第7話 勝利者たちは王都に凱旋する。
いわゆる密偵には二つの種類がある。
社会に溶け込み生活や社交の中で情報を集める交流型。
自らを鍛え抜き、機密文書などに物理的な手段で接触、時には暗殺などの実力行使も行う武闘型。
密偵アスラはアレイスタ王国に仕える密偵七家の一つヤクシャ家の当主である。平時の謀略や諜報活動、戦時の破壊工作などを得意とする一族だ。武闘派といえば聞こえがいいが、実際には汚れ仕事専門として、七家の末席として扱われてきた。
そんな中、ヤクシャ家に一つの役目が与えられた。
勇者パーティーに参加する王子メイシンの補佐、そして勇者ヴェルクトの監視という役目である。
最初にその役目についたのは、アスラの妹カグラ。年少ではあったが、
アスラは勇者を憎んでいた。
アスラがカグラに与えた役割はメイシンの補佐、勇者の監視でしかなかった。
勇者を守ることではない。
勇者という存在がアレイスタの国益に反する行動を取らぬよう監視し、その行動を制御すること、制御が効かなくなり、出すぎた行動を取るようであれば勇者を抹殺すること、それがヤクシャ家に与えられた使命だった。
だが、カグラは勇者に近づきすぎた。いつの間にか友人のような、姉妹のような関係を作り、最後には勇者をかばって死んだ。
アスラはそれが許せなかった。
最愛の妹を身代わりにした勇者が許せなかった。
最愛の妹を殺した魔族が許せなかった。
魔族の殲滅を否定する勇者が許せなかった。
美しい妹だったのに。
従順な妹だったのに。
だからアスラは、恍惚と勇者を手にかけた。
できるならじっくりと苦しませて犯し、殺し、死体を家畜の餌にでもしたいところだったが、メイシン王子はそれを許さなかった。
生きた勇者はいらないが、遺体にはまだ政治的価値がある。
王家に逆らうことはありえない。復讐心には蓋をしておくことにした。
そしてアスラはメイシン王子、勇者の遺体、アレイスタ魔王討伐軍の第一軍とともにアレイスタ王都へと凱旋した。白馬にまたがり、王都の民の歓呼の声を一身に受けて進むメイシンは、しかし厳粛な表情を崩すことはなかった。
魔王は倒した。だが勇者もまた命を落とした。
悲しき凱旋という構図である。
王都の大路を抜け、宮殿の敷地に入ったメイシンとアスラ、勇者の棺桶を出迎えたアレイスタ王ダーレスは首尾よく魔王を倒したメイシンとアスラを讃え、戦いに倒れた勇者ヴェルクト、聖女ターシャを悼む演説をぶち、こう告げた。
「魔族との戦いは未だ終わったわけではない。南方域を平らげ、跳梁する魔族どもが一匹残らず亡び去るまで、この大いなる戦いが終わることはない! しかし、今はこの勝利を喜ぼう! この戦いに殉じた気高き勇者と聖女に感謝と追悼を! 勇者とともに戦った我らが軍士に! 我が息子メイシンに賞賛と栄誉を!」
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