3 迎えが来るさ


 手頃なホテルに落ち着いて、ヴィーがこのステーションにいる仲間にコンタクトを取った。

「ルスは出先からここまでは戻って来た。ここからどこに行ったか、その足取りがつかめないそうだ」

 ホテルの一部屋に集まって、早速作戦会議を始める。


「手分けして探そうか」

 大柄のニコが赤い髪を掻きながら言う。

「そうですね。ルスの立ち寄りそうな星をリストアップして」

 ニコの隣でエッダがうなずく。プラチナブロンドに鼻の頭にそばかすのある愛嬌のある顔を引き締めて手帳型のケースを開いた。ボタンを押すと開いたケースの画面にずらずらと星の名が表示されてゆく。


「さて、どうする?」

 ニコがリストアップされた星を見て首を捻っている。

「私をそちらの船に乗せて下さい」

 中肉中背でどこといって目立ったところのないアンディが、ヴィーに向かって頼み込んだ。


「今でも一杯なんだ。これ以上乗れない」

 ヴィーが首を横に振る。

「どなたか替わってくだされば」

 アンディも引き下がらないで、メイやらユリアーナの方を見て頼み込む。

「だめ」

 メイがぴしゃりと断った。


 アンディが反論しようと口を開きかけたとき、部屋のドアがノックされた。

 一同がパッと立ち上がってドアを睨んだ。

『メッセージが届いております』

 と低い位置から機械音声が言った。


 ヴィーが用心しながらドアを開けると、外には人の半分ほどの背丈の丸っこいウェイターロボットが頭に小さなカードを乗せて立っていた。

 受け取って皆の前でカードのスイッチを入れる。

『アジールに来い』

 と、ただそれだけの機械音のメッセージが部屋に流れた。


「やっぱりアジールか。嫌な予感がしたんだ」

 ディヤーヴァが腕を組んで顔を顰めた。

「罠かも知れません」

 エッダが言う。ニコも頷いた。

「罠に決まっている。でも行くしかなさそうだ」

 ヴィーがため息を吐いた。


「アームズの研究施設があるんでしょう。行っても大丈夫なの?」

 メイがヴィーに聞く。

「ニコの船で待っていてくれて構わない」

 冷たいヴィーの返事に、メイは気丈に首を横に振る。

「お母さんに会うまで帰らないわ」


 ユリアーナも自分の身を抱き締めながら気丈に言った。

「私もずっとついて行きます」

 頬をかすかに染めてヴィーを見る。


 ナギは不安そうな顔をしてディヤーヴァを仰ぎ見る。

「探す手間が省けてよかったじゃねえか」

 皮肉そうに唇をゆがめて笑ってディヤーヴァはナギを引き寄せた。


「ちょっと待てよ、お前らだけで!?」

「私もそちらの船に乗せてください!」

 ニコとアンディが同時に叫んだ。


「我々だけで行く。何かあったら本部に報告してくれ」

 ヴィーはその表情を変えないでニコに言った。



  * * *


『コレヨリ、エリダン第四惑星アジールノ領域ニ入ル』

 スペースシップの人工知能アルがスクリーンに白いガスに包まれた惑星を映し出した。


『いいのか?』

 スクリーンの片隅でニコが聞く。

「行って来る。報告を頼む」


 ヴィーは幼馴染の赤毛の男にそう告げて回線を切った。スクリーンに映った男の映像がふっつりと消える。

「どこに下りるの?」

 メイがスクリーンに映った星を見て尋ねる。


「迎えが来るさ」

 ディヤーヴァが皮肉っぽく返す。

 待つほどもなくスクリーンに大写しになった惑星から、うじゃうじゃとスペースシップが沸いてきて、あっという間に取り囲まれた。

「盛大だな」

 さすがのディヤーヴァも呆れ気味だ。


 スクリーンに突然、金髪の冷たい男の顔が浮かび上がる。

『よく来てくれた。歓迎しよう』

「誰?」

 メイが気丈に聞いた。

「アームズのお偉方のベレスフォード氏だ」

 ヴィーに紹介されてベレスフォードは冷たい顔で微笑んで、軽くお辞儀をして見せた。




 ヴィーのスペースシップは、アームズのスペースシップに取り囲まれて、そのままアジールにあるアームズの巨大な建物に誘導された。


 広いドックに五人とラプター・トランが降り立つと、アームズの部下たちが武器を持ってザザッと幾重にも囲む。その中央にベレスフォードが精鋭の部下を引き連れて現れた。


 ナギはぼんやりと、その登場の仕方が誰かに似ていると思った。吹き付けるように冷たく、肌を切り裂くような気配は違うけれど。


「これはこれは、そうそうたるメンバーだな」

 ベレスフォードはそう言ってヴィーを見る。

「ようこそ、ヴィー・エイジェルステット。我がアームズ社傘下の中核をなすエイジェルステット社の御曹司」

 皆が息を呑んだようにヴィーを見る。ヴィーは唇を噛み締めてベレスフォードを睨んだ。


「いつから?」

「何、ほんのつい最近ですよ。随分、派手に立ち回っていただきましたからね。まさか、アームズの傘下企業の、それも経営陣からイントロンが出るとは」


 ベレスフォードは冷たく笑って、その後ろにいるユリアーナを見た。

「歌姫ユリアーナ。テラでは取り締まりはずいぶん緩くなっているようですな」

 ユリアーナは震え上がって側にいるメイの手を握る。


 ベレスフォードの目がメイに移る。

「イントロンの最高指導者、ドクター・ジンのお嬢さんですな」


 メイは気丈に睨みつけたが、ベレスフォードの視線はすぐにナギに移る。

「父親によく似た娘と、母親によく似た息子とか──」

 ナギとメイを当分に見据え、唇を歪める。


「ふっ、あの女の考えそうなことだ」

 ナギはこのとき、ベレスフォードの言っているあの女が誰なのか分かった。

「ルスさんはどこにいるんだ?」

 大の男を見据えて聞いた。


 側にディヤーヴァがいる。背中を守る温かい気配が伝わる。──だから、吹き付けるような憎悪と殺気を浴びせられても立っていられる。

「生きているのか?」

 金髪の大男をまっすぐ見上げて気丈に聞くと、ベレスフォードは鼻で笑って答えた。

「大事な人質だからな」

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