第21話 竜牙餐喰(ドラゴンイーター)

―――――――君、だぁれ?

―――――君だ


「……………………ぁ」

目が覚めると、そこは医務室。

あの後、気を失ったのだろうか…………。


「……………なぁ、ドラゴン」

新城の中にいたあのドラゴンは幻だったのか、それとも―――

「シン君!」

「………………ユイ…………」

ユイは走って中に入ってきたようだ。

「シン君大丈夫⁉意識はシン君⁉」

「ああ、俺だよ…………」

「よかったぁ……」

ユイが心配したのは恐らく、竜の意識が出てこないか、そういうことだろう。

そのすぐ後、社長とブレインが入ってきた。


「―――単刀直入に聞こう。君は…………何なんだ?」

そう言うのは社長。

「第三者から見てもあれは、君ではない」

「そしてお前の血液、皮膚を調べたところ、細胞単位で変質していた」

そう言うのはブレイン。そして更に

「まるで何かに侵食されているかのように…………特に、右手首から先…………右手だけが、ほとんど別物と言っていいほどの変化を起こしていた」

それを聞き、新城は自分の右手を見る。

何も変わらない、普通の右手に見えるが、《内部》が違うそうだ。

「恐らく、これから君の意思次第であの能力を使えるようになるはずだ。しかし――その力は使うんじゃない」

「どうして……」

「お前の体が持たないからだ」

「持たない…………?」

「それ以上身体を侵食されてみろ、戻ってこれなくなるぞ」

「だから…………神経の一部を遮断し、シン君の言うドラゴンが出てこないようにしたんだよ」

ユイの言葉を聞きながら、俺はあの世界を思い出す。

俺の心の世界、それは赤い血の海と、肉の大地でできた、鉄の匂いが広がる世界。

頭に痛みが走る。


―――――――世界は、血肉でできている。

大地は肉で、海は赤血。

戦火の炎が広がり、燃える命。

しかし、この世から骸は消えず。

数多の真理は、天地には無く。

今歩く、この地に印されていた。

血肉を踏み、同胞を乗り越える。

世界の真理は、この体の中。

この地に張り巡らされし願い、それは血肉の穢れを祓う。

ただ、この世に希望があるのなら、願おう。

――――――――この世界は、無限の希望で出来ていた。


「……………………!」

(今のは…………)

俺の世界そのもの表すような詠唱…………。

まるで魔法…………。

ドラゴンの力が通る神経が、止まっているのが分かる。

新城に声をかけ続ける三人を見て、もし、この大切な人達が傷つくようなことがあったとき、迷わずドラゴンを使おう、と、無言で決心する。


「能力の名前決めようか」

「名前?」

「ないと不便だしね」

「ドラゴン…………竜殺剣ドラゴンブレイカーってのは?」

これは社長。

「それはちょっと…………」

「――――愛心竜ドラゴンハートは?」

これはユイ。

「うーん…………」

「――――竜牙餐喰ドラゴンイーター…………」

これはブレイン。

「…………竜牙餐喰…………」

「新城が言うには、ドラゴンは噛みついてきたそうじゃないか。全てを喰らう竜の晩餐…………どうだ?」

「いい!すごくいい!」

「かっこいいです!」

「ありがとう、その名前、貰うよ」

「ああ」

ブレインは笑って答えた。

右手で能力を使ったらどうなるのか…………気になるが、試したいとは思えない。

――――ユイは、俺が守るんだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る