第11話 わかった?
寝室に行こうとすると、家のチャイムが鳴った。廊下の窓から外を見てみると、山根さんが若手社員たちとともに門まで行って誰かに応対しているようだった。
「弁護士先生が来られましたので、室長さんたちが先ほど見つかった書類を渡しに行かれました」
木下さんがそう説明してくれた。私たちは寝室へ向かった。
寝室では、森脇さんがベッドで横になっていた。その横で杉田さんは椅子に座って心配そうな顔をしていた。
「森脇さん、聡くんのパソコンにログインできました。それで、日記を読ませてもらいました。それによると、聡くん、秘密の部屋を見つけたそうです。場所は、廊下の突き当りの奥の部屋。何か心当たりはありませんか?」
係長が尋ねると、森脇さんは起き上がって、不可解な面持ちになった。
「この部屋のことでしょうか……」
森脇さんは思い当たる節が全くないようだった。森脇さんから答えが返ってくることはなさそうな感じだったが、係長は返答を待っていた。その間、夏子はガラス張りの棚を見ていた。京子も同じく。杉田さんは森脇さんを心配そうに見ていた。そこへ、山根さん、木下さんらみんながやってきて、顧問弁護士に監査報告書を渡したことを森脇さんに告げた。
「森脇さん、この部屋、調べさせてもらえませんか」
「ええ、どうぞ」
係長に言われて、森脇さんは承諾した。
私と係長はカーテンを開けて窓枠を調べたり、ベッドを移動させて壁を叩いたりしたが、異常はなかった。京子は夏子と一緒に棚にある聡くんの写真を見ているようだった。なので、ベッドを移動させるのをギャル系の社員が手伝ってくれた。
「ちょっと、京子、手伝ってよ」
「おう、香崎、今度は、その本棚、動かそうか」
「その本棚は、床に釘で打ち付けてありますので、動かせません」
森脇さんが言った。森脇さんの方を向いたら、夏子が目に入った。夏子はじっと一点に集中して何かを見ているような感じだった。
「夏子」
私が呼びかけると、夏子は少しビクッとして振り返った。
「ごめん、夏子、考え事してた?」
夏子は何かをひらめいたような表情をしていた。
「お姉ちゃん、私、この事件、わかったかもしれない」
「えっ!」
「夏子ちゃん、マジで?」
「すごーい、夏子ちゃーん」
夏子はポカーンと口を開けて虚ろな感じだった。
「あ、でも、私、刑事じゃないし……」
「いいじゃないー、文句なんか言わないわよー」
「夏子ちゃん、話してくれていいよ」
「……でも……」
夏子は躊躇していた。
「そうね、夏子は刑事じゃないから」
私が夏子を思いとどまらせようとしたら、係長が夏子に近づいていった。
「夏子ちゃん、大丈夫だ。わかったことを話して」
「係長ー、夏子ちゃんの肩を触らないで下さーい」
京子が係長の手を叩いた。
「夏子ちゃーん、話してくれていいのよー」
「そうだよ、夏子ちゃん」
夏子はみんなから注目されながら、気兼ねしていた。自分がわかったと言ってしまったために場の雰囲気が一変してしまったことの責任を取らなければならないという使命感に駆られたように、夏子はスッと息をして、目つきが変わった。
「では、話します。でも、人払いをお願いできますか……」
夏子は誰に視線を向けることもなく、目をそらしながら言った。山根さんたちは、誰を人払いするのだろうかと、それぞれ顔を見合わせていた。森脇さんは椅子からゆっくりと立ち上がった。
「……夏子さん……私に気を使ってくれてるんですね」
森脇さんが言ったが、みんなは何のことだか分からなかった。
「……ありがとう……ですが、社員たちにも聞いてもらったほうがいいだろうし、どうぞ、続けて下さい」
森脇さんが夏子に穏やかな表情で話した。誰もが予想できない展開に驚いていた。
「……でも……」
夏子はまだ躊躇していた。
「社員たちにも聞いてもらわないと、みんな納得しないことがあると思います。だから、話して下さい」
森脇さんはそう言って、棚の写真にスッと目をやった。夏子はそれを見て、全てを理解したようで、少し唇を噛んだ。
「わかりました」
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