第13話 和解
「ベイリーが言うには左の前足…爪の辺りに違和感があるとか…」
「あ、怪我してる!」
「ぎゅうぅぅ…」
「遊んでいた時に何かを引っ掻けた感じがしたらしいです。爪の辺りは柔らかいですから…」
「こいつヤンチャだからなぁ。枝でも引っ掻けたのかも。気付かずにごめんな」
「ぎゅうぅ」
こうやってアーネは全ての竜と竜騎士の通訳となりお互いの言葉を伝えていった。相棒に名前で呼ばれ竜達も嬉しそうだ。役に立てたようで何よりである。
(あの子達も相棒と仲良くなれて嬉しそう)
「イヴァ。皆も竜と話せればいいのにね」
(あなた程魔力が高くないと無理よ。これからも頼りにしているわ、私の可愛い子)
「うん、何かあったらいつでも呼んで」
(ふふ、私の可愛い子は優しいのね)
優しいのはイヴァの方なのに。
今日も竜達を見守るように過ごしていた。その目は慈愛に満ちていて母のようだった。イヴァにとってここの竜達は仲間であり子供のような存在なのかもしれない。
竜騎士団の面々は、このまま治療や訓練をする事になった。ウィルとアシェルは狩りに行くらしい。早速活動的だ。イヴァもこのまま竜達を見て過ごすと言っていた。邪魔をするのも悪いので、アーネは先に王城の中へと戻る事にした。ウィルも寄り道をしないなら一人で戻っていいと許してくれた。ここから自室までは結構離れているが、複雑な道のりではなかったので一人でも帰れるだろう。
来た道を思い出しながら何とか王族居住区の近くの見慣れた回廊まで戻って来る。この回廊は半屋外のようになっていて、室内と外とを仕切る壁や窓はない。雪国であるフローベリアにはない造りだ。
物珍しさもあり観察するようにしながら歩いていると、外の方から声を掛けられた。声がした方を見れば、数人の男性が手を上げて挨拶をしている。男達の方へと近寄れば、その顔ぶれには見覚えがあった。この間王都警備隊の訓練で一緒だった人達だ。
「こんにちは」
「おう!お姫様が一人で歩いてるなんて大丈夫か?」
お姫様扱いしてくるが、冗談交じりに言ってるのが分かるくらい軽いノリだ。アーネは冗談に乗るように、腰に手を当てて胸を張って答えてみせた。
「ウィルから一人で歩いて帰っていいって言われたので」
「ウィル? あぁ、総隊長の息子さんのウィリアム様?」
「はい、さっきまで竜騎士団の所へ行っていたんです」
「ほおぉ、アーネ様は竜も怖がらないのか」
「さすが我らが姫様だ!」
私が小さな頃からイヴァと仲良しなのは知られていないのだろう。和やかに話しているとずっと俯き気味で黙っていた一人の青年が顔を上げて話しかけてきた。
(あ、この人…木剣折っちゃった人だ)
焦げ茶色の髪の青年は気まずそうにしながら一歩前に出てアーネに近付いた。
「あの…この間は…すみません。女だからと馬鹿にして…」
青年は、丁寧に謝ってくれる。あの時の言葉遣いとはガラリと違う畏まった口調からも詫びる意思がひしひしと感じられた。
「そんな…私の方こそ準備の邪魔をしたあげく煽るような事言ってすみません」
「いや、あなたが謝る事は…」
そこまで気にされるとこちらも気まずいものがある。中々納得してくれなさそうだったので、一つ提案をしてみる事にした。
「それなら、また手合わせして下さい。ね?」
気軽に手合わせするような友達になれたらいいなぁという思いからの提案であった。微笑むような笑みを浮かべ、こてんと首を傾げたアーネ。なぜか真っ正面からそれを見た青年は、顔が赤くなっていた。
(あれ…? もしかして嫌だったかな)
アーネは青年の様子から馴れ馴れしかったかと思い、慌てて言葉を続けた。
「あの、無理にとは言いませんので…」
「いえ、いいえ! ぜひっ!」
「本当? 嬉しいです!」
食いつくような勢いで言葉を返され少し面食らったが、嬉しい言葉にまたも笑顔が溢れてしまう。そんなアーネを見て青年は、今度は固まってしまった。
また木剣を折るとでも思っているのだろうか。そんな青年を見て他の隊員達はおかしそうに笑いを堪えているし。何だろう…何かしただろうか?
その後、何かあったらいけないからと、青年は律儀にも王族居住区入口まで送ってくれた。ここまで来る間、甘い物の話で盛り上がった。彼も結構甘い物が好きらしい。堅苦しいのも苦手なので、敬語もやめてもらっている。
この入り口から先は、王族とその警護、数名の使用人など限られた人しか入れない。青年とはここでお別れだ。
「仕事中なのに送ってくれてありがとうございました」
「いや、王族の警護なら十分仕事の範囲内だろ」
苦笑気味の青年のツッコミに、何とも言えずただ苦笑してしまう。私は王族であって王族でないようなものなのだが。
「そうだ。休憩中に食べるよう持ってたんだが…あった。これやるよ」
微妙な空気を感じ取ったのか、そう言って別れ際に、飴を一つくれた。休憩中や疲れた時に食べられるよう持ち歩いているそうだ。ありがたく頂いて、可愛い包み紙を開け、早速口へと放り込む。
「ん、美味しい~」
「っ…!! じゃ、俺はここで!」
その場で飴を口にし幸せそうに笑うアーネを見て青年は、踵を返して走るように立ち去ってしまった。突然どうしたのだろうか。そうか、きっと自分も飴を食べたくなったのだろう。最後の一つをくれるとはいい人だ。
アーネは、青年を見送った後、美味しい飴にほくほくしながら自室へと帰るのだった。
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