第4話 ユオグレイブの町 1
「う……」
「
「……
「動かれぬ方がよい。間もなく町に着く。そこで手当てと説明を受けるといい。其方らの今の状況も、それでだいぶ理解できるはず」
「え、あ、っ、あの、え? だ、誰?」
目が覚めると、
降りようとするが腹や肩や頭がミシミシと痛む。
その痛みで、自分がなにをされたのかを思い出す。
「あ……あの、ここは……」
「町の者に聞くといい。拙者よりも詳しく懇切丁寧に教えてくれるであろう」
「は……はい……わかり、ました」
「見えてきた。あれが『ユオグレイブの町』だ」
「わっ……お、大きい町ですね」
高い建物が建ち並ぶ、近代的な町が見えた。
町からは線路も延びており、列車も通っているらしい。
思ったよりも科学が発展しているのだろうか。
「あ、あの、
「いいや。拙者は主人のもとへ戻る。拙者のような“召喚魔”は未登録であれば主人が罪に問われる。あまり深掘りはされたくないのだ」
「そう、ですか」
期待を寄せていた
ぼんやりと背負われていたが、そういえば自分が気絶したあとどうなってしまったのだろう?
「わあ……高い壁があるんですね」
「町の外は基本的に魔獣が出ますから、戦う力のない者は町から出ない。西門から入る。こちらだ」
「は、はい」
門には門番がおり、まばらに出入りする人間たちを精査していた。
「止まれ。なんだお前たちは!」
「あ、あの、オレたちは――」
「拙者は『甘露の森』を主人とともに調べていた者。洞窟を見つけ、中を調べようとしたところこの者たちが現れた。事情はこの町の者に話した方がよいと判断し、拙者の判断で連れてきたまで。おそらく召喚事故の被害者ではないかと思うのだが、この町の召喚警騎士団に保護をしてもらうことはできないか? こちらの娘は怪我も負っている」
「召喚事故だと? ……確かに怪我をしているな……。そちらの少年は話せるのか? 言葉はわかるか?」
「は、はい」
「八世界のどれでもなさそうだぞ」
「まさか――例の世界から?」
訝しんで見られていたところ、門番のうちの一人が「とにかく連絡しよう」と言い出す。
「あとのことはお任せしてよいか?」
「ああ、召喚警騎士団に連絡しておこう」
話がサクサクと進む。
残念ながら、
ジクジクと、ずっと痛んでいる。
一応うっすら目を開けて、聞き耳は立てているけれど、なすがままだ。
「ねえねえ、どうしたの?」
「お、ノイン。ちょうどよかった! この召喚魔が召喚事故の被害者を連れてきたと言うんだ。どう思う?」
「へー、どれどれ? ……本当だ、珍しい格好だね。言葉は通じるの?」
「ああ」
「って、こっちのお姉さん頭を怪我しているじゃないか! だめだよ、早く手当しないと! 病院に連絡して! 召喚警騎士団には連絡した?」
「い、いや、今しようと思っていたんだ」
町の中から出てきた長い髪を後ろで一本に結った、銀髪青眼の男の子。
十代前半のような幼い容姿だが、腰には立派な剣を下げていた。
門番たちは、彼にやたらと意見を求める。
「とりあえず壁内の医療室に運んで手当てだけしよう。えーと、召喚魔のお兄さん、名前は? 登録カード持ってるかな?」
「いえ、拙者は二十年前の戦争で呼び出され、死に損なった野良故。主人としていただいた方も正式な召喚魔法師ではございません」
「あー……そっち系の人かぁ……。じゃあ、住んでいる場所は?」
「主人は旅をしながら動植物を研究しているので、定住地はありません。それ故に面倒ごとは避けたく思うておりました。しかしながら、怪我をした
「う、うーん……そう。それなら仕方ないね。じゃあせめて名前だけでも教えてくれるかな? 君と主人さんの」
「拙者は
「わかった。では彼らはここで我々が預かろう。助けてくれてありがとう」
兵士に
実に事務的だ。
まるで手慣れている。
それに、ほとんど嘘を言っていないようだった。
「野良召喚魔か。それにしてはしっかりしていたなぁ」
「あれは
「ひえ! そ、そんなに強いのか」
「そんなのに認められるんだから、主人さんはよほど人格者なんだろうね。さてと、お姉さんを早く医務室に連れて行ってあげよう! 警騎士団の人や病院の人が来たら医務室に来てもらって」
「あ、ああ」
サクサクと物事を決めていく少年は、「こっちだよ」と勝手知ったる様子で壁内に入っていく。
お腹が痛い。頭も、肩も。
けれど、もう少しで治療を受けられる。
「えーと、お姉さんとお兄さん、名前を聞いてもいいかな? ボクはノイン・キルト!
「騎士……? この世界、騎士がいるんだ……。あ、ええと、オレは
「え、お兄さんも苗字持ちなんだね。へー、珍しいなぁ」
「こっちは
「こっちのお姉さんも苗字持ち? なんかすごいね?」
「え? ええと、君も苗字があるみたいだけど……」
喋る元気がないので、
「三等級以上の騎士にならないと、苗字はもらえないんだよ。三等級になると騎士爵が認められて、苗字が必要になるんだ」
「は、はあ……」
「よくわからない? うーん……異世界の人に説明するの難しいなぁ。あ、ここが医務室だよ。医務員さーん、怪我人でーす」
医務室に
医務員の男性は「頭は病院で精密検査をしてもらった方がいいし、肩は多分骨が折れてる。腹もちゃんとレントゲンを撮って調べた方がいいな」と応急処置だけしてくれた。
やはり、かなり手ひどくやられたようだ。
「あ……あの……私たち以外にも、まだ洞窟に……同じように、捕まっている人たちがいるんです……助けてくれませんか……?」
「あ、そ、そうだ! そうなんです! 洞窟の中に牢屋があって、オレたち気がついたらそこにいて……他にも十人くらいの人が牢に捕まったままなんです!」
「え! 他にもいるの!?」
手当を受けながら、
あの人たちも、早く助けてあげなければ。
「……えっと、まず、多分お姉さんとお兄さんを召喚した召喚魔法師が側にいたと思うんだけど、そいつの名前とか顔とかはわかるかな?」
「名前……」
「それなら、オレが聞いたのは……確か――ダロ、ダリ、グロ、ログ? ……とか、なんとか……二メートルくらいある大男で、背中に剣を背負っていました。あと、アッシュってグレーの髪の若い男の人と、顔を隠した黒いマントの人たち」
一人だけ名前がややこしくて、曖昧になっているけれど。
しかしそれを聞いてノインはソファーから立ち上がって声を上げる。
「アッシュ!? アッシュって言った!? まさか……ちょっと待って」
「は、はい?」
腰のポシェットから手のひらサイズの端末を取り出すと、指でなにか操作する。
スマートフォンのようなものが、この世界にもあるらしい。
やはり思ったより科学が進歩した世界のようだ。
間もなくノインが画面を
「コイツ!?」
「あ、こ、この人です」
「マジか!!」
そしてすぐに医務室に同行していた兵士に「すぐ警騎士団と冒険者協会に連絡して! A級広域指名手配犯の目撃情報だよ!」と叫ぶ。
それにギョッとした兵士が、慌てて医務室を飛び出す。
「ゆ、有名なんですか?」
「『赤い靴跡』っていう犯罪代行組織があるんだけど、その実働部隊の幹部の一人だね。A級広域指名手配犯ともなると懸賞金額が億越えだよ」
「億……!」
物価がどれほどのものかは謎だが、億越えは元の世界でも大金だ。
そんな大物の犯罪者だったとは。
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