6 逃げろと言う男
惑星アジール上空である。
何隻ものアームズの船団の浮かぶ中、中央に位置する船でベレスフォードは冷たく整った顔の唇だけを歪めた。
「惜しい男だが仕方がない。星もろとも消え去れ」
合図をしようとした時である。
「小型のスペースシップが急接近中。アジールに向かっているようです」
部下の一人が報告してきた。
「あいつらの仲間だろう。打ち落とせ」
ベレスフォードが余裕を持って命令する。だが、すぐに部下の慌てた声が返ってきた。
「待ってください。これはアームズ様の──」
「何だとっ!?」
落ち着いて表情も崩さない男が立ち上がった。目を凝らすようにして目の前のスクリーンを見る。一隻のスペースシップが映し出された。
「アームズ様の専用機です。アジールに降下中」
スペースシップは、あっという間にガスで覆われた眼下の星に吸い込まれて見えなくなった。
「な、何だと……、誰が知らせた!!」
不意に背後で女の哄笑が沸き起こった。
「ふふ…、あはは……、おーほほほ……」
「アンジェリカ、お前かっ!」
アンジェリカ・マルティーノはにっこり笑って品を作り、ベレスフォードに擦り寄る。
「チャンスですわ、ベレスフォード様。アームズ様さえいなくなれば、アームズ社は私たちのもの」
そう言って唆した。
蜂蜜色の長い髪が、クルクルと渦巻いて背中の辺りまで伸びている。ミルク色の肌に最小限、身体に着けられた衣装、突き出た胸と引き締まった腰の妖艶な美女が、勝ち誇った笑顔で笑いかける。
ベレスフォードはゆっくりとアンジェリカ・マルティーノを振り返る。アンジェリカが嬉しそうに手を伸ばしたが、物も言わずバンッと手で張り倒した。
アンジェリカは部屋の隅までゴロゴロと転がった。
「やっぱり、あんたは──」
頬を押さえて悔しがる。
ベレスフォードはアンジェリカには目もくれないで、
「アームズ様を追いかけろ」と指示を出した。
「もう遅いわよ、ベレスフォード。あの星はガタガタだわ。ここから攻撃しなくても、仕掛けた爆発物一つで、あの星は崩れ去るわ」
ベレスフォードは唇を噛み締めて、眼下のガスに覆われた星を睨みつけた。
* * *
金色の髪の中年の女性がベッドに縛られている。
「ルス!!」と、ヴィーが叫んだ。
ナギは引き寄せられるようにふらふらとその女の人の方に歩み寄る。
「近づくな、磁気ベッドだ」
ヴィーがナギを引き止めて部屋の中を見回す。部屋の隅に設置されている装置を見つけた。
しかし、装置の解除ボタンを操作しても電源が切れなかった。
「仕方がない。壊そう」
ヴィーが剣を抜く。剣が光を帯びた。装置に切りつけた。メイも飛び上がって足蹴りを食わせた。グワッシャン!と装置がひとたまりもなく悲鳴を上げる。
シュウン……と唸り声を上げて機械音が消える。
ナギは女の人の側に走り寄った。
「大丈夫?」
気を失っているのか瞳は閉ざされて、息も微かだった。
ナギは女の人に手を触れた。その身体を抱きしめる。ナギの暖かい意識がその身体に流れ込む。女の人が薄く目を開けた。
「……? バーナード……?」
小さく口走って、それから目を見開いた。
「あなた……、ベネディクト……?」
震える手が伸ばされる。ナギの顔にゆっくりと確かめるように触れる。髪、瞳、唇と……。
ナギが頷くと、瞳から涙が溢れその頬を濡らした。確かめるように動いた手が、首にそして肩にと下りて、引き寄せ抱きしめた。
「ベネディクト……」
メイは声もなく二人を見ている。近づきもしない。壊した装置の側に佇んだままだ。不審に思ったヴィーが、メイに声をかけようとした。
その時だった。
ナギを抱きしめていたルスが、何を思ったのかいきなりナギを突き飛ばした。
「逃げてっ!!」
ルスが叫ぶ。
ルスの背後の壁がドーン!と音を立てて吹っ飛んだ。避ける暇もなく皆が吹き飛ばされる。ナギもそのまま部屋の外に弾け飛ばされて、ゴロゴロと廊下を反対側の壁まで転がった。
起き上がると、ルスのいたベッドには砕けた壁が落ちていた。
(ルスは……?)
慌てて周りを見回す。部屋の隅に白い腕と金色の髪が覗いている。慌てて起き上がろうとするナギの横を、誰かが通り過ぎた。
見上げると背の高い男が一人、ルスの方に歩いてゆく。茶色の髪だ。ルスの方に身を屈めたので横顔が見えた。偏光サングラスをかけている整った横顔。
瞳が金色……?
男はルスを抱き上げて真っ直ぐナギを見た。
「逃げろ」と、男が言う。
「え……、あなたは……」
見上げるナギを見たままフッと男の姿が消える。
起き上がるとヴィーが駆け寄った。メイとユリアーナは互いの身体を支え合っている。
「地上に飛ぼう」
ゴ──!!! と地鳴りがする。
ぐらぐらと大地が揺れる。壁が、天井が、崩れ落ちてくる。ヴィーがメイとユリアーナの腕を引っ掴んで飛んだ。
ナギも飛ぼうとした。しかしその時、ナギはディヤーヴァを見た。手に手に銃を持った男たちに囲まれて、せせら笑っている姿が──。
男たちの銃が一斉にディヤーヴァに向かって火を噴いた。
「ディヤーヴァ──ッ!!!」
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