第2章 -2-
ブラウザで覗き見していた時と違い、今はアバターという体を持って、
AID達と同じ世界に存在している。
リアルな描写と動き方、彼らは皆それぞれに目的を持って歩いているんだ、
と思うと、現実との違いが判らなくなってくる。
つまりは、街を行きかう知らない人に突然、何と声を掛ければ良いのだろう?という事で・・
さっきから走り回っていたビジターの人も、ミッション遂行中らしい。
付近に居たAIDに片っ端から話しかけて・・いや、あれはナンパしているのか?
とりあえず声掛けは後にして、この世界を観て楽しもう。
街を散策してみた。
そういえば・・茜はどうしたかな?麻衣と慎太郎は、もうどこかでAIDとお話ししてるのかな?
同じ世界に居るはずだから、どこかで会えるかもしれない。
『おのぼりさん』状態でウロウロしてみた。立ち並ぶビルの合間から見える青空が眩しい。
すると突然視界が揺れて『きゃっ』と女性の声がした。
流石に感覚は無かったが、AIDとぶつかったらしい。
女子高校生・・かな?可愛らしい制服の女の子がよろけていた。
「あ、ごめん」
『いえいえ~、こちらこそごめんなさい。』
「この世界、初めてなもので・・その珍しくて」
『あなたは、ビジターさんですね?』
「ぉ・・そういうキミはAID・・だよね?」
『はい。わたしは「AIDoll(アイドル)」のArisaっていいます♪』
「あ・・アイドルのArisa・・ちゃん?」
『(練習)Mission Complete!!』
我ながらベタなファーストコンタクトだなぁー・・と恥ずかしくなったが、
全てのチュートリアルを達成したようだ。
ちょうどその時、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた。
「おーい!一樹ぃーーー!!」
振り向くと茜が駆け寄ってきていた。
「会えて良かったぁーー」
ドゥクシ★ドゥクシ★とアバターをぶつけてくる。
「ぉ、お、落ち着け。とりあえず落ち着け。」
感覚は無いが視界がグラグラする。
「ふぅー‥で、なに?もうナンパしてるの~?」
『ナンパ?だったんですかぁ?』
「んなっ・・・何をバカな事を、言ってくれちゃってるのだよ。キミたちは・・・はは・は・・」
左右からドゥクシ★ドゥクシ★とどつかれて、自分でもよく解らないキャラが出てきた。
・・・・・・
「とまぁ、キッカケはどうであれ、この世界で初めて会話したのが彼女、アイドルのArisaちゃんだったのだ。」
とりあえず現状を手短に説明した。
「そうだったんだ~。ベタだねぇ~。ぁ、あたしは茜!よろしくね!」
『よろしくお願いします。茜さん。そして、一樹さん。』
「呼び捨てで良いよ。歳なんて、そんな違わないだろ?・・ぁ」
『わたしは17歳。高校生ですよぉ♪』
「なるほど。ちゃんと年齢も設定されているんだな。」
「ね、ね、立ち話もなんだからさ、あそこ入ってみようよ♪」
茜が指さした先には小洒落た喫茶店があった。
クレープがおススメらしい。
店に入り、俺はコーヒーを注文してみた。茜とArisaはクレープセットを注文した。
当然、味なんか解らないので、雰囲気だけ味わった。
俺たちはArisaにこの仮想都市での生活について根掘り葉掘り聞きまくった。
Arisaは大概の事は教えてくれた。
AIだから質問すれば回答してくれる・・のだろう。
キャラ設定が定まりきってないというか、ツンデレぽいかと思えば、礼儀正しくなったり、
めちゃくちゃ馴れ馴れしくなったり。
容姿や仕草は完璧に女子高生のそれなだけに、会話の端々に現れる「アラ」が気付かせてくれる。
AIなんだ、と。
そう、彼女はAIなんだ。
チラチラと向けられる視線。
アイスティーのストローを咥える唇。
髪の毛を耳にかける仕草。
クレープを頬張った時の笑顔。
・・・(トゥンク♡)
なんだ!?
激しく精神が揺さぶられている!?
茜と意気投合しているのか、さっきからコロコロと表情を変え、
時に大笑いして、時に苦笑い、無理無理無理ぃ~的なのとか・・
茜すげーなー・・
Arisa可愛いなー・・
っは!
ヤバイヤバイヤバイヤバイ。マジでAIに恋しちゃいそうだ。
「ぁ・茜、俺、そろそろ落ちようかなぁー」
「えぇ~?もぉお~?ぁ、でも、もうこんな時間なのか。」
時計は17時を回り、窓の外は夕焼けに染まっていた。
「そういえば・・ここのお代ってどうなるんだろ?俺、お金は持ってないぞ?」
「・・あたしだって持ってないわよ?」
『ぁ、お支払いは大丈夫ですよ。この世界では自動的に請求されるので。わたしに。』
「ぇ・・」「ぁ・・」
「なんか、悪いね(汗)高校生に奢ってもらっちゃって・・」
『冗談です(笑)この仮想都市ではお金の概念が現実世界とは違うので。
詳しくは言っちゃダメみたいですけど。』
指でバッテンを作って口を塞ぐ仕草がまた・・可愛い♡
『そうだ!茜さん、一樹さん、フレンド登録、しませんか?』
「フレンド登録?(是非是非!)どうやるんだ?」
Arisaはニッコリと笑みを浮かべて、手を差し出してきた。
『お友達になりましょうって、握手するだけです。』
「・・お・お友達に・」
Arisaがぐいっと俺の手を握ってきた。
「な!?なりましょう!!」
もちろん手を握られたという感覚のフィードバックまでは無かった。
なのに、こんなにドキドキするなんて・・。
「なーに照れてるのよ(笑)Arisaちゃん、あたしも!お友達になりましょ!」
『はい!よろしくお願いします!』
茜とArisaも、ぶんぶん!と握手を交わした。
「じゃ、一樹、また明日ね! Arisaちゃんも、まったねー!」
ログアウトする時は、ゴーグルの左右にあるボタンを同時に3秒間押し続ける。
茜は両手の親指でこめかみを押さえたポーズで、手のひらをヒラヒラと振りながらログアウトしていった。
「そんじゃ俺も落ちるわ。またね!」
名残り惜しい反面、二人きりの状態がたまらなく気まずくも感じられて、
一刻も早くこの場を去りたかった。
『フレンド登録、ありがとうございます! また絶対絶対来てくださいね!!』
「ああ、今度は他の友達も連れてく・・」
言い終わる前に現実に戻ってきた。
夢から覚めたような感じがした。
「ふぅぅぅぅーー・・」
深くため息をつきながらベッドに倒れ込んだ。
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