第14話 侍女
初めまして。私はアーネ様のお世話を任されている侍女のリリーと申します。アーネ様と同じ17歳でございます。
今まで同年代の同性と過ごす事のなかったアーネ様のお友達にと私が選ばれたらしいです。国王様直々にお声をかけられたのにはとても驚きました。
私がお仕えするアーネ様は、国王陛下であるクロード様の年の離れた妹君です。北の地に長い間いらっしゃったそうですが、この間王城へと住まいを移されました。その辺の事情は私にはよく分かりません。侍女長が何も言わないのであれば私が知るべき事ではないのでしょう。
アーネ様は王族らしからず、着替えも身支度も全て自分でこなしてしまわれます。北方では一兵士としてお過ごしになっていたからでしょう。私がする事と言えばお食事やお茶の準備くらいしかありません。
それではあまりにも寂しすぎるという事で、最近は無理にお願いをして毎日のお洋服をコーディネートさせて頂ける事になりました。アーネ様の好みを外さず、かつ魅力を最大限に引き立てられるよう日夜研究を重ねております。アーネ様は着飾るような事は好まず、男性のようなシンプルなお姿がお好きなようです。スカートを着て頂けないのは残念です…。
兄君であるクロード様は、そんなアーネ様に何とかスカートを着せたいようです。可愛らしいアーネ様を着飾りたいのでしょう。私としても絶対に似合うと思うのですが、ご本人いわく似合わないし動きにくいから嫌だとの事です。
クロード様はアーネ様の事が可愛くて可愛くて仕方のないようです。とても妹思いの優しい方です。ちょっと度が過ぎる可愛がりぶりですが、そのお気持ちはとてもよく分かります。
アーネ様はクロード様同様とても整ったお顔立ちをされております。お肌など雪のように色白ですべすべしていて、お化粧など必要ない程です。王族は美形が多いのでしょう。お二人が並ぶととても眼福です。
もちろん内面も美しく、アーネ様は私達使用人にも気さくに接してくれるような方です。先日は一緒にお茶をしようと仰って頂きました。
そんな可愛くて気さくで人懐こいアーネ様は王城でじわじわと人気を広げております。ついには「アーネ様を愛でる会」なるものまで発足しました。アーネ様を見守り、危険があれば排除し、アーネ様の良さを語り尽くすのが目的だそうです。もちろん私も会員です。
アーネ様は魔力も高く剣の腕前も素晴らしいそうです。確かにお庭でよく素振りをされております。凛々しいお姿もぐっとくるものがございます。普段の可愛らしいお姿とのギャップが堪りません。ご令嬢方にも人気なのは、きっとこのギャップのせいでしょう。
さて、今は午後のお茶の時間。今までお茶の習慣がなかったアーネ様ですが、甘いものが大変お好きなため、この時間を毎回楽しみにされているようです。本日も幸せそうにクッキーを頬張るお姿は小動物のようで可愛らしいです。
紅茶のおかわりを注いでいると、キレイな青い瞳がこちらを見上げてきているのに気付きました。
「ねぇリリー…」
「はい、何でしょうか?」
「……リリーは普段着にもスカートを着るの?」
(なんですと? アーネ様がスカートを気にされている! これはまさか…ついに…!?)
「…えぇ、普通にスカートを着ますね。女性隊員の方もお休みの日はスカートを着ておりますよ」
「そうなの?」
この国では平民であろうと女性はスカートを着るのが一般的です。女性のパンツスタイルなど、軍に属する方が仕事中に隊服を着るくらいしかないでしょう。なのでアーネ様の服装は、城内でも珍しがられているようです。
「スカートも色々あるのですよ。女性らしいふわふわしたもの。落ち着いたデザインのもの。ワンピースは一枚で着れて着心地もいいのです」
「へぇ…」
(手応えは悪くはありません! しかし急にどうされたのでしょう…)
「急にどうなさったのですか?」
「うん…毎日毎日兄さんが残念そうにするから何だか申し訳なくて」
「まぁ」
(クロード様、グッジョブです!)
内心親指を立ててしまいました。いけません、国王陛下に何て事を。確かに朝食の配膳の際に、クロード様が嘆いているのを何度かお聞きした事があります。お優しいアーネ様は、それを気にされているのでしょう。
「よろしければ今度着てみませんか?」
「えぇー…動きにくい」
「一日中ではなく短時間だけ挑戦されてはいかがでしょうか。お茶の時間なら座るだけなのでさほど気にならないかと思います」
「うーん…」
これは…あと一押しではないだろうか!いつものように嫌だとは仰らない。葛藤されるお姿も可愛らしいですが。
「アーネ様のお好みに合うよう頑張ってコーディネート致しますよ」
「リリーのコーディネートは好きだけど…」
(なんという事でしょう! アーネ様が私のコーディネートを気に入って下さっているとは!)
「アーネ様が頑張るのならその日の夕食後のデザートは奮発致しましょう」
「えっ!」
「苦手なものにも挑戦されるアーネ様へのご褒美ですよ」
そう提案すれば、先程より葛藤されておられます。そして、ついに……。
「…………………じゃあ……頑張ってみる」
(やりました! 皆様、リリーはやりましたよ!!)
おっと、危うくガッツポーズで叫んでしまうところでした。私は冷静を装い笑顔で言葉を続けます。
「では料理長に腕をふるってもらうよう伝えておきますね」
ふふふ、何を着て頂くか今からとっても楽しみです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます