アヤコとサトル
暑さはまだまだ残るものの、日差しは少しずつ柔らかくなってきた。
若い男女が大きな公園の敷地を歩いていた。
二人が恋人同士であるのは、その距離感から明らかだ。
休日には多くの人々で賑わう広場も平日の昼は静かである。
小さな子どもを連れた母親たちがまばらに見えるくらいだ。
若い二人は大学生の特権を行使しているのだろう。
男性は大きな肩掛けカバンと籐製のバスケットをたずさえている。
バスケットのはしからはワインの小瓶らしきものがのぞいている。
暖かく乾いた芝生の上で二人は立ち止まる。
男性が女性に何かを話しかけている。
乾いた芝生のうえにレジャーシートを広げると二人は笑う。
男性はカバンから取り出した折りたたみテーブルを器用に組み立てるとシートの真ん中に置く。
そして、女性の前で大仰な礼をしてみせる。
女性はほほえみながらシートの上に座る。
女性はバスケットから食事を取り出して、テーブルの上に並べていく。
バゲットのサンドイッチ、楊枝にさした色鮮やかな軽食とチーズの詰め合わせ、二脚の小さなグラスと紙皿がテーブルを占領する。
男性は目の前に並べられた食事に歓声をあげて、何かをささやく。
女性はほのかに顔を赤らめる。
二人は談笑しながら食事を楽しむ。
しばらくして男性が目をぬぐった。
「どうしたの?」
優しい口調で問う女性に男性が答える。
「ずっとこうやっていられたらなって思って。そしたら、どういうわけか涙が出てきた」
男性はそういうと泣きながら笑った。
彼はレジャーシートの上でごろりと転がると、女性の手を握りしめた。女性の流した涙が彼の額をぬらす。
周囲で遊んでいた子どもたちの姿が薄れていく。母親の姿も薄れていく。
生暖かい風が吹いてくる。べったりとした風が吹いてくる。
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