第9話 まさかの発見
喉が渇いたから何か飲みたいと夏子が言うので、お茶をもらうために応接室へ戻った。
驚くほどのことでもなかったのだが、京子が女性社員たちと打ち解けて仲良くつるんでいた。山根さんがテンション低く悩んでいるのにも関わらず、京子は楽しそうに会話していた。もちろんギャル語で。二人の女性社員も若干ギャルっぽく。
「ねえお姉ちゃん、京子さんてすごいね。もう仲良くなってる。でも村田さん、会話に入っていかないのかな」
「夏子、係長のあの落ち込み方、たぶん、ナンパしようとしたけど、京子に邪魔されたのよ」
「……なんか、気の毒……」
私と京子は水分補給を終えてから、行き当たりばったりでまた廊下に出た。すると、係長が素早く後に続いて出てきた。
「おう、香崎、夏子ちゃん、頑張ろうか」
どうしようかと迷ったが、私は聡くんの部屋に向かった。途中で森脇さんが杉田さんに何か声をかけているのに遭遇した。二人とも疲れているようだった。
「森脇さん、聡くんの部屋のパソコンを使ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ、かまいませんよ」
私たちは聡くんの部屋に入った。パソコンを起動させたが、ログインするのにパスワードが必要だった。
「森脇さん、パスワード、わかりませんか?」
「いいえ、知りません」
「おう、香崎、子どもだから、誕生日の数字とかにしてるんじゃないか」
「では試してみますね」
森脇さんから聡くんの誕生日を聞いて、その数字を打ち込んでみたが、エラーだった。西暦を元号に変えてみたり、月と日だけを打ち込んでみたが、エラーになった。
「あれ、三回間違ったから、次にパスワードを打ち込めるのは30分経過してからに……」
「おう、マイ、ガー!」
係長のギャグかどうかわからない叫びに、私も森脇さんも杉田さんも全く笑わなかったが、夏子は失笑していた。
私たちは仕方なく、応接室へ戻ることにした。森脇さんは杉田さんに支えられて自分の寝室へと戻っていった。
私たちはソファーに座った。目の前に座る山根さんに聞き取りすることにした。
「山根さん、杉田さんから聞きましたが、会社でのインターンシップが急遽中止になって、山根さんが学生たちに、社長の自宅でのインターンシップに参加できるかどうかの確認をしたそうですね」
「ええ、はい」
「日程に余裕がないからだという理由でしょうか」
「はい、そうです。社長が急に中止にしたいとおっしゃったのですが、日程が詰まりそうなので、社長宅でも来られる学生がいれば来てもらおうと思いましたので、連絡を取りました」
「それで、田中さんがオーケーしたということですね」
「はい」
「なるほど」
夏子は可能な限り丁寧にメモを取っていた。
「……あの、刑事さん。気になることが……」
山根さんは何か思い出したような感じだった。
「会社でインターンの学生さんを選考していた時なんですが、社長がエントリーシートを見ていて、田中さんを追加したいとおっしゃったのです。当社はいつも私立大学郡のAUGUSTの学生を採用していますので、都公立大学の学生さんがインターンシップに来ることはありません。田中さんは都公立大学から初めての学生さんとして、当社のインターンシップに来ることになりました。何か、社長が訳ありで田中さんを選ばれたのかなと思いまして……」
「気になりますね」
「おう、気になるな」
夏子は目を輝かせていた。その隣で係長も。
「テレビドラマだと、こういう場合は、脅迫とかじゃないですか。社長が田中さんに弱みを握られてて、選ぶしかなかったみたいな」
「夏子、それだったら、どうして会社の大事な書類を盗んで消えたのよ」
「それは……」
「いや、さすが夏子ちゃん、いい推理かもよ」
私は正直、係長のおっさん構文を気持ち悪いと思ってしまった。そして、係長に警告してやろうと思ったのだが、予想外のことが起きていたためできなかった。杉田さんが応接室に駆け込んできたのだ。
「お、おい、みんな、あった、あったぞ!」
杉田さんはひどく焦っていて手が震えていた。
「監査報告書、あった。社長の寝室に、あった」
「え!」
杉田さんは何枚もの紙の束をみんなに見えるようにぱらっと開けて見せた。そして森脇さんも部屋に入ってきた。
「私の寝室の机の書類の中に混ざっていた」
「森脇さん、なぜそんな所に?」
「わかりません。寝室もしらみつぶしに探したのですが……」
森脇さんも驚きを隠せないようだった。
「私も何度も社長の机の上を見ましたが、え……」
山根さんも、社員たちも呆然としていた。
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