第12話 謎解き開始
夏子は少し照れくさそうに窓側へ歩きながら話し始めた。
「今からお話することは、推測です。本当のことがどれだけ含まれているのかはわかりません。だから、失礼な言い方になってしまうことがあるかもしれません」
私は森脇さんを見た。彼は目を閉じて夏子の話を聞いていた。
「本来なら今日は、会社でインターンシップが行われていたはずだとお聞きしました。森脇社長が急に予定を変更されたと。その理由は、田中巴さんにあると、私は思います」
山根さんや杉田さんは少し驚いた。
「森脇コーポレーションはいつも特定の大学からインターン生を受け入れていると聞きました。田中さんは、その特定の大学の学生ではありません。にもかかわらず、森脇さんは、田中さんをインターン生の選考に通した。森脇さん、合っていますか?」
夏子が尋ねると、森脇さんは無言で頷いた。
「そこには、何らかの理由がありました。しかし、いざ、インターンシップの日が近づいてくると、森脇さんは、えーっと、その、田中さんと会うことに消極的になっていきました。だから、森脇さんは、会社でのインターンシップを急に中止にしたのです」
夏子は森脇社長の表情をチラチラと確認しながら話し続けた。
「ところが、社長室長の山根さんは、たくさんのインターン生を受け入れる予定になっているため、日程や業務の都合上、今日の社長宅でのインターンシップに参加できるかどうかをインターン生に尋ねました。それにオッケーしたのが、田中さんでした。そのことを知らなかった森脇さんは、おそらく驚かれたであろうと思います」
木下さんは、思い当たる節があるような反応をしていた。同じく、山根さんと杉田さんも。
「田中さんがこの家に来て山根さんたちと作業をしている時、すでに皆さんから聞いた通り、色々な行き違いや手違いが起きて、田中さんと監査報告書が消えてしまいました」
山根さんは困った表情に、杉田さんは半泣きな表情になった。
「山根さんたちが敷地の外へ探しに行きましたが、見つけられず、私たちと遭遇して、またここに戻ってきて、えーっと、それから、“子どもを預かった” という紙が見つかり、聡くんも消えてしまった」
木下さんは気味悪がって身震いしていた。
「その後、なぜか監査報告書がこの寝室で発見されました」
森脇さんは、じっと目をつぶって聞いていた。
「少し話を変えて、田中巴さんのことをお話します。私は、田中さんと同じ大学に通っています。田中さんの所属するデザイン科に知り合いがいるので、田中さんのことを訊いてみました。田中さんは、現在大学を休学しています」
「え、休学中ですか?」
山根さんが驚いた。
「はい。田中さんは、アルバイトをたくさん掛け持ちしてるそうです。それで忙しくなって大学に来られなくなったみたいです。田中さんは最近突然、弟の話をするようになったそうです。田中さんの中学と高校時代の仲の良い同級生がデザイン科にいるというので、その人に、弟さんのことを訊いてもらうよう、知り合いに頼んでみました。さっき、返信があって、田中さんには弟はいないということでした。高校時代に何度も田中さんの家に遊びに行ったことのある仲の良い同級生がそう言ったということです」
「おう、弟がいないのに、弟がいるって言ってたの?」
「えー、なんかー、怖いー」
京子は少し怖がり始めた。
「いや、えーと、田中さんには弟がいます。田中さんは、最近、その弟と連絡を取るようになったのです」
「おう、田中さんには弟がいるのか。それで、弟と連絡を取るようになったって、一緒に住んでなかったのか……」
係長が、私も思った疑問点をつぶやいた。
「んーと、この事件の犯人ですが」
夏子はあれこれと考えながら話し続けた。
「犯人は一体、誰……」
山根さんが呟いた。
「あ、えっと、この事件の犯人は、森脇さんを困らせたかったんだと思います」
「困らせる!?」
係長が驚いた。
「えっと、聡くんは、森脇さんが言った通り、パソコンで日記を付けていました。それと、メールのやり取りもしていました。それによると、聡くんはかくれんぼをして、自分の父親を困らせたかったんです」
「おう、夏子ちゃん、どういうこと?」
「それって、聡坊っちゃんが犯人ということでしょうか?」
木下さんが驚いた。
「はい。そうだと思います」
みんなが驚いた。
「おう、さっきのパソコンの日記とかにあったよな、かくれんぼする、って」
「夏子、パソコンのメールとか日記は、消去されてるのが多くて、ほとんど参考にならないと思うんだけど」
私は夏子に思うことをぶつけてみた。
「うん、そうだと思う。でもお姉ちゃん、とりあえず、聞いて。初めにも言いましたが、私が言うことには、かなり憶測が入ります。……その人は、お母さんと二人家族です。お母さんが病気で倒れてしまったので、学費も生活費も全て自分で稼がなくてはならなくなりました。そのため、大学を休学せざるを得なくなりました」
「おう、何の話?」
「その人は、父親に援助を頼みたかったのかもしれません、恨みがあったのかもしれません。その人は、本来、来るはずじゃなかった場所に来てしまいました。おそらく、昔自分が住んでいたことのある場所です。昔、秘密の部屋を発見した場所です。その人は今日、自分が置かれたほんの一瞬の時間に衝動的になってしまいました。監査報告書を持ち去ってしまったのです。それから、秘密の部屋に隠れました。その後で、“子どもは預かった” という紙を置いて、まるで聡くんが誘拐されてしまったかのような出来事が起こったのです」
「おう、夏子ちゃん、よくわからないんだけど、それって、田中さんのこと?」
「犯人は一体誰だと……」
山根さんは困惑していた。
「夏子、犯人が秘密の部屋に隠れたとしても、どうやってそこから出て、この敷地から外へ逃げることができるの?」
「おう、そうだよな。まだどこかに隠れているとしても、どうやって逃げるんだ?」
「そうよねー」
「おう、それに、なぜ、監査報告書を返したんだ?」
夏子は質問責めにあって、少しあたふたしていた。
「あ、えーっと、犯人は、おそらく、逃げる気なんかなかったはずです」
「え、どゆこと?」
係長は首を傾げた。
「犯人は正々堂々と現れても構わないと思っていたはずなんです」
「でも夏子、それって、警察に連絡されて、最悪の場合、逮捕されて大学を強制退学になってしまうわよ」
「お姉ちゃん、そうはならないのよ」
「え、どういうこと?」
私は首を傾げた。
「犯人が森脇さんたちの前に現れたとしても、森脇さんは警察に連絡なんてできなかったはずなの」
「えー、どうゆーことー?」
京子は首を傾げた。
「監査報告書を返したのにも理由があります。犯人は森脇さんを困らせようとしていたのですが、途中で気が変わったんです」
夏子は棚の方を見た。みんなもつられて同じく。そして夏子はその棚の前まできた。
「私の推理には、たくさんの空白があったんだけど、これを見て、空白の部分を埋めることができました」
そう言って夏子は棚に飾られてある写真を見た。
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