5 偽物


 ナギたちは銃を突きつけられたまま、護送用のエアカーに乗せられ、中央の氷の城に連なる一連の研究所から離れた別棟に連れて行かれた。


 空はガスが覆っていて大地は薄暗い。切り崩された山が地肌をさらして、尖った獣の牙のようにギザギザに連なっている麓に、大地にへばり付くようにして幾つかの建物があり、それを結ぶように灰色の回廊が伸びている。

 採石場跡地だった。


(ここのどこかに、ディヤーヴァのもととなったミイラが眠っていた遺跡があったのか)


 ナギはぼんやりと、剥き出しになって曝されたままの山肌を見上げる。

 護送用のエアカーは建物の一つに入った。銃を突きつけられたままエアカーを降りて、建物の中を一つの部屋に案内された。


 部屋の中は広い。まるでホテルの一室だった。護送した男たちがナギたちを置いて出ようとする。


「待て、ルスは何処だ」

 ヴィーが男を引き止めて聞いた。

「ここで大人しくしていろ。すぐに会わせてやる」

 男は持っていた銃でヴィーの腕を払ってドアを閉め、ガチャリと鍵をかけた。


 メイがくるりとナギを振り返って、ツカツカと歩み寄った。

「あんたのせいよ、ナギ」

 きつい目でナギを見て詰る。


「あんたがあんな男を連れてくるから、こんな事になったのよ」

「どうしたんだ、メイ」

 今にも掴みかかろうとするメイを引き止めながら、ヴィーは首を傾げた。活発な少女だが、こんな言葉を吐くような子ではなかった筈だ。ナギは俯いたままで一言も発しない。


 どうせ裏切り者のディヤーヴァといわれた男だった。あんな男を当てにしている暇はない。

「ここで待っていてもしかたがない。ルスを探そう」


 ヴィーの言葉で、俯いたナギも、眦を引き上げていたメイも、その後でおろおろしていたユリアーナも頷いた。

 四人はそっとドアの外へ飛んだ。建物は不気味に静まり返っていた。人の気配がない。


「あいつらは何処に行ったんだろう。人の気配がないが」

「人がいないほうが探しやすいわ」

 建物の中をかすかな人の気配を探って移動する。中央が吹き抜けになってぐるりを階段が走っている建物に着いた。手すりを掴んで覗き込む。深い洞のようにぱっくりと口を開いて階段が折れ曲がって続いている。下へ下へと。


「地下だ……」

 その気配を最初に見つけたのはナギだった。優しい温かい気配だった。自分を呼んでいる。その気配を見つけると、矢も盾もたまらなくそこに行きたくなった。


 真っ先にナギが飛ぶ。それを追いかけてヴィーがそしてメイとユリアーナが飛んだ。

 一番下の階に着いた。ずらりと並んだ部屋のドアを探る内、その気配のある部屋が分かった。ドアには鍵が掛かっている。四人は部屋の中に飛んだ。

 ベッドに一人の女性が縫い付けられていた。



  * * *



 ガラスの塔の最上階に設えた贅を尽くした執務室では、ディヤーヴァが剣を抜いてベレスフォードに対峙していた。剣が光を帯びて長く伸びる。


 デスクから立ち上がったベレスフォードはすでに銃を構えていた。ダンッとディヤーヴァに向け発砲する。それを剣の一振りで叩き落としてディヤーヴァはベレスフォードに詰め寄る。ベレスフォードは銃を乱射しながら逃げた。


 不意にディヤーヴァが飛び上がる。左と見せて、右側に飛びベレスフォードに剣を振り下ろした。衝撃波がまともに襲い掛かって、ベレスフォードは絵画の飾られている壁に背中から激突した。天井のシャンデリアがぐらぐら揺れる。


 ディヤーヴァはベレスフォードに歩み寄る。ベレスフォードはもう息絶えていた。首をかしげてからドアを振り返った。


 ドアの外から殺気が忍び寄ってくる。剣に力を込めてドアに向かって衝撃波を放った。ドーンと重いドアが弾け飛んだ。その向こうにアームズの精鋭たち。中央にいるのは先ほど倒したばかりのベレスフォードだった。


「ふっ、偽者か。どうりで手答えがないと思ったぜ」

 倒れて動かないベレスフォードに目をやる。

「お前もそうか」

 剣を構えなおした。冷たい顔のベレスフォードが唇の端だけを歪める。

「殺れ」

 アームズの精鋭たちの銃口がディヤーヴァに向かって一斉に火を噴いた。


 ディヤーヴァが飛ぶ。一瞬ディヤーヴァの姿を見失って銃声が止んだ。その男たちの後ろに現れてディヤーヴァは剣を一閃した。間近から繰り出された衝撃波が男たちに襲い掛かる。

「ギャッ!」

「グアッ!!」

 衝撃波を受けて、声を上げて倒れる男たちの向こうから銃が撃たれる。ディヤーヴァは衝撃波を放ちながら真っ直ぐベレスフォードに向かって走った。剣を振り下ろす。

「ぐあぁぁ──!!」

 ベレスフォードが弾き飛ばされる。

 そのディヤーヴァに向かってまたバリバリと弾丸が浴びせかけられる。新たな足音がして目を上げると、そこにはまた冷たい顔をしたベレスフォードが部下を引き連れて現れた。

「ふん、何人偽者を作ったんだ」

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