第18話 次なる出撃
フランツ王は北の廟堂へ向かい、将軍を変更したとエルフ神に報告した。そして再任されたゲルハルトの運命を
「エルフ神にミロス王国の行く末を国王フランツが伺う。ミロス暦三百五年六月五日十二時ちょうど、ミロス王国北の廟堂において、将軍ゲルハルトは次の戦でいかな戦果を挙げるのか。いつ攻勢に出るべきか引いて備えるべきか」
得られた卦は「ゲルハルトは能力に不足なし。来月に出兵するべし」とのことだった。
国王はただちに首都へ帰還し、ゲルハルトを呼び出した。
「ゲルハルトよ。兵の訓練はどうなっておるか」
「皆、私の命令に服従しております。エルフ神の加護があれば、連戦連勝も疑いありません」
うむ、と国王は応じた。
「先日エルフ神を祀って御心を伺ったところ、思し召しにより、来月に出兵せよとのことだった。実に五年ぶりの実戦となるが、後れをとることは万が一にもなかろうな」
深くぬかずいたゲルハルトは、はっと声をあげる。
この五年の間、将軍職はクローゼが独占していた。
誰よりも早くそして勝ち続ける占いを立てる稀有な才能を現してから、軍務は彼に任せきりだった。そして此度五年ぶりにゲルハルトへ将軍職がまわってきたのである。
クローゼは絶大な能力を有している。
おそらく占いの才能はフランツ王以上だろう。儀式のやり方さえ憶えれば、国家の舵取りを任せてもよいくらいだ。
だからこそ、その官職が高まることは、国内でよからぬ派閥を生むことにもつながる。
ミロス王国を保つためにはクローゼの才幹を必要とするが、フランツ王の家系が国王の座を継いでいくには、あまりにも派手な戦歴である。
いずれかの勢力が彼に力を貸し、新国王へと擁立されたら、きっと国民は彼を王位に即けるだろう。それが許されるだけの実績があるのだ。
そのクローゼがなぜエルフ神の思し召しと王命に逆らったのか。
もちろん現場で状況が急転することはありうる話だ。であればこそ、クローゼは自らの判断の正しさを主張しなければならなかった。
しかし彼は処罰をあえて受け入れて前線から退いた。
「クローゼは自ら占って卦を得たようですが、それがどうにも不吉なものだったらしく、それで敵を一部誘い出して様子を見ようと図ったようでございます」
「戦場における行動では将軍が独自に占いを立てるのが当たり前だからな。それがエルフ神や王命を入れない理由にもなりはするが。その際もなるべくエルフ神や王命に背かぬよう行動せねばならん」
「クローゼが申すには、敵に新しい占い師が加わったとのこと。その者の実力はわかりかねますが、クローゼを手玉にとった手腕は並みの術士ではないようでございます」
「たしかヨハンという者の占い師だったな」
先の丞相からの情報を思い出した。
「ヨハンの情報は名前だけなのか」
名前がわかっているのなら、調べるのはそれほど難しくはないと思うのだが。
「すでにクローゼが間諜を放って、かの者の素性を探っております。判明次第私に報告を入れるようすでに申しつけてあります」
「そのヨハンとやらの生年月日時がわかれば命式も手に入り、占いで才能や弱点がわかるかもしれんな」
「おそらくは。ただ少々難儀するかもしれません」
「なにか問題でもあるのか」
公国では軍高官と占い師は査定のために官職と名前、生年月日時が登録されているはずだ。
「そのヨハンと申す者、どうやら正規の軍人ではないようなのです」
「正規の軍人ではない、とは」
「間諜に軍高官の名簿を当たらせているそうですが、名が見当たらないとの報告です」
「それは面妖な。たしかブロンクト公国は軍に勤務する占い師を一覧にまとめていたはずだが」
「ですので、完全に新入りの占い師ということが想定されます」
「その者がクローゼの攻勢を誘発した、ということか」
どうにも不確定要素の多い人物だ。
逆にいえば、クローゼはよく名前がわかったものだと感心せざるをえない。
「卿とクローゼの読みでは、どのような評価が妥当か」
ゲルハルトは顔を伏せたままだ。
「私は直接手合わせしておりませんので、正確な評価は致しかねます。前戦で手合わせしたクローゼの言によれば、彼と同等かそれ以上に占いが素早いとされております」
「神速をもってなるクローゼと同等以上か。それは丞相から聞いておる。そのとおりなら脅威に値するな」
フランツ王は新たな戦略を描かなければならないかもしれない。
「また占ってから部隊が連動するまでの時間が短い点も指摘しておりました」
「どういうことか」
「クローゼが軍を近づけたとき、敵の四隊の反応が敏感だったというのです」
敏感とは、具体的にどういうことなのだろうか。
「どうやらクローゼが近づくことをあらかじめ察知していて、その際の行動を各隊に申し含めてあったらしいのです」
「つまり各隊はそれぞれ独立して行動できる、ということか」
少し厳しい状況になりつつあるようだ。
「そのヨハンなる者のこと、エルフ神にお伺いを立てねばならぬようだ」
宿将へ向けて今後の方針を命じた。
「ゲルハルト、卿は来月の出兵へ準備を整えてまいれ。その間に北の廟堂を訪ねてヨハンなる者のことを占ってまいろう」
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