第8話 訳ありインターン?

 私と夏子が応接室から出て、長い廊下を渡っていると、杉田さんが前から歩いてきた。

「森脇さんの具合はどうですか?」

「はい、落ち着いてきました。精神的に疲れているのだと思います。社長は心身共にお強い方なので、こんなことは起きたことがないのです。ですから、医者を読んだほうがいいのか……」

「杉田さん、お尋ねしたいことがありますので、少しよろしいですか」

「はい」

 私たちはすぐ隣の部屋を借りることにした。

「このお家、すごいですね」

 夏子が言った。

「とても大切に使われていますよね」

 杉田さんが答えた。

「築何年くらいなんですか?」

「うーん、この家は、社長がお父様から相続されたそうで、それ以来増改築は一切していないと社長がおっしゃってました。だから、とても大切にお住まいになっておられるんだなと思います」

「へーっ、すごい。家を見ると、住んでる人の人柄がわかりますね」

 夏子の言葉に、杉田さんは嬉しそうにしていた。そんな杉田さんにいきなり質問を浴びせるのは酷かと思ったのだが、私はきっちりと刑事の仕事をしようと考えた。

「杉田さん、森脇社長が誰かから恨まれているということはありませんか?」

「え、いや、そんなことは絶対にないと思います」

「会社が何かトラブルに巻き込まれたとかは?」

「いえ、そんなこともありません」

「そうですか。聡くんのことは、どの程度知っていますか?」

「私は、こちらにはあまり来ませんので、聡くんとはこれまでに数回会ったぐらいです。まともに話をしたのは今日が初めてでした」

「以前に聡くんとお会いされてて、それで今日、聡くんと話をされたということですか。具体的には、どのような話を?」

「はい、パソコンのメールソフトがうまく作動しないから、みてほしいと言われました。ウイルスソフトのレベルを強から一段下げたら、ちゃんと動作するようになりました」

「聡くん、メールしてるんですか。森脇さんがたしか、スマホは持たせてないって言ってたからでしょうか」

「そうなのでしょうかね」

 杉田さんも森脇さんのように低姿勢で綺麗な言葉遣いで丁寧に話した。

「田中巴さんのことで、何かありませんか? 変だと思ったこととか」

「んー……」

 杉田さんは考えこんだ。

「そういえば、山根さんが言ってましたが、インターンシップはいつも会社で行なっているけど、今日はこちらのお宅で行なっているって。何か理由があったんでしょうか」

「いえ、たまたまだと思います。確かに、いつもは会社で行なっています。ですが、社長が、三日前に、今日の仕事を休みたいと希望されたので、本来は今日は我々社員だけで、ここで作業をする予定でした」

「えっと、それでは、田中さんがここでインターンされてたのは?」

「えっと、田中さんは、元々今日、会社で他の学生たちとインターンシップするはずだったのです。しかし、今申しましたように、社長が急遽休みたいと言われたので、インターンシップが一旦中止になりました。ただ、インターンシップの申込み人数が多いこともあって、この先予定が詰まってしまうかもしれないので、山根室長が元々来ることが予定されてた学生に連絡を取ったところ、田中さんが社長宅でもかまわないのでインターンシップを希望されたということでした」

「そうですか。ということは、森脇さんが突然休みたいと言わなかったら、田中さんがここに来ることはなかったんですね。じゃあ、偶然なんですね」

「ええ、そうだと思いますね」

「インターンシップの学生さんを選考するのは、どなたの担当になるのでしょうか」

「それは社長がされています」

「森脇社長が直々にですか」

「はい。社長はお父様から会社を引き継がれる前は、別の会社で人事部門に長く勤めていらっしゃったと聞いています。なので、人を見る目に自信があると、本人もおっしゃってました」

「そうですか。山根さんが、田中さんに何か違和感を感じたけど、気のせいだったと言ってましたが、そのことで何かありませんか?」

「違和感ですか。んー、そう言われると、社長がどこかそわそわしていたような気が

 しなくもないですが……」

「そわそわですか。木下さんも同じようなことを言っていましたね」

「……んー……んー……気のせいかもしれませんね……」

 杉田さんは数秒間考え込んでいたが、何も出てこなかったようだ。私たちはしばらく話を続けたが、特に有益な情報は得られそうになかった。夏子はしっかりとメモを取ってくれていて助かった。

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