第25話 事件④

 皆さん、こんにちは。アーネです。現在私は目の前の嵐のような状況を、ただただ呆然と見ている事しか出来ません。はい、正直ちょっと怖いです。



 駆け付けてくれたエドは鬼のような形相で男達を次々に殴り飛ばしていった。アーネが一発では仕留めきれなかった男達もエドの重い一撃であっさり気を失っている。私が身体強化をかけて投げ飛ばした時より吹っ飛ぶってどれだけの力だろう。しかし、これはやりすぎではないだろうか…。犯人の生死が心配になる程の凄まじい暴れっぷりだ。ブチ切れるとはこういう事を言うのだろうか。


「アーネ! 大丈夫かっ!」


 アーネがそんな事を考えている間に、エドはあっさり全員のしていた。そして座り込んでいたアーネの元に駆け寄る。その顔は先程とは打って変わり、痛ましいものを見るような悲しげな表情をしていた。アーネはこれ以上心配させまいと苦笑混じりにわざと明るい声を出す。脇腹が痛いがそこは我慢だ。


「あはは、ドジっちゃった。助けてくれてありがとう。気付かれなかったらどうしようかと」

「アーネ…」

「あっ、子供達!」

「………」


 アーネは震えているだろう子供達を思い出し、勢いよく立ちあがると後方の子供達の方へと行ってしまう。抱きしめようと伸ばしかけたエドの手が物悲しい。アーネは気付いていないのだろう。


「皆、大丈夫? 助けが来たから安心してね。おうちに帰れるよ」

「うっ……うわぁーん」

「ひっく…うぅ」

「よく頑張ったね。もう大丈夫だよ」


 安心からか恐怖からか、子供達はわんわん泣き出してしまった。こちらにやってきた隊員達は、子供達が少し落ち着くまで待っていてくれた。


 その後、子供達は隊員に抱きかかえられて駐在所へと保護された。健康状態に問題がなければすぐに家族の元に戻れるだろう。殴られた私を心配するようにこちらを何度も見てきたので、安心させるためにっこり笑いかけておいた。


 犯人達も引きずられるように…いや、気を失っているから実際本当に引きずられている。このまま駐在所へと連行され尋問されるのだろう。無事解決したようで良かった。アーネも地下室を出ようと立ち上がったが、それを制するように突然エドに横抱きにされた。


「エド!? ちょっと! 自分で歩けるよ!」

「ダメだ。さっきも少しふらついていた。それに怪我もしてるだろう」


 ふらついたのは多分眠り薬が抜けていないからだとは黙っていよう。エドは、案外目敏いようだ。


「このくらいの怪我なら大丈夫だよ」

「俺が心配なんだよ」

「………」


 しっかり抱きかかえるように腕に力を込められた。そう言われてしまうと大人しくするしかなくなってしまう。


「……重くない? やっぱ自分で歩くよ?」

「変な心配しなくていいから」


 間近で見上げたエドの顔は、子供の頃の幼さはなくすっかり凛々しい青年へと成長していた。いつの間にか大きくなった腕やたくましい身体になぜかドキリとする。黙り込んだ私を了承したと捉えたのか、横抱きのまますたすたと歩き出してしまった。


「アーネ!」

「兄さんっ!?」


 エドに抱き抱えられて家の外に出るとクロードがいる事に驚いた。何でも国王自ら、指揮を執っていたらしい。こちらへと走り寄ってきて、ほっとした顔をする。


「よかった…」

「兄さん、迷惑かけてごめんなさい…」

「いや、目を離して悪かった。話は城に戻ってからしよう」


 そう言うと、エドへと向き直る。その時にはもう兄の顔ではなく一国の王の顔をしていた。


「エド、アーネは俺が連れて帰る。お前には他の隊員と共にこのまま室内の捜索を任せる」

「…分かりました」


 クロードは、あくまで国王としての顔を崩さず他の隊員達へも淡々と指示を出していく。大勢の隊員の前なので心配性のシスコンを全面に出す事はないのだろう。


 アーネは、兄の国王としての顔にちょっと驚いてしまった。アーネの前ではこういう顔をしないから余計にそう感じるのだろう。というか、国王がこんな最前線にいていいのだろうか。


 クロードにアーネを託す際、エドがなぜか渋い顔をしているのが目に入った。直前にぎゅっと抱き寄せてきたのは何だったのだろうか。


 というか兄さんまでこの抱っこなの!?ちゃんと歩いて帰れるんだけど。17になって兄に抱っことか恥ずかしすぎる。


 あれ…屋根が壊れてるけど、引っ掻いてたのイヴァだったの? ちょっと、犯人を見てるけどその物騒な唸り声はやめて! 食べちゃダメだからね!


 えっ……私に任せてって……イヴァ、何する気っ!? うわっ、アルベルト隊長までいる。……ジーク…ガブッとするって何っ!? ロッド…やっちまえとか煽らないのっ! ていうか、王都警備隊も多すぎないっ!?


 ここまで騒がせてしまったのは自分のせいだろう。自分の行動が浅はかだった事にしゅんとしてしまうのだった。

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