第6話 白導院カフェ
白峰に連れてこられたカフェは二階建ての建物で一階部分がカフェになっており、屋根は右肩下がりと、特徴的な見た目をしている。壁はクリーム色であり、正面には緑の木製の柱が両側と上を囲み、上側の柱にはカフェの店名と思しき金色の英単語が装飾されている。臨時休業の張り紙がされているガラスの扉を開くと、眼前には想像通りと言えるカフェの風景が広がっており、会議とは一体誰とやるのか、何人参加するのかなどは見当もつかない。
「こっちだ。」
また無機質な白峰の声が聞こえると、そして彼がドアを開けると、カフェの内装がより鮮明となって目に飛び込んできた。目の前にはカウンター席と会計を行うためのレジと二階へ続いているであろう階段が、そして左側には黄土色の木製の椅子と黒い円形のテーブルがいくつも配置されているが、臨時休業のために人は誰もいない。俺は店内を見渡していると、白峰が声をかけてきた。
「玲司、もうすぐ会議が始まるぞ。」
白峰は既に階段を登っており、俺は彼に続いた。壁沿いに続く階段を登りきると、一階の店の雰囲気とは異なる白い壁と床の部屋に辿り着いた。そこには店の前から空までを一目で見渡せるほど大きな一面に広がる窓ガラス、そしてキッチンとダイニング、リビングが一つの空間になっているおり、壁にはドアが付いている。そしてキッチンの目の前にある黒い長テーブルを囲む白い椅子に白峰と似た格好をした男女四人が座っているのだが、一人は真ん中に、他三人がその一人を挟むようにテーブルを囲んでおり、こちらをじっと見ている。
「白導院さん、丹羽玲司を連れてきました。」
「ありがとう、白峰。二人とも掛けたまえ。」
白導院と呼ばれた彼女に指示されると、白峰が迷うことなく空いていた二つの椅子の内の一つに座り、俺は最後に残っていた椅子に座った。すると、白導院がちょうど目の前にいる状態になった。白導院という名を聞いて、俺は目の前にいる彼女が数年前に電話をかけてきた女性なのだと分かった。その名字から察するに白導院という組織のリーダーであろう彼女の美しい白髪に金色の瞳という日本人離れした容姿に思わず目を奪われた。彼女は、白峰と俺のことをそれぞれ目を合わせた。
「丹羽君は久しぶりだな。改めて自己紹介しよう、私は白導院真里、白導院の長を勤めている者だ。」
彼女は俺の目を真っ直ぐに見てくるためか、俺は緊張した。電話越しと生で見るのでは迫力があまりに違う、それほど彼女の存在感は一際強く映った。
「そして私が白影薫。見ての通り、白導院に所属する光還者よ。」
そして白導院から見て右側の二番目の椅子に座っている少女が自己紹介を始める。白峰と同じく、俺と同年代と思われた。そして組織にとっての正装であろう白い修道服のような服を着ており、赤い髪を後ろでポニーテールにして纏め、橙色の瞳に整った顔をしている。
「初めまして、白百合奏と申します。」
次に自己紹介をしたのは、白導院から見て左斜め前に座る成人女性で、白百合の髪飾りを身につけた水色の髪が伸びている。大人の柔和な雰囲気を漂わせながら蒼い眼でこちらを眺め、ご丁寧にもわざわざ椅子から立ち上がり、こちらへ会釈をしてきたので、俺も軽く会釈を返す。
「最後に、僕は白城廻斗。よろしくね。」
白百合の左隣に座る青年が自己紹介をする。最後に喋った彼は茶髪の明るい好青年という感じだった。高校に通っている、もしくは通っていたなら間違いなくモテるであろうイケメンという第一印象を抱くほどに清潔感が溢れていた。そして俺は彼らの名前に全て白という文字が入っていることが気になったが今は聞くようなタイミングではないような気がした。
「それでは会議を始める。」
一通りの自己紹介が済んだところで白導院が音頭を取った。その瞬間に俺たちのいる空間に緊張が走ったかのような感覚が生まれる。だが恐怖を感じることはなく、俺の言葉で言い表すならば、休み時間が終わり授業が始まる瞬間に似ている。
「今日の最初の議題は、近年における鬼の出現増加の原因と考えられる存在、デーツェについてだ。先日、白峰と丹羽君が大型の犬の鬼に遭遇、鎮めることに成功したが、直後にデーツェが出現、手も足も出ぬまま敵は姿を消した。」
白導院が簡潔に俺たちの身に起きた出来事をまとめた。それは数年前に感じたのと同じで、大人の風格があり、淡々と話を進めているがどこか安心感を抱くような感覚がより鮮明に感じられた。
「特に注目すべきなのはデーツェ本人が現れたことだ。奴は人間の身体を借りることなく、天使本来の力を使えると分かった。」
「何それ、チートじゃないですか。」
厳かな雰囲気に包まれたまま、白影が両手を後頭部に当てながらきっぱりと言ってのけた。俺はてっきり白導院から怒られるのかとも思ったが、白影の言葉がこの場にいる光還者の総意であったようで、彼女を咎める者はいなかった。その証拠に、俺以外の皆が厳しい表情を浮かべている。
「それじゃあ僕たち全員で戦って勝てるか、ということですか?」
白城が神妙な面持ちで白導院に尋ねる。確かに俺はリアンの力を借りている状態であり、この反応を見るに白導院のメンバーもそうだろう。だが、デーツェはなんらかの方法で天使本来の力を行使している。
「デーツェは一番の難敵だが、デーツェが生み出しているという鬼も厄介だ。白峰からの報告では、奴は魄を意図的に操作、合成する能力を持っているらしい。」
白導院の話を聞くほどデーツェに勝てる見込みが無いような気分に陥る。それだというのに白導院はさらに追い打ちをかけるように自分の推測を語っていく。
「このままデーツェを放っておけば鬼の凶暴化が続き、組織のように徒党を組む可能性がある。よって、早急に対処しなければならないのだが……。」
白導院はそう言うが、策の立てようが無いせいか最後に言葉を濁さざるをえなくなっていた。
「現状、デーツェとの戦いは現実的ではありません。そもそも天使の力をそのまま行使する相手に対して我々は総力戦を仕掛ける以外に勝ち目は無いでしょう。」
白峰は冷静に状況を分析するが、相手が都合よくそんな状況を作らせてくれるかはかなり怪しかった。そもそも教会はデーツェの足取りを掴んでおらず、奴は神出鬼没だ。そんな相手がちょうど全員揃うタイミングでのこのこと姿を現すとは到底考えられなかった。
「少なくとも、デーツェとの遭遇時はすぐに救援を送ることを最優先とする。そしてここからが本題だ。」
白導院は両肘をテーブルにつけ、指を交差させた。その手の上からは彼女の眼差しがよりはっきりと強調され、恐ろしげともとれふ眼光が輝いているように見えた。ゴクリ、と俺は緊張ゆえに唾を飲み込んだ。
「我々の戦力増強のため、丹羽玲司を正式に白導院教会の光還者として迎えたい。」
(「は?」)
考えるよりも先に反射で俺は言葉を出していた。そしてそれは俺だけでなくリアンも同じようであり、もし彼女の顔が見られたなら、俺たちはきっと全く同じ顔をしていることだろう。
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