翼持つ少女の鎮魂歌

しーんーせーかー

繰り返す毎日への疑問

 この歌は、誰のためにあるのだろう。

 この命は、なんのためにあるのだろう。


 長い金糸のような髪をなびかせて、薄曇りの空の下、波の音を聞いていた。

 背には絵に描いたような、羽根が連なる翼があり、長い汚れなき白のスカートを風になびかせていた。


 形を変えて漏らす音にはメロディとリズムがあり、誰でも歌声だとわかる。

 だが、それは悲壮な、心を締め付けるそう、鎮魂歌だった。


 青い瞳は疑問に揺れていて、眼下には崖から落ちた遺体がある。


 だが、魂を取ることもなく、ただ、少女と見える外見の彼女はただただ、音を紡いでいく。


 こんなことに、なんの意味があるのだろうか。


 魂なんて存在しない。

 死を迎えるということは、細胞の終わりであって、体重が軽くなるのは魂の重さなんてものではない。

 それは、細胞の活動の停止した分の、なにかの終わり。


 人間の五感だけが、世界の全てではない。

 不必要な部分、進化の過程で切り捨ててきた、今の技術では再現できない、もの。


 どうでもいいことだと、天使の少女は思考を打ち切った。

 そして、いつもの言葉を語りゆく。


「さあ、還りなさい――」


 毎日行われる、天使の歌声。

 魂なんてまやかしの、世界で、なぜ? が浮かび上がる。

 でもそれは問題ないこと。


「次に、行きましょう」


 誰も彼女のことなど知らない。

 天使が死人に安らぎを与えているなど、夢にも思わないだろう。


 彼女も人間に知られることも、同族にも、神という存在にもあったことはない。

 ただ歌うだけ。

 ただ見届けるだけ。


 終わりを、寿ぐだけ。

 何も残りはしない、自殺者だけを。


 ただ、明日も、明後日も、明々後日も、ずっと、繰り返す。

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