第5話 過去①
アーネは今は亡き前国王の末子にして第一王女である。生まれたときから魔力が強く周囲を驚かせた。
母はアーネを産んだ後、肥立ちが悪く亡くなってしまっている。父である前国王は、忙しい合間をぬって唯一の女の子であるアーネを可愛がってくれるような優しい人だった。第二王子のクロードの他に、第一王子と第三王子の三人の兄がいた。四人兄妹で末っ子で年も離れていたため、アーネは大層可愛がられた。
父が王太子だった頃に誕生した第一王子は、弟妹達とは歳が離れている。アーネが生まれた時には、既に成人していて政務をこなしていた。非常に優秀で剣技や体術にも優れ、次期国王にふさわしいと評判の王子だった。第二王子のクロードはそんな兄を支持し補佐すべく日夜勉強に励んでいた。
しかし、自分の都合のいいように政治を支配したいと考える一部の貴族達は、第三王子を擁立し反国王派の派閥を作り上げてしまう。二人の兄に劣等感を抱いていた彼は、そこを突かれ兄達との亀裂を深めてしまったのだ。当初は国王達が警戒し牽制していたこともあり特に大きな影響もなかった。
アーネは魔力の高さから、いつか政治の駒に利用されるのではないかと危惧され、城の最奥でひっそりと大切に育てられた。時々遊びにくるクロードに本を読んでもらったり、父と庭を散歩したり行動範囲が制限されていても楽しく過ごしていた。
そんなある日、一頭の白銀の竜が竜舎を抜け出し、突如アーネの元へと現れた。これには、ちょっとした大騒ぎになった。この白銀の竜は、相棒の騎士が年齢を理由に引退しても、竜騎士団の元へ留まり続けている変わり者らしい。
初めて見る竜にきょとんと見上げる幼子。そんなアーネに、竜は優しい声で鳴き深々と頭を下げた。あり得ない竜の行動に周囲は新しい竜騎士の誕生かとさらに驚いた。実際は絆を結んだのではなく魔力の高いアーネを上位の存在として認めたという事なのだがアーネ本人も周囲もいまだにそれを知らない。
アーネは、竜を怖がることもなく新しい友達だととても喜んだ。魔力の高さゆえなのか彼女…竜の声も聞こえたため魔力制御の仕方は彼女から教わっていた。彼女はいつも優しい声で話しかけてくる。当時竜と会話が出来る者はおらず、一人で竜と喋るアーネは不審な目で見られることもあった。この頃には兄の友人のウィルやその弟とも面識が出来ていて、竜を囲んで遊んだりした。
アーネが3歳の頃、状況は一変する。国王が患っていた病を悪化させ亡くなったのだ。
自然と第一王子派と第三王子派で後継者争いが勃発する。第三王子派に雇われた暗殺者が第一王子派を襲ったりするなど緊迫した状態が続く事となる。優秀な第一王子を筆頭にクロードも兄を支え、少しずつ第三王子派の勢力を押さえ込んでいった。後継者争いが沈静化し始めたのは、国王死去から既に一年が経過してからだった。そんな時また新たな事件が起こる。
第一王子が強襲され大怪我を負ったのだ。犯人は、弟である第三王子だった。暗殺者ですら返り討ちに出来る強さがある第一王子といえど、実の弟には多少の油断があったのかもしれない。対立していてもどこかで家族として接したかったのかもしれない。
第三王子はすぐに捕らえられ派閥もそのまま解体された。敵対勢力がいなくなり、あとは第一王子が回復すればようやく長い後継者争いが終わると誰もが思っていた。
しかし懸命な治療も虚しく第一王子はこの世を去った。
そうなると時期国王は自然と第二王子であるクロードにまわってくる。クロードは第一王子の意思を継ぎ即位することを決意する。この時クロードはまだ16歳、アーネは4歳だった。
アーネは、この後継者争いに巻き込まれることはなかった。後継者争いが起きている事も知らず、城の最奥で相変わらず竜に遊びと称して魔力の使い方を習っていた。まだ4歳だったので後継者争いの意味を理解していなかったのかもしれない。兄の葬儀もよく理解していないようだった。
しかし、この時点で魔力の扱いは目を見張るものがあり、周囲の大人達を驚かす腕前へと成長していた。
一方クロードは、第一王子と並び優秀と言われていただけあり、瞬く間に城内を掌握していく。幼い妹を守るため、父や兄が愛した国を守るため、日夜政務に励んだ。
政権争いの膿を出しきるためアーネの魔力で不正の証拠集めなども手伝ってもらった。政治に巻き込みたくないクロードには苦渋の決断だったようだ。風で離れた場所の声を拾うというものだが、アーネとしては得意の魔力で兄の役にたてるのは嬉しかった。
クロードが王座につき一年半もする頃には国内もあらかた落ち着きを取り戻していた。アーネも5歳に成長していた。もうじき6歳の誕生日を迎える。安全を考慮して城の最奥での生活は続いているが、ウィル兄弟もよく遊びに来てくれるので元気いっぱい、少しやんちゃなお姫様へと育っていた。
そんな中またも新たな事件が起きる。
昔から領土争いが絶えない隣国ウルマが進軍してきたのだ。
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