第24話 事件③
「おい、なんか竜の姿が多くねーか?」
「ちっ、面倒な事になりやがった」
アーネはまたも扉にくっついて男達の会話を拾っていた。ぺったりと耳を押し当て、飛び飛びだけど何とか聞こえる会話から状況を推察する。
(竜? もしかして竜騎士団? それなら魔力を纏えば気付いてくれるかも。以前イヴァが私の魔力を辿ってフローベリアに来たと言ってたし。身体に纏うだけなら犯人にも気付かれない…試してみる価値はある)
早速アーネはいつもより多くの魔力を纏うように意識を集中した。何とか気付いてもらおうとありったけの魔力を纏う。まだ少し頭がクラクラするからかほんの少しの間で限界がきそうだ。
いつもと違い上手く魔力が巡らない。そう思った時には、魔力が切れてしまった。いつもには感じない疲労感に荒い息をつく。ここまで疲れるのは初めてかもしない。これで何とか気づいてくれればいいのだが。
──その瞬間、大きな鳴き声が響き渡った。
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クロードやエド、十数人の警備隊員は不思議な光景を発見して、その現場へと急行していた。
普段は大人しいイヴァがある家の屋根に降りたって唸り声をあげているのだ。家が崩れないようにしてはいるようだが、爪で屋根を引っ掻いている。その上空には三頭の竜が旋回しながら唸り声を上げている。
「グルルルルル」
「これは一体…」
クロードは、一瞬驚きを見せるがすぐに状況を察知する。竜は太古の生物だ。魔力を察して相手の力量を計るという。アーネを幼い頃から守るように可愛がっている、あの白銀の竜がこれほど怒りをあらわにしているいう事は…。
「エド、この家を捜索するぞ。念のため周囲にも兵を配置しろ。怪しいものは絶対に逃すな」
「はっ!」
察しのいいエドは命令を正しく理解した。隊員達に手早くクロードの指示を伝え、家を包囲していく。国王自ら突入し兼ねないので、念のためクロードの護衛も増やしておいた。
そして、住人に話を聞くべく自らが玄関の扉を叩きにいった。
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一方アーネは、竜の声に驚いた子供達を宥めていた。今もまだかなり近くから何頭かの声が聞こえる。頭上からガリガリ聞こえるのは屋根でも引っ掻いているのだろうか。おそらく先程の魔力でここに気付いてくれたのだろうが、家が壊されないか心配だ。
そんな時、男達の慌ただしい足音が近付いてきた。
「くそっ! 警備隊が集まってきた」
「何だって竜がウチに集まってんだよ」
「警備隊は、あいつらに任せて、万が一に備えて隠れるぞ」
「急げっ!」
ガチャ…ガチャン。
慌てたように鍵を外そうとする音がする。
地下室の扉が閉められた状態では、外の音はあまり聞こえない。逆もそうだろう。大きな音なら何とか聞こえるので、警備隊が室内に来てくれれば、ここの存在に気付いてくれる可能性が高くなる。ただ四人の子供を守りながら魔力も使えず丸腰で犯人と争うのはリスクもある。いや、今なら扉近辺を死守すれば背後の子供達は守れる。時間稼ぎなら一人でも何とか出来るはずだ。
(やるしかないっ!)
アーネは瞬時に決断した。子供達に決して動かないよう話し、安心させるように全員まとめてぎゅっと抱き締める。怖い思いをさせるだろうから申し訳ない。
そしてすぐに扉の前へと走り出した。急がねば…中へ入られれば子供達を守り切るのが難しくなる。
ギィ……。
扉を開けた一瞬、明るさが地下室を照らす。逆光で分かりにくいが男達の人数を確認するくらいは出来た。四人…多いな。しかし、このチャンスを逃す訳にはいかない。
「はっ……!」
アーネは、走り寄った勢いのまま、迷うことなく先頭の男の腕を掴み豪快に投げ飛ばした。
「ぐぁ…!」
ガシャーンッッ!!
男は突然の事で抵抗も出来ず、宙を舞った。そして地下室にあった木箱にぶつかり大きな音を立てて動かなくなる。何とか一瞬だけ手足に身体強化をかけて思いきりぶん投げたので気絶してくたようだ。これで大きな音も出せたし、警備隊が気付いてくれればいいが。一人地下室内に入れてしまったが意識を飛ばせたのでよしとしよう。
次の攻撃に移ろうと体の重心を変えると、階上から言い争う声や複数の足音などが聞こえてきた。どうやら無事作戦は成功のようだ。すぐに王都警備隊が来てくれるのだろう。
身体強化がなければアーネの腕力では大の男を沈めるのは難しい。ここからは足止めだけを考える事にした。
「はっ…!」
「ぐぅっ!」
素早く体勢を整え、まだ事態を飲み込めていない犯人の腹を思いきり蹴る。反動で後ろによろめくが、まだ立ったままだ。追い打ちとばかりにもう一度蹴りを入れる。それでようやくうずくまって動きを止めた。
「このやろうっ!」
「女ごと押さえ込め! 早く隠れるぞ!」
殴りかかってきた三人目の男は、体勢を低くしてかわす。身体を捻るようして遠心力を生かし、腹を思いきり殴り付ける。
「うぐっ…」
男は腹を押さえて蹲り悶絶している。身体強化がないと自分の手足が痛いが気にしてる場合ではない。
(よし、あと一人何とかなるかもしれない)
そう思った時、頭がくらっときて視界がゆらぐ。まだ眠り薬が完全に抜けきっていないのか目眩に襲われたのだ。しまったと思うのと同時にそれをチャンスと見た男の拳が迫ってきた。
(だめだ、ガードは間に合わないっ!)
そう思うのと同時に、男の拳を脇腹にもろに喰らってしまう。
「っ……!」
痛みに顔を歪めると同時に一瞬見えたのは、焦った表情でこちらに駆けてくるエドの姿であった。
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