第9話 魔物狩り(3)
【ティンティア・ルーリナイト】
「ギーリンーー!」
私はかなり奥まで走っていったギーリンの名を叫んだ。アイツはどんだけ魔物不足なんだよ?!
炎の魔法を足に纏わせ加速する。
走り続けるギーリンの姿が目に捉えられた。その途端に手を伸ばし、ギーリンの足元に数センチほどの土の山を作る。
「うおっ?!」
案の定ギーリンはバランスを崩し頭から地面に倒れた。
うわ…痛そ…
哀れみの目でギーリンを見ながらギーリンに追いつく。
「うわ!?何だこりゃ?!」
「私の魔法ですぅ。ギーリンが突っ走っていくからしょうがなかったの。ごめんね?」
悪気は一切ないが、一応(煽り風に)謝っておく。まだ痛みが収まらなくてもフィリーの癒やしはやらんぞ!
「ギーリン!ティア!」
「イレス」
切羽詰まった声が聞こえたと思ったらイレス
が息を切らしてこっちに来た。そんなにギーリンが心配だったのか?
イレスは立ち止まっている私達を見てホッとしたような表情を見せた。
「良かった……魔物に襲われてるかと思ったよ……」
イレスはそう言った後、私の腕をひいてその場から離れようとした。
「ほら!魔物とあわないうちに逃げよ……!」
「ティンティア!ギーリンが向こう行ったぞ」
フィーストがギーリンの行った方へ指をさした。確かにぼんやりと人影が見えるような……。
「「はあ?!」」
イレスと声が被る。怒りの声を出したのは自分だけかと思っていたので驚いた。
また追いかけようとしたら、ギーリンは自分でこちらへと戻ってきた。
「おいお前ら!あっちに開けた場所があったぞ!」
行こうぜ!とギーリンがそれは嬉しそうに言った。
その瞬間、辺りが暗闇に包まれた。
『お母さん…お父さん……!!』
闇の中でそんな悲痛な声が響き渡った。声の主を探そうとしても全体から声が響いてくるので分からない。
「フィリー!イレス!メルン!シノン!リフィア!男子達!」
誰か!
そんな思いを込めて叫んだけれど、返事は返ってこない。
個々に闇に閉じ込められた?
『待っててね……今…一人ずつ確実に殺るから……』
恨みがましいような声と共に何かが飛んできた。
「っ……?!」
その途端、ギィンッと金属同士がぶつかり合う轟音が響き、私の目の前には炎の盾とそれに突き刺さる闇に包まれた刃物のようなものが見えた。
背筋が寒くなる。
私、反射神経良くてよかった!死ぬところだったよ……!
胸の鼓動が速くなっていく。
その間にも攻撃は続く。炎の盾があっという間に壊れてしまうのでその度に作り直す。
『全員…しぶとい…』
「でも」
その声が楽しそうなものに変わった。
『D組とC組は…そろそろ終わりかな…』
「……!!」
みんな、この攻撃を受けてるの?!フィリーは……?!
漏れないようにフタをして溜めていた不安がとうとう弾けてこちらに押し寄せてきた。
真っ暗だった目の前が更に暗くなる。
ふらり、とよろけた。
シュウウウ……という蒸発音と共に体の
やば……魔法が勝手に発動してる……
止めようと思っても自分の意思では止まらない。
私は精神が不安定になると、魔法が暴走してしまう
しかも精神が不安定になったのは久しぶりだ。ちょっとやばいかもしれない。
勝手に私の手が動き、炎の盾を強化した。
何をしたんだろう、と思いよく見てみると、剣が盾に突き刺さった後、剣が盾に吸収されたではないか。
そして、剣が盾から出てきたと思ったら炎の魔剣となって闇へと飛んでいった。
あれ、誰かにぶつかんないよね?
そんな不安に駆られていた時。
「まさか、反撃してくるとは思わなかったよ」
「!!」
声が目の前から聞こえた。
炎の盾がスッと消える。
この声は……!
「イレス…?」
足音と共に姿を現したのは────イレスだった。
【フィリー・ルーリナイト】
「待って…!」
私は足が遅いほうだから…。
そこでお姉ちゃんが魔法を使った。
そっか、その手があったのかと私も風の魔法で加速をした。
お姉ちゃんたちが見えたっ!
……え?
お姉ちゃん達はなにか言い合いをしていた。
ギーリンくんの少し先に土の山ができている。
ああ、お姉ちゃんは土の魔法を使ってギーリンくんが転ぶように仕掛けたのか。
私はその状況を理解した。
「うわ!?何だこりゃ?!」
「私の魔法ですぅ。ギーリンが突っ走っていくからしょうがなかったの。ごめんね?」
お姉ちゃん…!?お姉ちゃんって謝ることできたんだ…びっくりだ…っ。
「ギーリン!ティア!」
「イレス」
イレスちゃんが息を切らして私達の方へと走ってきた。
「良かった……魔物に襲われてるかと思ったよ……」
すごく安心している様子のイレスちゃんに私は逆に心配になった。
そ、そんなに強い魔物なの…?
「ほら!魔物とあわないうちに逃げよ……!」
「ティンティア!ギーリンが向こう行ったぞ」
………。
「「はあ?!」」
お姉ちゃんとイレスちゃんの声がぴったり重なった。
その気持ちはすんごくわかるよ…。
お姉ちゃん達がまた走り出そうとした時にギーリンくんはすごい速さで戻ってきた。
「おいお前ら!あっちに開けた場所があったぞ!」
目をキラキラさせて興奮気味のギーリンくんに苦笑いを浮かべる。
すると、私の視界が真っ暗になった。
……いや、私がじゃない、そこ全体が黒いなにかに包まれたのか。
『お母さん…お父さん……!!』
誰かのすごく苦しそうで悲しそうな声が聞こえる。
そこではっとした。
この声、このすごく悲痛な声、聞いたことある…!
どこで?と必死に考える。
けれど、この状況に頭が混乱して全然思い出せない。
「怖い…」
思わずつぶやいた。
私の声以外誰の声も聞こえない。
あの悲痛に歪んだ声が繰り返し響き渡る。
今頃、お姉ちゃんはどうしているだろうか。
メルンちゃんとリフィアちゃんは怖くて泣いていないだろうか。
シノンちゃんは黒い霧の中をさまよってないだろうか。
ギーリンくん達は変なところに行っていないだろうか。
皆、生きているだろうか?
と言うか、それよりもこの霧をどうにかしなきゃ…。
両手の甲をあわせて前に突き出す。
そうすると、手の中に小さな光る玉が出てきた。
ふぅ、これで周りが見える……って、ただ明かりがついただけであたりは真っ暗だ。
はぁ、結局変わんないか…。
仲間の声や姿が見えないと希望が見えない。
ぎゅっと目をつぶると頬になにか生暖かいものがつたった。
そっと手を頬に当てると手は、少し濡れていた。
ああ、私泣いてたんだ。
こんなところで弱気になっちゃ駄目、と涙を乱暴にぬぐう。
皆がいなくても大丈夫な勇敢な人になりたい。
そう思ってつぶっていた目を睨むようにして開ける。
「頑張んなきゃ…」
そうして、私は少しずつ怖がるように固まって動かない足を引きずりながら真っ暗な前へと進んだ。
前に進んでいくが本当に何にもない。
いや、あるんだろうけどこの闇の力が強力すぎてない事になってしまっているのだろう。
ふと、足を止める。
なにか聞こえる。
誰かが〝なにか〟と、戦っているような音。
その方向へ進もうとしたが、音の範囲が広すぎてどこで起こっているのかわからない。
う~ん…と悩んでいたら急にまたしの周りを囲むように闇で染まった真っ黒な剣が現れた。
「ひゃあっ!」
私はとっさに光の盾を作った。
その盾に剣はグサッと嫌な音を立てて突き刺さった。
ふぅ、怖かった…。
完全に安心しきってるところにまた剣が……。
「きゃああっ」
今回は避けられない!
ぎゅっと目をつぶって痛みを待つ。
が、いくら待っても痛みは襲ってこない。
代わりに誰かのはぁはぁという息が聞こえた。
ゆっくり目を開けると前には汗を垂らしてニカッと笑ったギーリンくんとギーリンくんの分身が私達を守るように立っていた。
「ギーリンくん…っ!?」
「助けに来たぜ…!」
走ってきたのか少し疲れているギーリンくんの笑顔が今はすごいキラキラと光って見えた。
じわぁと前とは違う涙がこぼれた。
「よかった、よかったよぉ…っ…!」
そう言って、ギーリンくんに抱きついた。
「うおっ!」
「よかった…」
こんなに安心したのはいつぶりだろう。
「…俺もフィリーが無事でよかった」
ギーリンくんの表情は見えないけど耳が真っ赤になっていたから泣いてるのかな?と思った。
それに、私のことを心配してくれてたのが嬉しかった。
「ありがとう…」
感謝の気持ちを込めてもう一度強く抱きしめた。
「フィリー、俺的にはこのままでもいいけどフィリーが怪我したら嫌だから…その……」
そこではっとした。
私、ギーリンくんに抱きついてるっ!?
「ごご、ごめんね!」
勢いよく離れたせいで私は体制を崩して転びそうになった。
「フィ、フィリー。危ないから気をつけて」
ギーリンくんは転びそうになった私の手を引いて立たせてくれた。
「は、はい…」
注意されてしまった。
そして、助けられてしまった。
「また言うけどありがとう」
お礼を言ってニコっと笑うとギーリンくんが親指を立てて笑ってくれた。
ギーリンくんは優しいなぁ…。
あの笑顔を見てるとつい笑顔になっちゃう。
って、早く盾を…。
また、光の盾を作って今度はギーリンくんも守られるように2つ作った。
私、他にできることないのかな。
考えてみるが〝盾を作る〟ことしか思い浮かばない。
参考にしようとギーリンくんが魔法を使っているところを横目で見る。
ん…?ギーリンくん、片方の腕をわざと使わないようにしてる…?
そこで、はっとした。
もしかして!
「ギーリンくんもしかして、腕、怪我してる?」
「え!?い、いや…その」
…絶対怪我してるな。
私には光の魔法がある。光の魔法は治癒魔法に似ているからギーリンくんの怪我だって治すことはできるだろう。
「少し動かないで!」
強めにそう言って、2つの魔法を使う。
1つ目の光魔法はギーリンくんの怪我を癒すために。
2つ目は風魔法で四方八方から飛んでくる闇に染まった剣を風で違う方向へと飛ばすために。
「フィリーって2つも魔法使えたのか!?」とか、なんとか言ってるけど集中している私の耳には入らない。
光がギーリンくんの腕の周りを回る。
「はい、できたよ」
そう言って、ギーリンくんの腕を離した。
「おおっ、治ってる!ありがとう!」
ギーリンくんが嬉しそうに笑った。
双子の無双物語 ふゆなち @huyunati
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