多い。中には冒険者らしき格好の人たちもちらほらいるね。斡旋できる仕事には限りがあるから早い者勝ち。なので、真面目な冒険者は朝早くから活動する。
「やあ、ステラさん、シュロさん。おはようございます」
「ナークだ! おはよう」
「おはようございます」
斡旋所の入り口で声をかけられた。誰かと思えばナークさんだ。彼も冒険者として活動している一人。斡旋所にいてもおかしくはないのだけど。
「……もしかして、待ってました?」
「もちろんですよ。私たちはパーティーなのですから」
「いえ。パーティーを組んだ覚えはないですけど」
パーティーというのは、普段から一緒に仕事をする冒険者たちのチームのこと。パーティーを結成するのに特別な許可はないので、当人同士の同意さえあればいい。逆に言えば、同意した覚えがないので、私たちとナークさんはパーティーではない。
「つれないこと言わないでくださいよ。二週間も遺跡調査に付き合わせておいて」
うっ……それを言われると……。
「そうだよ、ステラ。あのとき、ナークがいなかったら、僕は耐えられなかった」
「シュロさん。それは私もですよ。あのとき、シュロさんの存在がどれほど心強かったか」
ぬぬぬ……これは分が悪いみたい……。
でもね。私だって、意地悪で言ってるわけじゃないんだよ。私とナークさんじゃ、実力差が大きすぎる。私が受けるような仕事だと、ナークさんとしては微妙な稼ぎなんじゃないかなと思ったんだよ。まあ、本人が気にしないっていうなら、いいんだけどさ。
「ナークさん、ランクは幾つなんですか?」
とはいえ、ランクくらいは聞いておこうかな。さすがに差が大きいと、ちょっとね。
冒険者のランク。これ、本当のところは斡旋所からの信頼評価なんだよね。斡旋所の職員さんもランクって言ってるから別に構わないんだろうけど。
何でそんなものがあるかと言えば、まあ、お仕事斡旋の目安として使えるからだね。
斡旋所はあくまで依頼人と冒険者を仲介する役割。だけど、依頼人に対して実力不足の冒険者を紹介してしまうと、斡旋所の評判が下がっちゃう。だから、斡旋所としては冒険者たちのお仕事の適性を把握しておきたいわけだ。そのざっくりとした目安となるのがランクってわけだね。
「私ですか? 戦闘が星二つ。それ以外は星一つですよ」
「あれ、そうなんですか? 意外ですね」
「実は登録して間もないんですよ」
斡旋所の評価項目は戦闘・調査・採取・護衛の四つ。最初はみんな星一つで、実績に応じて星が増える。最高評価は星五つだ。
ちなみに、私は調査と採取が星二つ。残りは星一つだ。つまり、私とナークさんの斡旋所からの評価は大差ない……どころか、内容によっては私の方が高いってこと。受注できるお仕事もあまり変わらないし、それならパーティーを組んでもいいかな。
「わかりました。それなら、一緒にお仕事しましょうか」
「はい。ありがとうございます」
ナークさんと連れだって斡旋所に入る。朝の鐘が鳴る前だというのに、すでに結構な数の探索者がいた。まあ、もう半刻もしないうちに鐘は鳴るだろうけど。そうなると、ここは人で溢れかえる。それまでには、良さげな仕事を探したいところだ。
正面が受付で、左手には掲示板がある。この掲示板に掲載されているのが、斡旋できるお仕事だ。全てが掲載されているわけじゃないんだけどね。ここに掲示されているのは、比較的誰でも受注できる条件が緩いお仕事だ。もちろん、最低限のランクは必要だけど。
「ステラ!」
掲示板で手頃な仕事を見つけようと思っていたら、名前を呼ばれた。そちらを見ると、ハセルがこちらに手を振っている。彼女の隣には、ロウナとメイリもいる。三人も冒険者活動を再開したみたいだね。
「久しぶり! ロウナとメイリはもういいの?」
駆け寄って尋ねると、三人はにっこりと頷いた。
「へへ、バッチリだい! ほら、見てなよ」
「あら、駄目よ。こんなところで暴れちゃあ」
ロウナがシュシュッと拳を突き出して回復をアピールして、メイリがそれをのんびりと窘める。すっかり普段通りだ。
「シュロちゃんも、やっほ!」
「やあ、ハセル。やっほぅ!」
そのあとには、ハセルとシュロが挨拶を交わす。まあ、この二人は久しぶりというわけでもないんだけどね。ハセルもノービリスの常連だから。二人はクッキーの絆で結ばれているんだ。
「へぇ、キミがシュロ君か!」
「本当にヌイグルミみたいなのねぇ」
「ハセルの仲間だね! よろしくぅ」
ロウナとメイリもシュロには興味津々だ。結局、お見舞いには行けずじまいだったから、二人とシュロは初対面になる。シュロが悪魔だってことは聞いてるはずだけど、二人とも忌避感はないみたいだね。まあ、心配はしてなかったけど。
「おや、お三方も活動再開ですか」
こちらの様子に気づいて、別々に掲示板を見ていたナークさんも合流してきた。三人は突然の登場に驚いているみたい。それでも、リーダーらしくハセルが答えた。
「はい、ちょうど今日から」
「そうですか。お二人が元気になって良かったですね」
続いて、ロウナが尋ねる。
「もしかして、ステラと組んでるんッスか?」
「ええ、といっても、正式にパーティーとして入れてもらったのはついさっきですが。ステラさんは酷いんですよ。二週間も遺跡調査に連れ回したのに、いままでパーティーとして認めてくれていなかったんです……」
わざとらしく目を伏せるナークさん。
「ステラ……」
「いや、違うって!」
言い訳しようにも、その前にハセルたちがジト目で私を見てくる。この三人にとって、ナークさんは命の恩人だから、信頼度が高いんだ。その三人を味方につけるなんて!
と思ったんだけど、おっとり口調でメイリが指摘したのは別のことだった。
「もう、駄目じゃない。二週間も遺跡調査って……あなたは遺跡調査が楽しいのかもしれないけど、他の人のことも考えないと駄目よ?」
「は、はい……」
ぐぅの音も出ないほどの正論だった。メイリのお説教は声を荒らげたりはしないけど、妙に圧があるんだよね。そのせいで、反省しなきゃって思わされちゃう。
向こうでは、シュロとナークさんがうんうんと頷き、ハセルとロウナはそんな二人に同情の視線を送っている。どこにも私の仲間はいないみたい。
いや、まあ、はい。
ちゃんと反省します……。
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