第12話 竜騎士団
本日は竜騎士団へとお邪魔している。
格好は辺境警備隊の制服である。竜と触れあうので頑丈な作りの服にしたのだ。北国使用のコートは、ここでは暑いのでもちろん着ていない。こちらに来て準備された私服は、質が良くて破けたりでもしたら怖い。
朝食の際、クロードに嘆かれたのはいつもの事だ。竜と会うのにスカートで行くはずがないではないか。
竜騎士団は、王城内でも端に位置している。クロードとアーネが住む王族居住区とはちょうど反対の位置にある。大きな竜達の家である竜舎や有事にすぐ飛び立てるような広い場所が必要なためだ。基本、城内で竜は竜騎士団の敷地以外は離着陸してはいけない事になっている。アーネを連れたウィルが王族居住区の近くへ降り立ったのは特例だったのだろう。どう考えてもクロードの職権乱用だろうが。
部屋にお迎えに来てくれたウィルに案内されて広い竜騎士団の敷地へと入る。整列して待ってくれていた隊員の前へ来ると、まずはお辞儀をして挨拶をした。
「今日はよろしくお願いします」
「竜と会話出来るんだって? 困ってる事がないか聞いてくれ」
「竜の名前を教えてくれ!」
「体調が悪くないか知りたいです!」
「うるさいですよ。黙りましょうね」
顔を上げると、詰め寄るような勢いで一斉に近付かれ驚いてしまった。見かねたウィルの一言に隊員達が一斉に黙りこんだのにも驚いた。決して声を荒げた訳ではなく、いつも通りの声量だったのになぜか背中がゾクッとしてしまった。隊長さんらしき人も黙りこんでいないだろうか。
竜騎士団は、現在10名しかいない。歴代から見れば多い方らしい。仕事内容は遠方への使者や定期的な空からの見回り、有事がなければ日々竜の世話をばかりをしているらしい。竜が大好きな人達との事だ。
怪我や年齢などを理由に騎士を引退する際は、竜も一緒にここを出ていくそうだ。絆を結ぶという事は生涯共に歩くという事でもある。なので相棒が退団しているイヴァがここに留まり続けるのはとても珍しいそうだ。
(私は可愛いアーネを守るのだもの。私くらい自由のある竜がいないと何かの時に困るでしょう)
以前イヴァに聞いた時そう言っていた。どうやらアーネのためにここにいてくれるしい。
「アーネ様、この者が竜騎士団隊長のアルベルトです」
「姫さん、今日はよろしくな」
「はい、こちらこそ」
そう言って、ニカッと歯を見せて笑ったアルベルトは、40代くらいの背の高い人だった。茶色の髪は短髪で髪よりも濃い焦げ茶色の目を輝かせている。彼も竜が大好きなのだろ。
他の隊員達とも一人一人挨拶を交わしたあと、隊員の背後に待機していた竜達へと近付いていく。背後からは隊員達の好奇心旺盛な視線をビシバシと感じられる。
アーネが小さな頃はイヴァとしか会った事がない。ウルマ軍撃退の際、駆けつけてくれた竜とは顔を合わせているが、挨拶はしていないのでほとんど初対面と言えるだろう。
「皆今日はよろしくね」
「くるるるる」
「きゅううぅ」
「きゃうっ!」
「ふふ、皆可愛いー」
10頭の竜達が一斉に甘えた声を出し、アーネへすり寄っていく。さりげなくイヴァも混ざっているから11頭か。はたから見れば竜団子状態だ。手加減してくれているが11頭もいれば結構もみくちゃ状態だ。やはりこの服で来たのは正解だった。
「すげぇ…」
「俺らより懐かれてないか…」
「あんな甘えるような声初めて聞いた…」
この中で序列が一番上のイヴァがアーネを自らよりも上位の者と敬い、慈しんでいる事から他の竜達もアーネに好意的なのだ。それを差し引いても、竜達は今しがたアーネを目の前にした瞬間、己では絶対に勝てない事を本能で察したのだ。それだけアーネの魔力は高いといえる。
竜達とも挨拶を済ませれば、最初はウィルの竜から見る事になった。あれ、普通隊長からではないのか?まぁ、アルベルト本人から言い出したのでいいのだろう。
「この前は乗せてくれてありがとう。ウィルみたいに優しい瞳の子だね」
「今回は、この子の名前や好物など聞いて頂けますか。好き嫌いがあるのは何となく分かるのですが…」
「うん、分かった」
アーネはじゃれてくる竜とウィルの間で通訳のように話し始める。
「この子は、アシェルって言うんだって。果物も好きだけど一番は新鮮な生肉が好きみたい」
「アシェルと言うんですね。良い名前です。食事も今度からは肉を多目に準備しましょう」
「グルルル」
「え? そうなの? 竜舎から出してくれれば自分で魔物でも狩るって言ってる」
「…分かりました。アシェル、人や家畜を襲ってはいけませんよ? なるべく私も付き合うようにします」
ウィルが言い聞かせるように竜の顎下を撫でる。名前を呼ばれたからかアシェルも甘えた声を出している。
「優しい瞳……あいつ、ウィルがいない時は結構狂暴だぞ」
「あの暴れ竜に乗ったって…すげぇな」
「副隊長の竜は果物好きの草食系狂暴竜かと思ったらまさかのがっつり肉食系女子…」
「紳士の皮を被った悪魔な副隊長と何か似たもんを感じますねー」
アシェルを警戒してなのか、少し離れている所では、隊員達がひそひそと話をしていた。そんな彼らの会話は、アーネには聞こえていないのだった。
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