猫の写真
@k_motoharu
第1話
2年生がいる東棟の廊下は、友達との談笑を楽しむ生徒で賑わっていた。
「都古」
「えっ?」
振り返って俺の顔を見るなり、驚いたような表情をしていた。
「え~サガミじゃん~!東棟まで来てどうしたの~?」
そう言いながら俺の側へ駆け寄る。
「あぁ…少しお前に頼みたいことがあってな」
「頼みたいこと~?」
不思議そうに見つめる。
「サガミが私にお願いなんて珍しいねぇ~わざわざここまで来なくても電話でもメールでもくれれば私が行くのに~サハラさんとかにも会いたいしさ~」
「その携帯の話なんだが…」
そう言って俺はズボンのポケットから携帯を取り出す。
「待ち受けの戻し方を教えてくれ」
「…………え?」
普段から丸い目が更に丸くなる。
「サハラの奴に勝手に待ち受けを変えられてな…元に戻そうにも、やり方が分からない」
「…そっかぁ……ぷっ、くくっ…」
「?」
都古は腹を抱えて笑い出した。
「あはははっ!」
「…なんで笑ってるんだ?」
「あはは…ごめんごめん、もっと凄い相談かと思ってたから…あはは、なんだそんなことかぁ~」
一呼吸ついて、都古は俺の手から携帯を受け取る。
「猫の写真じゃん~可愛い~!なんで変えちゃうの~?」
「別に猫が好きな訳じゃない」
「初期設定の待ち受けそんなに気に入ってたんだ~」
「ずっとあれだったから、落ち着かないだけだ」
「落ち着くほど見てないくせに~」
喋りながら携帯の設定画面を弄る姿は、どこか楽しそうだった。
「ていうか、待ち受け変えられるってサハラさんとそんなに仲良かったんだねぇ~」
「別にそういう訳じゃない」
「またまた~」
「おいおいそりゃねぇぜサガミー!」
突然、廊下の窓から声がした。
「えぇ?!サハラさん~?!」
「またお前はそんなところから…」
「よっ!」
窓から勢いよく廊下へ飛び込むサハラ。
「そんなところって……ここ3階ですよ~……?」
「なんでここにいるんだ」
「いやな?サガミが東棟に向かうところを偶然見かけてよ、2年の教室に何の用があるんだろうと思ってついてきた」
「…俺は窓の外なんか登ってねぇ」
「普通に後つけたらバレんだろー?」
そう話すと、今度は自分の携帯を取り出す。
「せっかく猫の写真の新作送ってやろうと思ったのによー、東棟まで来て待ち受け戻そうとすんなよなー」
「…別に頼んでない」
「そうかー?物欲しそうに俺が撮った写真見てたじゃねーか」
「見てねぇ」
すると突然、都古が持っていた俺の携帯が鳴り始めた。
「うわっ!なんか色々送られてきたよ~?」
「俺の新作!昨日猫が路地裏にいっぱいいたから撮ってきてやったぜ!」
「へぇ~可愛い~!サガミ愛されてるねぇ~」
「だから頼んでねぇって」
設定が終わったのか、都古が俺に携帯を手渡す。
「でもサガミあんまり猫好きじゃないらしいですよ~?」
「いや、それは照れ隠しの嘘だな。俺には分かるぜ」
「なんでだよ…」
サハラは流れるように俺の手から携帯を抜き取る。
「じゃあさ、こうするのはどうよ」
サハラは内側のカメラを起動させ、俺を含む3人の自撮りを試みる。
あいつが何をしようとしているのかに気付くより早く、シャッターが切られた。
「ちょ、おい…」
「お!さすが女子!あんな短時間でもしっかり顔作ってんなー!」
「あはは、急すぎてそんな余裕なかったですよ~半目とかになってませんか~?」
先程撮れた写真を楽しそうに眺める二人。
「っていうかサガミしっかりカメラ目線じゃん~!サハラさん私にもこの写真送ってください~!」
「おうよ!」
我が物顔で俺の携帯を操作するサハラ。
「これなら“好きじゃない”なんて言えないだろ?」
「……。」
俺はサハラから携帯を受け取ると、来た道を戻り始めた。
「ちょ、おいおい待てよ逃げんなよー!!」
「あはは~。……でも、否定はしませんでしたね」
「…、……だな!」
次に携帯を開いたのは、家に帰ってからだった。
待ち受けは違う猫の写真に変わっていただけで、写真フォルダには大量の新作と昼間の自撮りが追加されていた。
猫の写真 @k_motoharu
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