初唐四傑とは

 初唐四傑は、中国初唐の文壇で当時の詩風に物申した四人の天才です。

 まずは構成員を以下にまとめます。生没年も算用数字で。なお、彼らはその頭文字をとって「王楊盧駱」と呼ばれていたため、その順で列記します。この順番に序列的な意味があったかどうかについては諸説あります。


1.王勃おうぼつ(650-676)

2.楊炯ようけい(650-694)

3.盧照鄰ろしょうりん(634-684)

4.駱賓王らくひんのう(635-684?)


 詳細な情報はそのうち個別記事で書くとして(全員有名なので調べたらWikipedia出てきます)、ともかく彼らは四人揃って不遇のうちに人生を終えました。

 以下にざっくりまとめておきます。

 王勃は仕えていた王の怒りを買い左遷され、都に戻ったのち、罪を犯した部下を庇おうとして庇いきれず殺害。恩赦で処刑を免れたものの、連座して流された父に会いに行った帰りに南海で溺死。

 楊炯は神童科に合格してから約一八年間官職に着けられず、親友である王勃が亡くなった直後に任官、その後も盧照鄰・駱賓王を見送り一人遺される。

 盧照鄰は順調な官途を辿っていたが病により辞職。手を尽くせど快方には向かわず片腕と両脚が麻痺。太白山の麓に隠居するも潁水にて自殺。

 駱賓王は寒門の出身で地方官を転々とするも無実の罪で投獄されたりなどした。早くに父を亡くし、女で一つで育ててくれた母を亡くした後は政界に絶望し、徐敬業の反乱に加担。檄文をもって武則天を感心させるも反乱は失敗し行方不明となる。

 彼らの不遇の生涯は、交友の深かった方外十友・宋之問にとってある意味のトラウマになるのでした。


 そんな彼らですが、初唐の詩人としてはトップレベルの才能人たちであり、後代研究も多く残されています。

 また序盤でも触れたとおり、初唐四傑は六朝の華美な詩風が是とされた文壇に異論を唱え、復古を推進したことでも有名です。

 主に王勃と楊炯はかなり過激に文壇への批評を行っており、盧照鄰はそれを援護した形になります。

 ちなみに過激度としては王勃(先秦の屈原・宋玉から否定)>楊炯(漢代以降を否定)>駱賓王(東晋以降を否定)>盧照鄰(南朝文学の一部を否定)となっています。

 ちなみに、王勃楊炯の思想は方外十友・盧蔵用が類似した文学史観を持っていたようで、駱賓王の思想は陳子昂が同様であったそうです。


 また、初唐四傑といえば謎にめちゃくちゃ仲がいいことでお馴染みです(そうか?)

 王勃と楊炯は一四歳で初対面を果たしてからとにかく一緒。王勃が楊炯の実家に滞在していた時期すらあります。

 また、彼ら二人が五言近代詩の基礎を作り、これが宋之問・沈佺期・杜審言に受け継がれ完成されたとされています。

 王勃と盧照鄰は蜀に滞在していた時期が被っており、そこでしばらく交流がありました。さらに王勃が洛陽に帰る時期、盧照鄰も恐らく一緒に帰ってきています。その後、同じ宴に出ていたこともあったようです。

 盧照鄰と駱賓王は、盧照鄰が療養のため隠居した際に駱賓王が通っては共に詩作をしていたようです。また、彼ら二人が七言歌行を完成させました。


 私調べによると、672-674の間に交流をしていた可能性(全員が長安付近にいた)があります。へ〜〜〜。


追記

楊炯除く3人は蜀時代に会っていたことがありそうです(高木重俊「王勃「春思賦」と盧・駱の七言長篇詩」による)。エエ!?



【参考文献】

・張志烈『初唐四傑年譜(四川大学古典文献研究叢刊之六)』(巴蜀書社,1993年)


・高木正一「盧照鄰の伝記と文学」(立命館文學 = The journal of cultural sciences / 立命館大学人文学会 編 (196), 1-32, 1961-10

立命館大学人文学会)

・高木正一「駱賓王の伝記と文学」(立命館文學 = The journal of cultural sciences / 立命館大学人文学会 編 (245), 95-117, 1965-11

立命館大学人文学会)

・古川 末喜「初唐四傑の文学思想」(中国文学論集 = Studies in Chinese literature / 九州大学中国文学会 編 (通号 8) 1979.09 p.p1~27)

・高木重俊「王勃の生涯と文学」(北海道教育大学紀要. 第一部. A, 人文科学編 32 (1), *51-67, 1981-09 北海道教育大学)

・高木重俊「王勃「春思賦」と盧・駱の七言長篇詩」(集刊東洋学 = Chinese and oriental studies (47), p36-50, 1982-05 中国文史哲研究会)

・高木重俊「楊炯の人と文学」(人文論究 = Journal of the Society of Liberal Arts / 北海道教育大学函館人文学会 編 (74), 1-22, 2005-03 北海道教育大学函館人文学会)

・種村由季子「二つの「帝京篇」 : 唐太宗と駱賓王」(中国文学論集 39 44-57, 2010-12-25 九州大学中国文学会)

・半谷芳文「「奉和春閨怨」詩と駱賓王「艶情、代郭氏贈盧照鄰」詩-初唐歌行體作品における同質性と差異性、あるいは嵯峨朝「奉和春閨怨」詩の獨自性-」(中國詩文論叢 37 141-149, 2018-12-31 中國詩文研究會)

・加藤文彬「盧照鄰「五悲」「釋疾文」考」(中国文化 : 研究と教育 78 27-39, 2020-06-29

中国文化学会(筑波大学人文社会科学研究科文芸・言語専攻内))

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