第13話 鬼王権現

 俺が二人の名前を叫んだ時、俺の中に生まれたのは友達が重傷を負って倒れていることへのショックや、今までしてこなかった反撃をデーツェがしてきたことへの動揺だった。やはり奴は明らかな手抜きをしていたことを理解し、反撃しないのには理由があるという俺の淡い期待儚くも消え去った。そして奴は既に二人のことには興味が無いかのように語り始める。

「貴方のような強い方と戦いたかったんですよ。それこそが私の求める刺激ですから。」

 奴は白導院にしか興味が無いようで視線は真っ直ぐに俺の背後にいる彼女へと向けられている。俺は自分への興味が薄れていることに安堵すら覚えてしまった。コツ、コツと少しかかとの高い白い靴の音と共に彼女が俺の前へと歩みを進め、俺の前で立ち止まってから言い放つ。

「貴様の遊びに付き合うつもりはない。」

 その言葉からデーツェの挑発にのっていないことが分かるほどに白導院の言葉は冷淡だったが、かと言って奴のことを軽視しているようには聞こえなかった。そして彼女は視線をそのままに背後にいる俺に指示を出す。

「二人の救助を最優先にする。二人は下がっていろ。」

 白導院からの指示にあぁ、と応える。だが、応えた時にはデーツェは既に大鎌を振り上げて白導院へと斬りかかっていることに俺は奴が視界に映ってから気づいた。

「敵を前にして無駄話とは随分と舐めてくれるじゃないですか!」

 奴の顔は笑っていたが、語気からは怒りが滲み出ており、俺はこれまでとは別の恐怖を覚えると共に動けなかった。だが身体が硬直したのは俺だけであり、白導院は既に戦闘体勢を瞬時に整えて、銀の翼で大鎌を受け止めていた。だが白影の時のようには押し返せず、俺に向けて彼女は一言、行けと叫んだ。俺は瞬翼でその場を離脱し、少し離れた位置から、その戦いを眺めることしかできなかった。白導院は翼を、デーツェは大鎌を目で追いきれないほどのスピードで激しく衝突し合い、その衝撃がこちらまで伝わってくるほどで、その戦闘が自分とは別次元にあるものであることを思い知らされた。デーツェと白導院の戦闘の激しさは近付き難いほどの雰囲気を纏ってこの場を支配していた。俺の元にビルから降りてきた白百合さんが着地したのには気づいたが、俺は眼前で繰り広げられる戦闘に目が釘付けになっていた。すると、ずっと至近距離で戦っていた白導院がデーツェから距離を取った。動きが一瞬止まった彼女は息切れする様子もなくまだ平然としている。あれだけの攻防をしているというのにまだまだ序盤だと言わんばかりの彼女の立ち姿だった。

「色翼変化、『蒼』。」

 彼女はそう一言呟いた瞬間、彼女の銀色だった翼が蒼く輝き始め、たちまち根本から蒼色へと変化した。俺は初めて見る光景に目を丸くするが、それは俺だけではなくデーツェも同じようだった。

「ほう、ほう、ほう! これがあの白導院の力! 素晴らしい素晴らしい素晴らしい! 貴方と戦うことはまさに私が求める刺激そのものです!」

 デーツェは内に秘めた興奮を曝け出し、再度白導院の方へと距離を詰めた。その速度は俺たちが戦っていた時とは比べ物にならないほどで、俺には瞬間移動にすら見えた。この速度で動く物体を恐らく人間は視認出来ないだろう、当然白導院に動くための思考を巡らせる時間など無いはずだ。俺が次にデーツェの姿を捕捉したのは、まさに白導院へと振り下ろした大鎌が彼女に突きつけられようとした瞬間だった。あ、と思わず声が出る前に俺はその異様な状況に目を疑う。確かに大鎌の刃の先端は白導院の胸部へ向けて突きつけられようとしていた。だというのに、彼女の服にその刃が触れる前に刃の動きは止まっていた。それだけではない、止まっていたのは大鎌だけでなくデーツェ自身もだった。すると、奴の姿は胸あたりから全身にかけて、まるで薄氷に包まれるかのように青白くなっていった。

「何が起きたんだ?」

 俺は刃が白導院へと到達せず、彼女が無事であるであることは喜ばしいことなのだろうが、余りの早さに俺は白導院が何をしたのか分からなかった。

「あれが白導院さんの能力、『虹の翼』です。」

「虹の翼……。」

 今までにない翼を武器とした能力、それはデーツェをも容易く凌ぐほどの実力であり、簡単に決着がついた。呆然としている俺の背中に白百合さんの手が触れ、彼女の方を見る。

「さぁ、二人のもとに行きますよ。」

 白百合の声がけで俺は白導院に指示されたことを思い出し、重傷を負って意識が無いであろう白城と白峰の元へと走り出す。二人の身体からは血が流れており、重傷なのは間違いなかった。顔がはっきりと見える白城に関してはすっかりと顔からは血の気が引いており、今すぐにでも治療が必要なのが医学に疎い俺でも理解できるほどだった。俺は急がねばと身体を動かそうと地面を蹴る。だがどういうことか、足に力が入らずに千鳥足のようになり、視界が歪み、頭がくらくらする。デーツェとの戦闘が終わり、緊張が解けたことから起きているのかと俺は推測したが、それが外れていることはこの現象が起きているのが俺だけではないことを理解する。ドサッと音が背後したため、なんとか首を回して視線をやると、白百合さんが膝から崩れ落ちていた。

「あ、あれ? どうして……?」

 彼女も状況が理解できていないようで、はぁはぁと浅く、早く呼吸をしている。そして今度は脳内でいきなりリアンが話し始める。

「玲司、鬼王権現が来る!」

 (鬼王、権現?)

 彼女の声色からはデーツェが白影の魄を操った時以上の焦りが感じられた。名前から推察するに鬼の王が現れるということだろうか、そしてこの急な体調不良はそれの出現に伴う何かの反応というなのか。俺はまともにはたらく思考だけを頼りにするが、身体が使い物にならない以上ただの役立たずだ。それでも思考を止めないのは、自分自身で日常の平穏を取り戻したいという想いからできる俺なりの抵抗だった。

「二人とも大丈夫か?」

 この状況下でも白導院は鬼王権現とやらの影響が無いかのようにこちらへと翼で近づき、声をかけてきた。彼女だけでも無事なのは不幸中の幸いだった。俺はかろうじて動く口でなんとか言葉を発しようとした。しかし、そうする前に俺の視界には、つい言葉を失うほどの現象が映った。それは白導院によって凍らされたデーツェが佇む地面で起きており、奴を中心として血のように紅い液体の波紋が広がっていったのだ。この光景はつい先刻、デーツェがあの大鎌を取り出した時と全く同じだったが、その時と違うのはその紅い液体が覆う地面の面積で、デーツェの身体をすっぽり覆えるほどにまで広がっており、そこに足を踏み入れるのは危険だと本能が俺に訴えかけているような気がした。しかし、白導院はこの光景を前にしても恐怖で身体が動かせないでいる訳ではなかった。

「色翼変化、『黄金』。」

 彼女の翼は蒼から黄金へと色を変えると、そのまま輝き始め、俺はその眩しさに思わず手で光を遮った。なんとか指と指の隙間から何が起きているのかを目視しようとすると、俺はここでまたもや驚愕することになる。白導院の翼から発せられた光が地面に現れた紅い沼に照らされると、端から塵のように消えていくのが見えたが、途中からその様子は一変する。突然、デーツェの前に何かが地面から現れ始め、それと同時に紅い沼が塵となるのが止まった。正確には白導院の光は紅い沼を塵へとしているのだが、それと同じ速度で新たに紅い沼が生み出され、広がっているのだ。この二つの力がせめぎ合っている間、デーツェの側に新たな波紋が現れ、その中心から何かが現れた。それを一言で言い表すなら人型の何かだった、しかし明らかに人でないのはその姿、雰囲気から、あれこそがリアンの言っていた鬼王権現だと直感で理解できた。頭部から姿を現したそれは鬼を象徴するような二本の禍々しい角が頭部に生えており、肌は不気味なほどに白く、人間で言うところの白目と黒目は黒と紅であり、鋭い眼光で白導院を見据えていた。顔は中年の男性のようでありつつも豪快さを感じさせる顔つきで、上半身は服は着ておらず、盛り上がった筋肉が威圧感を出しており、下半身は黒い袴のようなものを履いている。そして特徴的なのは首と両手両足首に赤い数珠のようなものがそれぞれに巻き付いているところだった。白導院がこれ以上の黄金の翼による光が無意味だと判断したのか、光は止んだ。暫くの沈黙の後、ついにそれは言葉を発した。

「てめぇが白導院の娘か?」

 たった一言。それを発しただけで緊張が走るのが分かった。もしここで二人の会話に割り込もうとすれば即刻殺されてしまうような気すらするほどの明確な殺意が込められているようだったが、それを言った本人は一切殺気立っているような表情には見えず、むしろにやりと微笑んでいるくらいだった。

「いかにも、私は白導院真理。白導院家の現当主だ。貴様は鬼王権現だな?」

 鬼王権現、読んで字の如くというべきかまさに鬼の王に相応しい威厳を感じさせ、俺が今まで出会った鬼とは次元が違う存在のように思えた。俺の全身には鳥肌がたち、冷や汗がぶわっと溢れ、緊張のせいで呼吸が上手くできているのかすら分からない状態だった。ふと隣を見ると白百合も同じ状況らしく、額から一筋の汗が垂れているのが見え、この場でまともな思考をしているのは白導院のみだった。

「貴様は封印されていたはずだ。本来姿を現すことさえ出来ないだろう?」

 白導院は鬼の頂点に君臨するであろう鬼王権現を前にして一歩も引く気配を見せなかった。

「確かに我がこうしていられるのは無理をしているからだ。」

 鬼王権現はあっさりと自分が本来の力を出せていないことを明かした。それを俺に安堵をもたらしてくれるはずなのだが、何故かそんな気は起きず、未だ全身の緊張が消えることはない。それは鬼王権現の発する威圧感や存在感が白導院以外のこの場全てを支配しているからだった。

「ほう、そうまでしてデーツェを助けたいか。」

 白導院は普段と変わらず、他の光還者と話す時と同じように目の前の怪物と話している。その光景は人間と宇宙人が親しく話しているというSFのようにさえ思えるほど、鬼王権現は特別な存在に感じられた。

「こいつにはやってもらうことがまだまだあるんでな。ここで死んでもらうわけにはいかねぇんだ。」

 無理をしている、と言いつつも不適な笑みを浮かべる余裕すらある鬼王権現は、少し本気を出せば俺たちの命を絶やすことなど容易いと言わんばかりの態度だった。

「目の前でデーツェが連れ去られていくのをみすみす見逃すとでも思うか、鬼の王よ。」

 ここで白導院は消していた翼を再度発現させ、それで発生した風に俺は思わず身体のバランスを崩しかけた。彼女が翼を広げる、それは鬼王権現ごとデーツェをここで倒すという意思の表れのように思えた。

「やめておけ、白導院の娘。もしここで一度だけでもやりあえば、貴様はともかく後ろの奴らがひとたまりもないんじゃねぇか?」

 鬼王権現が浮かべたほんの少しの笑みはデーツェの不快で大袈裟にも思えるそれにとは全く違った。しかしその分威圧感が強く、恐怖すら感じさせる。そして今この場で白導院以外の光還者が足手まといでしかないことも理解できた。白導院の表情は俺には見えないが、翼を広げてから微動だにせず、自然と彼女の身体へと視線を動かす。

「ここは痛み分けといこうじゃねぇか、白導院の娘。我はデーツェを、お前はこの場にいる光還者全員を救うということでどうだ?」

 鬼王権現は白導院と対等に話しているようで全く違い、明らかに俺たちを見下している。それは鬼の王という自分が人間よりも上位に存在するという自負からなのかは分からない。

「貴様がその姿を維持できる時間は残りわずかではないのか? ならばそれまで私は貴様と戦う覚悟はある。」

「フッ……フハハハハ! 威勢の良い女だ、面白い!」

 鬼王権現は白導院を見下しつつも彼女のことをある程度認めるかのように高らかに空を見上げながら笑っている。笑い終えるとゆっくりと視線を下ろし、こちらを一瞥する。

「もしそうなりゃ仕方ねぇ……全員死ね。」

 そう冷酷に言い放った鬼王権現の視線は、明確な殺意をもって俺たちに向けられ、白導院の平静とした態度のおかげで一度抑えられていた緊張感は最高潮に達する。白導院は鬼王権現の短時間しかこの場にいられないという欠点を突いたが、それは奴にとって欠点となり得なかった。むしろ奴は自分の力を誇示することで自分の目標達成までの時間を短くしたと言える。彼女は数秒の思考の後に、重く口を開いた。

「分かった……それで手を打とう。」

 いつも変わらぬ声色で話す白導院だが、この時俺は初めて彼女の言葉から悔しいという感情を感じとった気がする。

「フッ……懸命だ、白導院の娘。」

 鬼王権現はそう言い残すと、紅い沼のようなもの中にデーツェ共々沈みながら消えていった。最後に見えた鬼王権現の表情は仲間を助けて敵を見逃すという判断をした白導院を嘲笑うかのようだった。そして完全に奴がその紅い池の中に姿を消していった時、俺の中にはデーツェを倒す絶好の機会を逃してしまったことへの悔しさではなく、死なずに済んだということへの安堵だけが生まれた。俺と白百合は緊張の糸が切れたのか、その場で崩れ落ち、ずっと息を止めていたかのように荒く呼吸し始める。鬼王権現が姿を消したことにより、ここが知っている世界であることを再確認する。それほど鬼の王といる空間というのは俺にとってまさに異次元だった。俺と白百合が呼吸を整えようとしている間に、白導院は白影をこちらに優しく運び、白峰も白城の近くに横たわらせた。

「色翼変化、『碧』。」

 彼女は虹の翼の能力により自らの翼を鮮やかな緑色へと変化させ、そしてその翼は輝きを保ったままでいる。俺は身体が内側から温まるような、心地のいい陽射しを受けている気分になっていくことに気づいた。そして地面に横たわっている三人に目をやると、鎧を纏っている白峰は分からないが、青ざめていた顔に血色が戻っていくのが見てとれ、白導院の翼による治癒効果なのだと分かる。デーツェに操られ白導院に強烈な一発を受けて気絶していた白影が最も早く目を覚ました。

「......あ、あれ......? 私......え!? 白導院さん!?」

「薫ちゃん!......無事で良かったぁ。」

 ゆっくりと瞼を開け、周囲を見渡した白影は目の前に白導院がいることに激しく動揺していた。それも無理はない、閃光をしたあたりからデーツェに操られたため、彼女からすれば、気がつけば戦闘は終わっており、目の前に上司がいるのだから。そんな彼女に白百合は駆け寄って抱きしめ、心の底から安堵しているようだった。未だ状況が掴み切れていない白影は近くに横たわる仲間に気づくと悲痛に叫んだ。

「堅兄と廻斗!? どうして!?」

 二人に何が起きたか知らない彼女は彼らの身体から流れていた血だまりを見て絶叫した。恐らく彼女からすれば二人が死んだのではないかとすら思えたのだろう、それに白百合が声を震わせながら抱きついたものだから最悪の想像はより現実味を持たせており、白影の目には涙が浮かんでいる。

「二人は治癒したから問題無い。」

 白導院は地面に膝をつき、白影と目線の高さを合わせてから優しく語りかけた。一瞬キョトンとした表情を浮かべた白影の瞳からは、二人が生きている安心感からか涙が溢れる。

「そうなんですか、良かった……本当に良かったぁ……!」

 白影の様子を見て白導院はさらに彼女に声をかける。

「それより薫、身体の調子はどうだ? どこかおかしな所は無いか?」

「はい……問題ありません。」

 白影は腕で涙を拭いながらなんとか自分が無事であることを言葉にした。それを聞いた白導院は少しだけ微笑んだ。俺は彼女のその表情を見て、一旦危機は去ったのだと実感する。いつも表情に変化がない分、それを見ると安心することができた。俺がそんなことを考えていると、また久しく聞いていなかったような気がする声が聞こえてきた。

「う、うぅ……。僕は……って白導院さん!?」

 次に目を覚ましたのは白城だった。彼も白影同様、白導院がこの場にいることに驚きを露わにした。やはり光還者の彼らにとって白導院という存在が大きく、彼女が戦闘に赴くことがどれほど重大なことなのかを思い知る。

「って薫ちゃん、大丈夫なの? デーツェに操られてたけど。」

 白城も涙を流す、という展開にはならずに彼は敵に操られていた白影を見るとその身を案じた。

「え、そうなの!? そう言えばあいつに閃光かまそうとした辺りから記憶が無いけど私って操られてたの!?」

 白影は今日一番のショックを受けたようで、呆然としている。

「そうなのよ、心配したんですよ。」

 白百合は落ち着いたのか、まだ涙で赤くなっている瞳のまま白影の両肩に手を当てて目を見る。

「私誰かに怪我させたりした? もしかして二人は……。」

 彼女は白峰と白城に大怪我を負わせたのは自分なのではないかと恐れていた。

「いやいや、薫ちゃんにやられたんじゃないんだ。僕と暁堅はデーツェにやられたんだよ。」

 白城がすぐに訂正したからほっと息をついていたが、まだ動揺は消えていないようだった。

「う、うぅ……。」

 鎧が軋む音と共に今日何度目かの呻き声が聞こえる。それが最後まで目を覚ましていなかった白峰だろうとすぐに分かったが、改めて彼が身体を動かしているのをこの目で視認するとやはり喜びが自然と込み上げてくる。

「は、白導院さん!?」

 もはや定番となりつつある反応に俺はつい笑ってしまった。それにこれほど取り乱す白峰も珍しい。

「全員同じ反応するのかよ。」

 俺のツッコミに最初に反応したのは白百合だった。

「フフ、確かにそうですね。皆白導院さんを見て驚いていました。」

 彼女はいつもの和やかで包容力のある声で笑った。その反応を見ると自然と空気が軽くなり、自分の家に帰って来たかのような感覚になった。

「そりゃ、白導院さんがいきなり目の前に現れたら驚くでしょ。」

「ほう、白影は私に会うことにやましさを感じているのか?」

 白導院は白影の発言に対して即座に反応した。これは彼女なりの冗談なのか、それとも本気で言っているのかは、あの感情を抑えたような声色で言っている状態では判断出来なかった。

「いや、そういう訳じゃないですよ! 普段顔合わせることがないから……て、そんなこと言ったら堅兄と廻斗だって同じ反応したじゃん!」

「さ、何のことかな? 僕全然覚えてないや。」

「……俺は言って……ない。」

 白城はそうそうに自分の発言を記憶から消したらしいが、白峰は言葉を詰まらせたのが、馬鹿真面目な彼らしい。白導院はそんな彼女らのやり取りを見てフッと笑っていた。初めて白導院が笑うところを見た気がした俺は、彼女らの会話を離れた場所から見ているような気分だった。

 白影が二人から裏切られたことで未だ拗ねている中、白導院が口を開いた。

「ひとまず皆無事で何よりだ、今日はもう帰るとしよう。」

 彼女の号令で俺も含めて皆が一斉に翼を広げて上空へと飛び立つ。

「あの、白導院さん? 私やましいこととか無いんですけど。白導院さーん!」

 白影の叫び声は虚しくも白導院に聞き流されているようで、彼女は振り返ることなく俺たちを置いて行くように飛翔し、俺たちは笑いながら帰路についた。

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