第7話 魔獣狩り(1)
【ティンティア・ルーリナイト】
気がつくと、私は夜の森に立っていた。
どこだここ?と思いながら、適当に辺りを探索しようと歩き出す。
「お父さん……お母さん……。」
すると、少し奥の方から少女のようなちいさくかすれた声が響いてきた。自然と足が声の方へと動き出す。
少し開けた場所に着いた。
盛り上がった土が2つ並んでいる。その真ん中に、少女がこちらに背中を見せてしゃがみ込んでいた。
華奢な手足には傷が無数に刻まれており、着ているものといえばそれなりの大きさの布を被っているだけだった。
足は止まらず、そのまま少女の方へ歩き続ける。
「大丈夫?」
私はおずおずと少女に声をかけた。だが少女は反応しない。
「ねぇ────」
肩に手を置こうとしたら───手が透けた。手は少女の肩を貫通していた。
少女は私に気づきもせず沈黙している。
「……また来るね。お母さんとお父さんの仇、必ず討つから。」
少女はそう言い残し、立ち上がり私の方へ歩いてきた。
体と体が触れる瞬間、またしも私の体は透け、少女は私を通り越して進む。
一瞬見えた顔は、誰かに似ていたような────
意識が戻った。
起き上がり、そこが寮の一部屋であることを確認する。
「夢か…結構リアルだったなぁ……。」
手に力がこもっていたのか、少し手が痺れていた。
時間は───6時か。みんなを起こしたほうが良さそう。
「おはようみんな!!起きて起きて!!」
一人一人の布団を剥ぎ取って無理やり起こす。
フィリーだけは私の動きを察知して先に起きていた。さすが妹よ。
「いやあっ寒いぃ……」
「………布団返して」
「ティアー!やめてー!」
「ふわぁ…おはようございます…ティアさん……」
ブーイングの嵐だが聞き流す。
「あっ。そういえばさぁ。今日早速寮の人達でなんかするらしいよぉ♡」
「なんかって何?」
「分かんなぁい♡」
「「魔物狩り」……ですか?」
「それだぁっ!」
「魔物狩り?」
私はきょとん、と首を傾げた。
「はぁ……お姉ちゃん、魔物狩りの説明は入学式に渡された説明書に書いてあったでしょ……。」
「え?説明書なんてあったっけ?」
本当に記憶ないのだが。傾げたままの首を更に傾げる。バランスを崩して転びそうなくらいに。
「………お腹すいた」
突然シオンが呟いた。お腹に少し手を当ててアピールまでしている。
「私もお腹すいたー!!みんなで食堂に行こっか!」
イレスが玄関へ駆け足で向かう。
「イレスちゃん!パジャマのままだけど大丈夫?」
ドアノブをイレスが掴み、ドアを開けようとした瞬間、フィリーからの指摘が入る。
「あ、本当だ!私の制服どこに置いたっけ?!」
「……ここにあるよ…」
「本当!あったー!ありがとうリフィア!」
「いえ……」
恥ずかしそうにしながら目に見えないほどの速度で着替えるリフィア。
リフィアの着替えっぷり(?)に惚れ惚れする。
家事系が得意なのかもしれない。私の世話係やってもらおうかな。できれば。
「…イレスさん。ボタン2つズレてるよ……。」
少し呆れたようにリフィアが言い、またまた目に見えない速度でイレスのボタンを外しつけ直す。
「わあ!ごめんね迷惑かけちゃって!服の着方ってイマイチよく分からないんだよね……。」
「そんなのでどうやって今まで過ごしてきたの?凄いね、イレスさん。」
「それは褒め言葉なのか……?!」
2人のトークがあらかた終わり、食堂へと向かった私達。
無料ということなので遠慮なく食べさせて頂いた。
───────
『魔物狩りの用意はいいですか?』
ひょろっとした体型の男性が生徒達に向けて「思念伝達」を使って話しかけてきた。
あんな体型だから大きな声は出せないのだろうか。
今私達は謎の森の前に集合させられている。この森で魔物を狩るらしい。
『この森で一番魔物を狩ったグループには一人に1000GPを獲得できます!』
おおおおおっ
歓声が上がる。
生徒たちには「GP表」のようなものが入学時に渡される。そこには『現在の自身のGP』と『GPランキング』、『現在の自身のGPランキング』の3つが書かれている。S組に入っていて、更に『GPランキング』の10位以内にだとS組の更に上の「伝説クラス」と呼ばれるクラスに入ることができるようになるらしい。
「伝説クラス」の顔ぶれは数年間変わっていないという(この学園は最大で8年通うことが可能)。
『では───始めっっ!!』
わああああっ
途端に、男子を中心に叫び声が轟いた後、たくさんの足音が森の奥へと消えた。
「俺等もいこうぜ!!」
「あなた達、誰ですか」
フィリーはギーリン・ミンタースのことを知らなかったのか、少し怪訝そうな顔で尋ねる。
「ああ、俺はS組で室長、ギーリン・ミンタースだ!!」
自信に満ちあふれた表情で告げた。両手を広げてアピールまでしている。
「私は
うやうやしくお辞儀をし、ちょこん、と首を傾げたフィリー。
っ……!!かわい゛い゛い゛い゛い゛い゛
誰も気づかぬ間に私は顔を真っ赤にし、思わずもんどり打つ。
───誰も見てなくてよかった!!
結局自己紹介をしようという案は今じゃないとなり、なくなった。
森から聞こえる賑やかな声が楽しそうで楽しそうで。
「みんな!!早く行こ!」
声が上ずってしまった。それを気にせずに私はみんなの手を掴んで薄暗い森へと歩き出した。
【フィリー・ルーリナイト】
「人間なんて…だいっきらい…」
私は雪山にいた。
そして、そこには一人の女の子がいた。
その子は黄色の髪をしていて、下を向いて、ボロボロと涙を流していた。
誰…?
「あなたは誰…? あなたは人間じゃないの…?」
声をかけてみた。
が、女の子には私の声が届いていないっぽい。
女の子はそのまま言葉を続けた。
「人間なんて許さない…!」
そのまま女の子は奥へと駆け出した。
「待って! あなたは誰なの…!?」
言い終わったところで私の目の前が光った。
眩しいっ…!!
思わずぎゅっと目をつぶった。
しばらくして光が消えた。
つぶっていた目をそっと開く。
「……部屋…」
さっきのは夢だったのか。
そうだよね。よかった…。
良かったはずなのに胸がざわざわする。
気づくと髪の毛が汗で肌にくっついていた。
「着替えよ…」
着替えようと布団から出ようとした時、
「おはようみんな!!起きて起きて!!」
お姉ちゃんか…。朝から元気だなぁ。
お姉ちゃんは一人ずつ布団を剥がしていった。
「いやあっ寒いぃ……」
「………布団返して」
「ティアー!やめてー!」
「ふわぁ…おはようございます…ティアさん……」
それぞれいろんな反応をする。
私は剥がされる前に自分で剥がした。
「あっ。そういえばさぁ。今日早速寮の人達でなんかするらしいよぉ♡」
「なんかって何?」
「分かんなぁい♡」
「「魔物狩り」……ですか?」
「それだぁ♡」
魔物狩りか。どんなのなんだろう?
「魔物狩り?」
お姉ちゃんが言った。
お、お姉ちゃん……。
「はぁ……お姉ちゃん、魔物狩りの説明は入学式に渡された説明書に書いてあったでしょ……」
仕方なく説明をする。
「え?説明書なんてあったっけ?」
うん、そうだね…。そこがお姉ちゃんのいいところだもんね…。
「……お腹すいた」
誰かがポツリと呟いた。
ぐるりと見渡すとシオンちゃんがお腹に手を当てていた。
あの声はシオンちゃんだったのか。
「私もおなかすいたー!みんなで食堂行こっか!」
イレスちゃんが言って玄関に向かっていった。
イレスちゃん、まさか、パジャマで行くつもりじゃないよね!?
「イレスちゃん!パジャマのままだけど大丈夫?」
私は慌てて声をかける。
「あ、本当だ!私の制服どこに置いたっけ?!」
やっぱり、パジャマで行くつもりだったんだ…。
「……ここにあるよ…」
リフィアちゃんが指さした方向には脱ぎ捨てられた制服があった。
「本当だ!あったー!ありがとうリフィア!」
「いえ…」
恥ずかしそうに言うリフィアちゃん。
そしてすごい速さで着替えるリフィアちゃんに少し尊敬する。どうしたらあんなに早く着替えられるんだろう?
「…イレスさん。ボタン2つズレてるよ……。」
リフィアちゃんの言葉にイレスちゃんの制服を見た。
あ、本当だ、2つもズレてる。
…2つって途中で気づかなかったのかな?
「わあ!ごめんね迷惑かけちゃって!服の着方ってイマイチよく分からないんだよね……」
服の着方がわかんない、ねぇ…。
それなら…
「そんなのでどうやって今まで過ごしてきたの?凄いね、イレスさん」
うん、同じこと思った。
やはり、リフィアちゃんとは気が合うのかもしれない。
「それは褒め言葉なのか……?!」
そうして私達は食堂に向かった。
お姉ちゃんの食欲もすごかったがイレスちゃんもそれなりにすごかった。
─────
『魔物狩りの用意はいいですか?』
生徒会長っぽい人が「思念伝達」で私達の頭の中で放送をする。
説明(?)はまだ続いた。
『この森で一番魔物を狩ったグループには一人に1000GPが獲得できます!』
おおおおっ
歓声が上がる。
早速この「GP表」の−−−−位のところに数字がつくのか…。
まぁ、何位でもいっか。
『では、始めっ!』
わああああっ
またもや歓声があがる。
「俺等もいこうぜ!!」
金髪っぽい色の髪を風になびかせて、その人によく似合う黄色の目をしている男の子が私達に笑いかけてきた。
後ろにも4人ほど男子がいる。
「あなた達、誰ですか」
私は思ったことをそのまま言った。
「ああ、俺はS組で室長、ギーリン・ミンタースだ!!」
S組ー!と大きな声で主張している姿に少しイラッとしたがそこは放っておいて、
「私は
丁寧にお辞儀をして、
「自己紹介でもしますか?」
と言った。
「自己紹介はまた今度にしよ?私達、結構遅れちゃってるみたいだし♡」
メルンちゃんがチラッと何かを見た。
そこには、いたはずの生徒達が一人もいなくなっていた。
そして、森からは悲鳴や叫び声、爆発音が聞こえた。
「…そうだね、ごめん」
「みんなー、早く行こ!」
お姉ちゃんが元気よく言った。
「うん、行こう!」
そうして私達は「森」に入った。
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