第8話 魔物狩り(2)
【ティンティア・ルーリナイト】
ザッザッザッザッ
石と土が混ざった地面を踏み、私達『1』グループは他のグループより一足遅れて探索を進めていた。
森なので当然虫がわんさかといる。
虫が飛んでくるたびにメルンを中心とした女子たちが叫ぶ。
「早く魔物、出てこないかなぁ~」
女子たちの阿鼻叫喚の嵐が聞こえないかのように楽しそうにつぶやくギーリン。
なんでこんなにうるさい中一人だけ平気なんだ………?
ギーリンのウキウキとした表情とは裏腹に、イレスの表情は暗い。なにかに怯えているように真っ青だ。
「イレス」
「この森…は……」
声をかけてもイレスは気がつかずに、ぶつぶつと何やらつぶやいている。
「イレス」
「……………」
「イレス!」
「っ…何?」
まるで恐ろしいものを見るような目が向けられる。
「どうしたの?そんなに虫が怖かった?」
「あ……うん!私、虫無理なんだよねぇ。」
あはは、と笑顔をつくりきゃあきゃあ騒ぐ女子たちのほうへ駆けていった。
ぽつん、と一人取り残された私にはなんとも言えない感情が駆け巡る。
イレスに何かを隠された気がして、モヤモヤする。
「ねぇティアぁ!この虫なんとかしてぇ!!」
初めて感じる感情を胸の奥に押し込めてメルンの方へと走り出した。
───────
「────なぁ」
「うん。分かってるからフィーストは黙ってて」
「全くいなくね?魔物」
「黙っててって言ったよね?!」
言うことを聞かないフィーストに驚く。
フィースト・フェンタス。私と同じA組。
紅葉色の艶めいた髪は寝癖で適度に逆立っている。プレーナイトのように澄んだ黄緑の瞳。背は私より少し大きいくらいの野性味が溢れた少年だ。炎の魔法でも使いそうな見た目と性格だが、使える魔法はまさかの治癒魔法。本人も不満に思っているらしい。
「他のチームの声も聞こえなくなったわね。相当奥に潜り込んだみたい。」
メルンが心配そうに顔を暗くしてつぶやく。奥に移動しすぎたせいか、もう森の中は真っ暗だ。決して夜というわけではない。木が多すぎて太陽の光が届かないのだ。
なぜか見覚えがある気がした。こんな森来たことないのに。
「ねぇねぇ。あっち行ってみようよ。」
メルンが枝分かれした道の一つを指さした。
その瞬間。
「駄目!!」
イレスが悲鳴に近い叫び声を上げた。
驚いてイレスに顔を向ける。イレスは荒い呼吸を繰り返し、辛そうな表情で私達を睨みつけていた。
その顔は、いつか見た誰かとそっくりだった。
「イ、イレス?」
そっと声をかけると、我に返ったようにイレスの顔がいつものに戻る。
「あぁ、ごめんね。この先に凄く強い魔物がいて……そいつに殺されかけたことがあってトラウマなんだ。」
早口で話すイレス。モヤモヤが溜まる。
「マジで?!あの先に強ぇ魔物がいんのか?!行こうぜ!!」
ギーリンが目を輝かせてその道へと駆け出していった。魔物と戦いたくて仕方ないのだろうか。
「おい。ギーリンを追うぞ。チッあいつ勝手に行動しやがって……」
ルイスが舌打ち混じりにギーリンの後を追う。
「私達も行くわよぉ!……チッ」
メルンがそう言ってみんなを引き連れていく。最後の物騒な舌打ちは気のせいかな…?
気のせいにすることにして私達はギーリンの後をため息混じりに追った。
「待って……!!」
誰かのそんな悲痛な声は届かなかった。
───────
森の奥に走っていったティンティアたちを呆然と見つめる人影があった。
背中に溢れた
影は怒りで震えた。
「お母さん、お父さん。今からあの人間たちを排除するからね。安心してね。お母さんたちに近づけはしないから。」
【フィリー・ルーリナイト】
私達は今、「森」にいる。
当然、幼虫や毛虫などがいっぱいいた。
それを女子共はキャーキャーわーわーと騒いだ。もちろん私も…。
お姉ちゃんはそこまでだったけど。
「早く魔物、出てこないかなぁ~」
脳天気に言う、ギーリンさん。
「ギーリンさんにとって魔物ってなんなんですか?」
ギーリンさんはうーん…とあごに手を当てて考えるポーズをしていた。
少し、難しい質問だったかな…?
「俺たちに対してはただたんに、可愛い生き物…かな? だよなっ!」
ギーリンさんは隣を歩いていた男の子の肩をガシッと掴んで問いかけた。
「は? 魔物が可愛いわけ無いだろ」
青色の髪をしていて目の色は真っ黒で、整った顔をしている。その男の子が言った。
この人は私と気が合うようだ…。
「何いってんだよ、魔物は可愛いだろ!」
「かわいくないって言ってるだろ。何回も同じことを言わせるな」
二人の周りにピリピリした空気が流れている。
このままじゃ、喧嘩になるかも…。
「え~っと……ふ、二人はどの魔法が使えるの?」
そう聞くとギーリンさんの顔がパアァッと明るくなった。
「俺は炎の魔法が使えるんだよ!」
何が自慢なのか良くわかんないけど、自慢げに言ってくるギーリンさんに私は二つ使えるよ、なんて言えなくなってしまう。
「す、すごいね…」
私は苦笑いして言った。
「……俺は水だ」
やっぱり!クールな……名前聞いてなかった…!?
「名前、聞いてなかったね。名前、教えて?」
「ルイス・アナカイス…」
「ルイス…じゃあ、ルイスくんって読んでいい?」
逆にそれ以外何があるっけ…さん付け、呼び捨て…は流石に無理。
「…ああ。俺はフィリーって呼ぶから」
フィ、フィリー!? いきなり呼び捨てですか!?
ルイスくんの耳がかすかに赤くなって見える。
そして、私も頬を赤らめてうなずいた。
「はい…」
はずかしい、と思ったところで元気のいい声が聞こえた。
「ちょっと待った! 何二人の世界作っちゃってんの!」
少し怒ったように言うギーリンさん。
「フィリー! 俺のことギーリンって読んで!」
「うええぇっ!?」
これは負けず嫌いってやつかな…。
「フィリー、こいつの言うことに耳を貸さなくていいから」
「いや、ルイスの言うことも気にするなよ!」
二人は目線を合わせてバチバチと火花を
えぇ、どうすればいいの…?
「じゃ、じゃあ、二人共君呼びにするね」
うん、これが一番いい判断だ。
「う~ん…くんか~、……ま、さん呼びよりかはいっか」
「はっ、俺ははじめから「くん」だったけどな」
ルイスくんが挑発をした。
それを聞いたギーリン君が…
「なんだとぉっ!」
また、怒り始めちゃった…。
でも、楽しそうだしいっか。
私は喧嘩している二人をおいて少し前を歩いている女子達の方へと向かった。
──────
「────なぁ」
「うん。分かってるからフィーストは黙ってて」
喋り始めたフィースト君をお姉ちゃんが止める。
「全くいなくね?魔物」
「黙っててって言ったよね?!」
………。
「他のチームの声も聞こえなくなったわね。相当奥に潜り込んだみたい。」
メルンちゃんが言った。
確かに、騒がしかった森が静かになっている。
皆、魔物と戦って怪我をしているかもしれない。
そう考えると少しぞっとする。
「フィリーちゃんだよねっ?」
前に青緑色の癖っ毛の風でなびかせ、人懐っこい、可愛い顔で聞いてくる男の子。
「は、はい…」
「僕、D組のガク・インサミサっていうんだ♪」
D組のところだけ声のトーンを下げて自己紹介してくれるガクくん。
「よ、よろしくね…っ!」
なんで今…?
「そんなに怯えてどうしたの?」
ガクくんが何かを話していたけど私にはその言葉が耳には入っていなかった。
うわぁ~、女子みたいにきれいな顔…いや、女子より綺麗…。
「おーい」
「はっ、はい!」
あぁ、情けない声を出してしまった…。
「うーん、まぁ元気になったぽいし、いっか」
も、もしかして、心配してくれてた?
「ありがとう…?」
自分でも何言ってるかわかんないや…。
「あぁ!!皆が先に行ってるー! 急げー!」
ガクくんは私の手を掴んでかなり先にいる皆の元へと走り出した。
「ねぇねぇ。あっち行ってみようよ」
皆の元へ行くとそんな会話をしていた。
「駄目!!」
イレスちゃんは金切り声を上げて私達を睨んできた。
え…?イレス、ちゃん…?
「イ、イレス?」
お姉ちゃんの驚いているような声が聞こえる。
「あぁ、ごめんね。この先凄く強い魔物がいて……そいつに殺されかけたことがあってトラウマなんだ。」
そうなんだ…。強い魔物に殺されかけられたらそりゃ、トラウマになるよね。
「マジで?!あの先に強ぇ魔物がいんのか?!行こうぜ!!」
ギーリン君が言った。
………馬鹿なのかな。
なんで、強い魔物がいたら行くんだろう。
「おい。ギーリンを追うぞ。チッあいつ勝手に行動しやがって……」
ルイスくんが眉間にしわを寄せて言い、ギーリンくんが走って言った方向に走って行った。
ルイスくん。気持ちはわかるけど言い方が…。
「私達も行くわよぉ!……チッ」
メルンちゃんが可愛く言った。
あはは…。二人共、舌打ちが……。
はぁ、とお姉ちゃんがため息をついて後を追っていったから私もその後を追って走り出した。
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