第10話 王都警備隊
「という訳で、この方が陛下の妹君のアーネ様だ。剣術は嗜んでるので本日の訓練に参加してもらう」
「皆さん、よろしくお願いします」
総隊長自ら大勢の隊員達へと紹介され、ぺこりと頭を下げる。新人隊員のような初々しさに、隊員達は先程の衝撃的な事など忘れついほっこりしてしまう。
「お前達はいつも通り柔軟・走り込み・素振りの後、グループに分かれて手合わせを行え。指示は各隊長に従うように。では、始めっ!」
「「「「はっ!!」」」」
息の揃った返事をし、手際よく動き出す隊員達はよく統率が取れている。そんな隊員達を見ながらアーネも交ざろうかと考えているとジェイルに見学スペースへと連れていかれた。
「アーネ様は手合わせの時まで見ていて下さい」
「……おじ様、私も走ってくる」
「ははっ、アーネ様が混ざったらあいつらが気が気じゃないだろうに」
「むぅ…」
確かに王妹だと思われて気を遣われても嫌だ。
ちなみに「おじ様」と呼んでいるが血が繋がっている訳ではない。昔、時々彼が護衛につく事があり、段々と慕うようになったのだ。決してお菓子をくれたから懐いた訳ではない。
「それにしても、お転婆なのは変わらんなぁ。隊員と手合わせして木剣をポッキリ折ったって?」
「うっ…! ごめんなさい……」
「こんな可愛い女の子にあっさり負けるとは、あいつらにはいい勉強だな」
「ごめんなさい……」
勝手に手合わせして備品を壊した後ろめたさから、しおしおと小さくなっていると、ジェイルに頭を撫でられる。怒っている訳ではないようだ。
「……長い間一人にさせてすまなかったな」
思わぬ一言に、バッと顔をあげると痛ましそうな顔で詫びるジェイルと目が合った。彼も私の北方行きを反対してくれていた一人なのだ。元凶は自分なのに、罪悪感をあらわにするジェイルに心が痛む。
「おじ様、ありがとうございます。北方行きは自分で決めた事です。それに向こうは楽しかったですよ」
「………そうか」
「はい! しっかり鍛えてももらいましたよ」
得意気に笑ってみせれば、釣られたように笑みを浮かべてくれた。
「それは色々聞きたいですな。そのうち聞かせてもらえますか? あぁ、その時には、アーネ様が知らない王都の菓子を準備しよう」
「わぁ! 嬉しい! おじ様、大好きっ!!」
お菓子に釣られて満面の笑顔を浮かべるアーネ。その無邪気で愛らしい笑顔に準備運動中の隊員達は思わず目を奪われてしまう。そのくらいには破壊力がある笑顔だったのだが、当の本人は全く気付いていない。
「おじ様、そういえばエドもこの中にいるの?」
エドことエドワードは、ジェイルの息子でウィルの弟だ。幼い頃は、よく遊んだとはいえ既に顔を覚えていない。いや11年も経てば成長しているのだから、分からないのが普通だろう。
「あー、エドは今日王都の見廻組でな。終わったら来るとは言ってたが…」
「戻ってきてからまだ会えてなくて…」
「先にアーネ様に会ったからってウィルに噛みついてたな、あいつ。22にもなって子供じゃなかろうに…」
「そっか、私の5歳上なんだっけ。エドもウィルみたいにモテるんだろうね」
「……まぁ、あいつは一途だからな」
「おじ様もサーシャ夫人一筋ですよね」
サーシャ夫人とはジェイルの奥様でウィルとエドのお母様だ。おっとりしていて成人している息子が二人いるとは思えない程、美しいと評判だ。二人はおしどり夫婦としても知られている。
久しぶりの再会という事もあり、たくさんの話に夢中になっていると、こちらにやって来た隊員が何かをジェイルに伝えている。鍛練場を見ればいつの間にか試合形式での訓練が始まっていた。
「アーネ様、何人かアーネ様とぜひ手合わせしたいそうだ。お願い出来ますかな?」
「いいの? こちらこそぜひお願いします」
アーネの強さに驚愕した隊員達だが強さへの挑戦は心踊るものなのだろう。数人の隊員がこちらを伺っているのが見えた。アーネは連れられるがままに訓練場へと向かった。
あれから10人程の隊員と試合をしたアーネは撤収作業も一緒に手伝った。手合わせの結果は、もちろんアーネの全勝である。最初は王妹だからとぎこちなく接されていたが試合を重ねるうちにすっかり溶け込んでいた。
今は片付けも終わり、ジェイルに部屋まで送ってもらっていた。並んで歩くと昔みたいで少し懐かしい。
「そういえば、エドは間に合わなかったなぁ」
「うん…残念。お仕事が忙しいなら仕方ないよ」
「次は俺が文句言われそうだなぁ…」
何の文句だろうか?
「まぁ、約束の菓子を準備した際は、あいつも誘って茶会をしよう」
「おじ様もエドも忙しいんじゃない?」
「なぁに、王女様の話し相手と言えば簡単に休めるさ」
「……ずる休みはだめですよ?」
「あははは! バレたか!」
「もうっ!」
お茶会はちゃんと二人の休みが合う日にしてもらう事になった。アーネは政治には関わらず、特殊な事情故に令嬢達とのお茶会なども必要ない。というか、お茶会をするような知り合いもいない。ぶっちゃけ暇を持て余している。
楽しい会話のおかげで部屋までの道のりはあっという間であった。
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