第三話「獣の咆哮」

意気揚々とレガリアが叫ぶと、10の魔法を重ね掛けした状態の舞離火には劣るものの、常人では達せないほどの速さで空を飛び、世界獣に近づきながら、二枚のカードをデバイスに切る。


 一枚はさっきと同じ《ボルケイン》のカード、それに加え銃の描かれたカードをデバイスに差し込んだ。


「さーて、どれからやるかな、まずはうざいお前らをつぶすか。

 《プロジェクション・ウエポン・ボルケイン》」


 その解言を言った瞬間、レガリアのデバイスから一丁のマグナムが出現し、そこに《ボルケイン》の影が重なる。


 マグナムはその影を纏い、《ボルケイン》の咆哮を放つ、銃と化す。

 

 舞離火その光景に気おされ、もはや見とれるにまで至り、驚くことさえしなかった。


 そんなことは知らず、レガリアはただ一人戦いを楽しむ。


「ハハッ、いいねぇ、この銃。初めて使う組み合わせだが、なかなかいいじゃねぇの、お前らもそう思うよなッ!!」

 

 レガリアが自分の周りを舞う世界獣たちに問いかけながら、《ボルケイン》の咆哮とその獣たちに撃ち放つ。


「どうだい?俺の鳴き声は、いいよなぁ、いいよなぁ、じゃあ次!!行こうか」


 そういって、次の獣を狩ろうとする、レガリアの背中に、さきほどまで木々を分倒していた獣の脚が振り下ろされようとする。


 が、レガリアはそんなことは気にせず一枚のカードを切る。

 カード描かれているのは数秒前に焼き尽くした獣達である。


「《プロジェクション・バレット・シャープシカーダ》、じゃあ次、行ってみようか」


 そう言い放った瞬間、レガリアに重い一撃が放たれる、がその足が地面を踏みつけることはなく、空中でとどまる。


「へぇ。いいじゃねえの。だがな、あめぇよ。踏み抜けなきゃ意味がねぇ。おとなしく俺のものになりな。」


 そういって、獣の脚をはねのけ、獣が体制を崩すと、その隙を逃さず、先ほど同様手に持っていたマグナムを放つ。が、放たれたのは炎纏った《シャープシガータ》の姿だった。


放たれた数十匹の炎は体制を崩した獣の中へともぐりこみ、体内からその獣を燃やす。


 体内に入った獣たちを追い出すように暴れまわる獣を眺めながら、レガリアは笑いながら口を開きカードを切る。


「わるくねぇ、が最後はやっぱり俺が決めなきゃだよなぁ。

 《プロジェクション・イフリート》」


 レガリアがその解言を言い放った瞬間、それまでレガリアのデバイスによって顕現していた銃や炎を纏った獣、レガリアが身に着けていた《ボルケイン》の装備までもが空気に溶け堕ちる。


 その隙を逃さず先ほどまでただ暴れまわるだけだった獣が次はレガリアに向かって突進をしようと勢いよく突っ込むが、まるで空気がレガリアを守るかのようにその攻撃を止める。


―—これが…《イセカイ》の住人の力、もしこれを世界獣が手に入れていたら…


 一人空の中、赤い影を纏うレガリアに魅せられながら、舞離火は恐怖に近い感覚すら覚えていた。


「さぁ!!フィナーレと行こうか。受け止めてくれよ!俺の一撃。」


 レガリアがそういうと深く青い炎に包まれた弓矢がレガリアの手に顕現し、天すら飲み込む炎の一撃がレガリアの手によって放たれる。


「イフリート・インフェルノ」


 その一言ともに放たれた炎は、獲物である獣に逃げることも、おびえることも許さず、一瞬にして、その身を焼き尽くした。


「っち、せっかく飯にしようと思ったのによぉ、さすがに火力が強すぎるってか」


 空から降りながら笑いながら冗談交じりに言葉を紡ぐレガリアの姿からは、さきほどまで戦いを獣のように楽しんでいたとは思えないほどの落ち着きようだった。


「な、なんなのよ、その力。あんたほんとに《イセカイ》の人間!?そんな技術あるわけない!!あんたは何者なの!一体その力は何なの!?」


 空から降りてきたレガリアに休む暇も与えず、勢いを取り戻した舞離火がレガリアを質問攻めにする。


「ハハッ、どうだった?俺の強さは…って、聞く必要もなさそうだな、まぁまぁ、あいつが来たら教えてやるよ。それまでに言えるのはただ一つだけ、俺はこの世界の住人だ、誰を見捨ててもな」


 少し悲しげな表情をしながら言葉を返すレガリアに少し勢いを鎮めるも、結局たぎる欲望を抑えることはできず舞離火は質問を重ねる。


「そのあいつってだれよ…」


 レガリアもさすがに悲しげな表情をすれば勢いもおさまると思っていたのか、すこし驚いた表情をし、数秒の沈黙のあと、レガリアは苦笑いをしながらも口を開く。


「そらぁお前の家族、白崎 怜だよ。いやこういった方がいいかな、俺の甥っ子 

 怜 ジェラルドをだよ」


            +-+-


―——東京———


「あのー、堺さん。僕はどこまで歩けば…もう東京から出てそうですけど」


 怜は人の影のない、奇妙な東京の街を歩きながら、狩衣を身にまとった男、堺に問いかける。


「アホか、東京言うてもそこまで小さないわ。まぁまぁ落ち着け、舞離火ちゃんに会いたいのは分かるけど、まずは君が《イセカイ》で今の《ラプラス》の力なしである程度戦えるようになってもらわなあかんねんから」


「あのバケモンの舞離火ちゃんほどとは言わんけど、あれの半分くらいには追い付いてほしいな」


 少し笑いながら冗談交じり堺は子供をつぐむが、怜はまだ緊張が解けないようで少し片言の言葉を紡ぐ。


「で、でも、舞離火って、《イセカイ》でど、どれくらい強いんですか?す、すいません。あ、あんまり知らなくて。」


「かまへんかまへん、しゃあないよ《イセカイ》行ったことないんやから、せやな、じゃあちょっと歩きながら簡単な説明しよか」


 堺がそういうと、身体の向く方向を逆にし、後ろ歩きで歩きながら怜に向かっ説明を始める。


「例えば、今君が《イセカイ》言ったらランクは最低ランクのDや。これはみんな同じ。

 それでもって舞離火ちゃんがその3個上のAや、これが今現状の《プレイヤー》の最高到達ランク。あ、ちなみに僕もそこね」

 

「で、そんなかでも僕とか舞離火ちゃんは、強いも強いもうちょっとでお互いSランク、常人からすれば化け物レベルや。

 特に舞離火ちゃん、実験時の仮転移を体験してなくてあれはほんもんのバケモンや」


「んでもってここからが本題。僕らAランクがいける世界はレベル5言うて、人もおらへん獣の巣窟や。でや、ここで朗報、僕らが行くのもそのレベルと同じ危険度の世界や」

 

「それって、ま、まったく朗報じゃなくないですか…?」


 疲れ切った表情で今にも倒れそうになりながら怜が堺の言葉に疑問をていすると、堺は立ち止まって笑いながら言葉を返す。


「せやな、だからこそ、怜君にはほんまに強くなってもらわなあかんねん。

 ほら、ついたで、ようこそ僕の秘密基地へ。ここが旧型 《異界門ラプラスゲート》、舞離火ちゃんへの一本道や」


 


 


 

 

 

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