第18話 御伽噺、竜の目覚め

「守る……」

ソルジャーに言われたことが心に響く。

「スーツと解放を引き金に、お前にも《超能力》が発現するはずだ」

「超能力……」

アニメや漫画では多く見る存在だが、現実で聞くと、やはり妙な感覚になる。

「まあ、実感は湧かないだろうが」

「湧きませんね……」

実際にこの目でブレインの電気を見ても、それと似たような力が自分に発現するなんて、想像できない。

「超能力は様々な分類に分けられる。俺なら発電能力、みたいな感じだ」

なるほどと、シンは頷く。

「それにお前は、その片鱗を見せている」

「片鱗?」

「あの時、俺とお前の連撃がぶつかる寸前、お前の中に、別の気配が出てきた」

ブレイン・ストライクの眼は真っ直ぐ、シンの目を見つめる。

「それは竜のような、力の塊」

竜――。ドラゴン……。

ドクン……

「喰らい、壊し、殺す。荒れ狂う天災」

ドクン……

「それは超能力と言えるのかも怪しい力だ」

シンの内側から、何かが、溢れ出る。

「ぐっ……!?」

(なん、だ……誰だ……『お前』は……誰なんだ⁉)

シンにもそれが何なのか分からない。自身の中にいる、一人。

「ガアアアアアアアッッッッッ!!!!!」

身体がその『誰か』に蝕まれていく――。

赤眼・覚醒。しかしその眼光は、獣のよう。見たものすべてに死を振りまく、殺意の瞳。

髪が逆立ち、赤黒いオーラが全身を覆う。

『スーツ・強制解除』

装着していたスーツが外れ、シャツとズボンが出てくる。

「―――――!」

ブレインは日本刀を手にする。

危険となるものを鎮圧するために。


刀術――。


「〝四連光鏡〟」

鏡合わせの四連撃。全てがほぼ同時に放たれたそれは、刃が潰してあるとはいえ死ぬ可能性がある技。

しかしその四連撃は『誰か』に当たる前に、叩き落された。

紛れもない、『誰か』によって。『そいつ』の左手には、光沢を帯びた限りなく黒に近い紺色の大剣が握られていた。

空間には、赤い斬撃の軌跡が。

シンは右利き。それは全く違う存在。

ブレインの剣速は、実に音速以上。しかし『そいつ』の剣速は、それ以上の、神速だった。


――――〝竜王の血飛沫〟(ドラゴンロード=ブラッド)


竜の斬撃は終わっていなかった。一振りから放たれた三連撃がブレインの胴体に直撃する。

真剣を身に喰らって、生きていられるのはソルジャーだけ。それも1stなら、傷一つない――はずだった。

「ガハッ―――!」

ブレインの体には、三つの傷が。自然回復するとはいえ、その攻撃の強さがどれほどの物か。恐らく常人なら一閃を皮一枚で受けたとしても、肉体が吹き飛んでいただろう。赤い軌跡は、正に血。

「有り得ない強さだな……」

ブレインも思わず口に出す。そう、有り得ない。人間、ソルジャーの限界を超えているブレインでさえ、音速以上の剣速を出すのは簡単ではない。

しかし『あいつ』は、その音速の斬撃さえ、叩き落してしまった。

そして『あいつ』が握っている大剣、あれは何処から現れた?ここにはあんな武装はない。そして気が付いたら握っていた。


―――まるで何もないところから突然現れたようだった。


「―――」

『あいつ』の身体が動き出す。それを判断した瞬間、ブレインも刀を振るう。


〝七連光鏡〟

鏡合わせの七連撃。それは正に技そのものが、神器に成り得る。

――しかし。


―――――竜王の殺血(アンリミテッド=ドラゴンロード)


奴の肉体、武具、武技、その両方が神器。

計九回の紅の斬撃。

「お前は――誰だ?」

シンの精神世界に現れたのは、大剣と同じ色のドラゴン。伝説とか、漫画やアニメに出てくるような見た目だが、大きさはそれほどデカくない。精々全長3、4mといった所か。どうしてシンの中にいるのか、それを答える気は、今のドラゴンにはない。

ただ、そいつは――――。

「グルルルル……」

シンに、何かを伝えようとしていた。

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