第3話 異世界 2
「
「頭を怪我しているやつを迂闊に動かすな」
「あっ」
強襲者は
そういえばこの男、
実質助けられたようなものだ。
もしかしたら、敵ではないのでは、と見上げる。
「金次第でテメェについてやってもいいんだぜ?」
「足手纏いは要らん。だが今に限ってはこれで手を引け」
「あ?」
しれっと左腕の拘束を外し、懐からなにかを放り投げる。
小さな部品のようなものと、リンゴに似た果実。
それを受け取ったアッシュはズボンのポケットから黒い端末を取り出して、受け取ったものを差し込む。
「ンだこりゃ」
「ユオグレイブの町の、隠れ家に使えそうなポイントだ。俺が使おうと思っているところは除いてあるから、使いたければ使え。あの町はデカいから適度な稼ぎにはなるんじゃねーの」
「ふーん……悪くねぇな」
「ダロアログとは手を切れよ。次はねぇぞ」
「ま、いいわ。テメェと正面からやり合うよりはこっちの方が儲かりそうだかんな」
「本当に儲けるのなら王都の方がいいぞ。腐った貴族がゴロゴロしている」
「あっちは兄貴の縄張りなんだよ」
「ああ、しがらみがあるやつは色々面倒くさそうだな」
強襲者はスタスタと牢のところも、アッシュという男もすり抜けて奥の部屋へと入っていく。
棚の本を開いてパラパラ読み、重ねていった。
「なあ、ダロアログのおっさんなにしようとしてんだ? こんなデケェ召喚魔法陣なんざ作ってよォ」
「このネタで脅すつもりならやめておけ。あのジジイ、金なんか持ってねぇぞ」
「クヒヒヒ、いいんだよ。あのおっさんが金稼ぐのなんてすぐだろう。さっきもあのガキで楽しもうとしてたしなぁ。お、そうだ。その小僧だけ連れてくぞ」
「は、はい」
「っ」
振り返ったアッシュの指示で、強襲者に投げ飛ばされたタックという男が
あの変態大男のところに連れて行かれる?
だとしたら、今度こそあの男に――。
「い、嫌だ!」
「おい……アッシュ」
「なんだよ。テメェにはこの小僧たちのことは関係な――」
リンゴに似た果実を齧っていたアッシュが、果実から口を離す。
肩越しに振り返った男の目が、殺意に満ちていた。
「俺が、あのクソ野郎の楽しみを――ほんの一時でも許せるとでも思ってんのか?」
「ッッッッ」
素人でもわかるほどの漏れ出る殺意。
胃の中のものが戻ってきそうだ。
これだけ離れている
「――あー……わかったわかった。でもあの小僧はうちに寄越せよ。【竜公国ドラゴニクセル】の召喚適性があるらしいんだわ」
「へぇ。でもお前んとこ召喚術を教えるような召喚魔法師いんの?」
「…………」
「いねぇなら諦めな。他所に委託するにしても時間も金も食うぞ」
「クッソ」
舌打ちして、アッシュは果実をガブガブとやけ食い。
種と芯の部分を地面に放り投げて、タックへ「生きてるやつまとめて出るぞ」と指示を出す。
「って誰も殺してねぇのかよ」
「弱いやつには興味ねぇ。二度目までは手加減してやるけど、三度目はねぇぞ」
「チッ! ホンットテメェのそういうところムカつくぜ!」
黒マントの男たちが洞窟の中から立ち去ると、ページをめくる音だけが残る。
敵意のようなものは感じないし、害意もなさそうだが
あの人数を相手に一切引けを取らず、ダロアログという大男は強襲者を見ただけで逃げ出すほどだ。
だが、このままでは埒が開かない。
(
意を決して、
「あ、あの……た、助けてくれませんか?」
他の誰も言えなかったことを、
息を呑む牢の者たち。
強襲者は、ゆっくりと振り返る。
「
「はっ」
「うわっ」
真横に突然仮面の忍びが現れた。
心臓がバクバクと鳴る。
本当に、本物の忍者だ。
だが、その頭には
人間では、ない。
「ユオグレイブの町まで案内してやれ。そのガキと、横たわっている小娘は怪我がひどい。お前が背負って連れて行け」
「治癒なさらないのですか?」
「怪我をしている方が町の奴らも受け入れ易かろう。小僧、テメェも俺に助けられたとか余計なことは言うなよ。助かるものも助からなくなるぞ」
「え? えっと、で、でも」
本を閉じる音。
強襲者は棚の本を数冊まとめると、懐から巻き物を取り出す。
紐を解いて巻き物を広げると、本をその中へと放り投げていく。
消えていく本にギョッとしていると、強襲者はジロリと
「町のやつらには悪党同士の小競り合いに巻き込まれ、たまたま助かったと言え。
「……」
真深くフードを被り、鼻の上の方までマントのフードで顔を覆っていてどんな表情なのかはわからない。
しかし、ここまで適切に指示をするのに徹底的に自分の存在を隠そうとする。
「なんでですか? あの、あなたは――」
「俺はさっきのやつらよりも賞金が高い、広域指名手配の賞金首だぜ。わかったらさっさと行け。
「っ」
楽しげな声。
立ち上がった
なんとなく、先程の黒マントたちの纏っていたものに似ているような。
「これを羽織ってください。拙者が怪しまれてしまいます」
「あ、は、はい。ありがとうございます」
「こちらのお嬢さんは拙者が背負いますので、ついてきてください。
「許す。さっさと行け」
――ここは、異世界だ。
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