33 白い部屋、赤い薬と青い薬

 真っ白な部屋には何もなかった。

 昔見た映画の冒頭を思い出す。

 男がワイヤーでさいの目状に切り裂かれるというやつだ。


 俺をバラバラにするワイヤーはあらわれず、かわりに扉があらわれる。

 ブラックスーツの二人組が入ってくる。どちらがメズでどちらがサンカワかわからないが、それはどうでも良いことだ。


 「オメデトウゴザイマス」「オメデトウゴザイマス」

 めでたいなどと微塵も思ってもいないだろうにと俺は心のなかで毒づく。そもそもこいつらには感情などあるわけないのだろう。


 「元の世界に戻れるんじゃなかったのかよ」

 俺は二人組の感情のこもっていない祝福の言葉をさえぎるようにして質問する。


 「ご希望とあらば元の世界に戻れますが、その前に選択肢を提示しに参った次第です」

 ご希望もなにも、それ以外にどのような選択肢があるというのだ。


 白い部屋に突然プロジェクタで投射されたような画面があらわれる。

 無数の顔写真が画面に映し出される。


 二人組が交互に説明を始める。

 俺は黙って聞いていた。


 どのような人物がどのような理由で人を呪い地獄に落とそうとしたのか。


 ブラックスーツの二人組は抑揚のない口調でそれぞれの行動や動機、今何をしているのかを詳細に説明していった。

 呪った者と呪われた者、もちろん、中にはすでに知っている名前や顔も混じっていたが、大半は知らないものだった。

 そもそも大半の犠牲者とは話をしてもいないし、下手すれば顔すら見ていないのだ。それに呪った方については顔も名前も知らない。


 俺は説明を聞く。

 今の俺にとって、それはとても魅力的なものであった。

 だから画面に映った顔と名前、説明を頭に叩き込んでいく。忘れてはいけない。すべてを刻み込んでやらないといけない。


 どうしようもないやつはたくさんいた。

 田中さんと南田さんもあんなやつのせいでダルマにされるとは皮肉なものだ。


 中には俺でも呪いたくなるだろうという者もいた。

 たとえば、瀬能さんはまぁ同情できない。佐藤さんも自業自得かもしれない。

 彼らを恨んだ人にはそれなりの理があることは俺も認める。

 だから、そのような人には申し訳ないなと思う。


 それでも人を呪わば穴二つだ。

 ああ、俺も同じだ。俺だけが逃げるなどというつもりはない。


 ブラックスーツの二人組の提示した二択、すでに俺の心は決まっている。


 「もちろん、最後の最後で選択を違えても誰も非難したりはしません」


 片方が錠剤の入ったシートを差し出す。

 銀色のシートに入った二種類の薬、赤い薬と青い薬。

 俺は迷わず赤い薬を取り出すと、それをがりがりと噛み砕いた。


 「ジゴクニオチロ」「ジゴクニオチロ」

 非難はしないはずではなかったのか。まぁ、これがあいつらの挨拶の言葉なのだろう。

 俺はブラックスーツの二人組の言葉を聞きながら目を閉じる。

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