第23話 事件②
「くそっ! 巡回兵が急に増えやがった」
「嗅ぎ付けられたのか?」
「いや、ここはバレてねぇようだぞ」
「ちっ! そろそろウルマに行こうかと思ったのによぉ」
男達は全部で6人。王都に不慣れであろう子供を攫い、ウルマ国へと売り付けようと企んでいる者達だった。
つい先程から王都警備隊が多くなったのをアジトの窓から見て気付いたのだ。
ここはアーネが襲われた裏路地から続く家である。裏路地に入り、曲がった先にこの家の裏口があるのだ。
元々あの裏路地は人が来ない場所だった。曲がり角を隠すように木箱等で塞ぎ、裏路地が行きどまりのように偽装をしていたのだ。裏路地に木箱があるのは、王都ではよく見かけるので不自然にはならない。木箱が裏口を塞ぐように置かれているのはよくある事なのだ。ターゲットを裏路地へと誘きだし、薬で眠らせたら木箱を避けた裏口から家の地下へと運び入れる。それが彼らの手口だった。
一人目を攫った後、検問が始まり簡単には王都を出られなくなった。しばらくすれば落ち着くだろうと次々に子供を攫っていった。さっきも珍しい金色の髪の女を攫う事が出来た。明日にはウルマへ向けてここを出るつもりであった。
「とりあえず、しばらくこのまま隠れるぞ。これ以上商品を増やすのは危険だ」
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その頃、地下ではアーネが子供達を一ヶ所に集めていた。暗いので手探りでになったが、入念に部屋も確認した。空の木箱が二つあるだけであとは何もなかった。
扉に耳を当て様子を探ったところ、先程男達が苛立った声で話していたのを何とか聞く事が出来た。
(ふむ……巡回兵が増えたのは兄さんが私を探してるとか? それならこの場所を何とか知らせられれば…)
しかしいい手段が思い付かない。魔力はある程度周囲の状況が分からないと発揮しない。風で周囲を探るのも危険だ。部屋の中で不自然な風が起きれば怪しまれるかもしれない。八方塞がりで溜め息をつきながら手探りで子供達の元へと戻る。
「…おねえちゃん…こわくないの?」
「大丈夫、すぐ助けが来るから。皆の事はお姉ちゃんが守るからね」
幼い子供の声がする方へと話しかける。とうに魔力で縄は切ったので皆、手は自由になっている。子供達を集めて分かったが、どうやらここにいるのはアーネを入れて5人らしい。食事も貰えていたそうで生死に関わる程具合が悪い様子はなかった。
「私達…家に帰れるの…?」
「もちろん。私の兄さんは凄いんだから!」
ここに来て一番最初に声をかけてくれた少女の問いに笑いかけた。アーネの笑顔など暗くて分からないだろうが、少女には伝わったのか小さな返事が聞こえた。
(4人を守りながらここを出るのはきついな。犯人の正確な人数も分からない。さて、どうしたものか……)
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一方、駐在所ではクロードが奮闘していた。
3、4人からなる小隊を巡回させ怪しいものがいないかを探る。私服の兵も歩かせ市民を装い情報を探った。
子供達が消えたのは全員あの広場近くらしく隣接する家をマークした。住人の聞き込みは以前からされているらしいが、再度徹底するよう指示を出した。
人が隠れられるような荷馬車は検問で荷物を改めさせた。今のところ、王都の外に出た怪しい荷馬車はいない。
アーネと犯人はまだこの王都のどこかにいるだろう。
「クロード様、戻りました。竜騎士団も王都上空を飛んでおります。念のため王都の外に怪しいものがいないかも確認するそうです」
「ご苦労だったな、エド。今のところはアーネが路地に入る前に老人らしき者が路地に入った事は確認出来た。おそらく犯人の一人だろう」
「何か手掛かりがあればいいのですが…」
クロードとエドが見下ろす先…広場周辺の地図には、あの家も描かれていた。
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エドが城を出た頃、竜騎士団は王都の空へと飛び立つ頃だった。
「よし、準備出来たな。では各自、飛べ!」
「「「はっ!」」」
隊長のアルベルトの号令で一気に空へと散っていく。
アルベルトを含む3人が王都上空を、副隊長のウィル含む4人が王都の周辺を、残る3人はいつでも動けるよう城で待機となった。イヴァは既に飛び立っており、王都上空で何かを探るようにじっと留まっている。
竜が王都上空を飛ぶのはいつもの事なので、市民達もさほど気にしていないようだ。隊員達は目を凝らし、竜騎士や巡回兵を避けるように動く怪しい者がいないか目を光らせる。
竜達もアーネが攫われた話を聞いていたからかいつもより低空飛行をしている。もしかしたら目視だけでなく匂いを辿ろうとしているのかもしれない。
中々手がかりが掴めない中、竜騎士団の面々も焦りが見え始めていた。既に日が落ち始め、あと一時間もすれば夕闇が訪れるだろう。イヴァだけは最初から竜騎士団より上空に待機し続け動いてはいない。
異変が起きたのはそんな時だった。イヴァが突如大きな声で吠えたのだ。それに呼応するように他の竜達も声を上げた。
「グオオオォォォ!!」
「ギャウッーー」
「グルルルルルッ」
「グゥオオォォ」
そうしてイヴァは何かを目指して急降下を始めた。
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