第20話 進展…?
アーネは王都警備隊の鍛練場の片隅で素振りをしていた。今日はエドと約束した手合わせをする日なのだ。楽しみ過ぎて少し早めに来てしまった。アーネの他にも鍛練中の隊員達が何組みかいる。
待ち合わせ時間少し前にやってきたエドは制服ではなく私服だった。手合わせをするので動きやすいような服装ではあるが明らかに休みではないだろうか。
「エド、今日休みだったの? せっかくの休みなのに手合わせに付き合わせるのは悪いよ…」
「いや、問題ない」
「何なら他の人に頼むから今からでも休んだら?」
「それは絶対だめ! ほら、始めるぞ」
そう言ってエドは木剣を構えてしまった。さっさと木剣を構えられてしまったので、アーネも意識を切り替えざるを得ない。
腰を落とし剣先をエドに向けるように構える。こっそり魔力で身体を強化しておくのも忘れない。
(──空気がピリピリする。エド、本気で相手してくれるんだ)
初手はお互いの力量を計るように切り結ぶ。連続して数度打ち合った。重い剣戟がぶつかり合い鈍い音が響き渡る。
ガァン!
ゴッ!
(くぅ! 身体強化しているのに一撃一撃が重い)
まともに撃ち合えば分が悪いと判断したアーネは素早くエドから距離を取る。手足に身体強化を集中させ速さで勝負する策に出た。
「ふっ…!」
素早い踏み込みでエドとの間合いを詰め、下段から撃ち込む。もちろん止められるのも想定済みだ。それを機転に重心を移動しくるりと背後に回り、もう一撃を繰り出す。エドは少し体勢を崩すもそれすら受け止めた。一連の流れの間、エドの視線は油断なくこちらを見据えている。アーネは軽やかに跳躍してまた距離を取った。
(これは強敵だ。でもだからこそ楽しい!)
アーネは再び構えると真っ直ぐにエドを見据えた。静かでいて鋭利な刃物のような空気が広がる。いつしか周囲の隊員達も全員手を止めて観戦していた。二人は周りを気にせず、ただお互いだけを見据える。
ぴりっとした空気が一段と重くなった後、二人は同時に踏み込んだ。決して視線を外さないまま間合いに入りお互いほぼ同時に撃ち込む。
──ひたり。
エドの木剣がアーネの首筋に当てられる。アーネの木剣はかわされたのか宙にさ迷っていた。
「──参りました」
アーネが木剣を下ろすと周囲から二人の健闘を称える歓声が響いた。それで見学されていた事にようやく気付く。
「はぁ…エド強いね。やっぱり負けるのは悔しい」
「俺も結構ヒヤヒヤしたよ。また鍛え直さなきゃな」
「次は負けないんだから」
「ははっ、楽しみにしてるよ」
コツンと拳を合わせて再戦を約束する。二人して不敵な笑みを浮かべ合う様は、まるで戦友のようだ。
その後、身体強化をしていないのに涼しい顔のエドが木剣を片付けにいってくれた。こちらは少し息が上がっているというのに。周りも各々の鍛練に戻っている。
「あ~……アーネ、この後用事はある?」
「ん? 何もないよ?」
「それならお茶でもしない? 動いたから甘いものが食べたくない?」
「えっ! する! お菓子食べたい!」
そうして、エドのエスコートで案内されたのは王都騎士隊の応接室だった。今日は使用されないらしく私達が使っても大丈夫らしい。木剣を片付けた際に頼んでいたのか紅茶を淹れた使用人が出ていく所だった。エドに椅子を引かれて席に着けば、淹れたての紅茶のいい匂いがする。
「はい、これ。まずはクールダウンしようか」
「っ! 冷たい! 甘い!」
「ミルクアイスだよ。あれだけ動いたから余計美味しく感じるでしょ」
そう言ってエドもアイスを口にした。確かに運動した体に染み渡るようだ。そんな所まで気にしてくれるとは気配り上手である。
「ふわぁ……すごい! ふわふわしてる…」
「それはシフォンケーキ。口当たりが軽いから疲れてても食べやすいと思って」
シフォンケーキに感動していると、うっかりフォークを落としてしまった。エドの重く鋭い打ち込みに手が痺れているのだ。身体強化を解いたら手がぷるぷるしていた。
(うぅ…また身体強化をかけるか。でもこの状態じゃあまり意味ないかも…)
そんな事を思っていると、状況を察したエドが気遣わしげに話しかけてきた。
「アーネ? あ…ごめん、手つらいよね。加減できなくて本当ごめん」
「むしろ手加減された方が嫌なんだけど…」
「そうだろうと思った。………………はい、アーネ」
何かと葛藤していたエドが自らのフォークにシフォンケーキを刺して口許へ差し出してきた。ありがたいけど無理をしてないだろうか。目を逸らしているあたり、本当は嫌なのだろう。でも食べたいから遠慮なく頂くとしよう。
ぱくっ。
(美味し~!)
……すっ。
ぱくっ。もぐもぐもぐ。
美味しいし手が楽ちん…しかも差し出すタイミングばっちり。何だかんだでエドは、シフォンケーキが食べ終わっても、他のお菓子もそのまま食べさせてくれた。私の遠慮のない食べっぷりにエドも段々笑顔を見せてくれたので強制はしていないはずだ。
「食べさせてくれて、ありがとう。嫌なのに無理させてごめんね」
「別に嫌では…」
「そぉ? 最初嫌そうだったから」
実際は、恋人のような事をするのが照れくさかっただけだが、そう言えないエドは黙るしかなかった。
こうして、手合わせ+お茶会は双方満足な結果で終わったのであった。
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