7 再会と再会
聞き覚えのある声でバリアーを張れと言われて、ナギは咄嗟に手を顔の前に組んで防御体勢をとった。とたん、衝撃波がナギとナギに銃を向けるベレスフォードと、ナギを押さえつけているアームズの男たちに向かって浴びせかけられた。
男達が吹っ飛ばされ、ナギもゴロゴロと弾け飛ばされて壁にぶつかった。
「イタ……」
見上げると背中があった。夢にまで探した広い背中がすぐ目の前にあった。
「お前、何でここに居るんだ!」
怒った声が背中から聞こえた。
「ディ……」
ナギより先にベレスフォードが聞く。
「ディヤーヴァか。生きていたのか」
「生憎とな」
皮肉っぽい声でディヤーヴァが答えた。
「あの宙返りはお前だったか。お前らしいと思っていたが」
「とどめを刺せなくて残念だったぜ。今度こそ」
手に持った剣は光を帯びて青く輝いている。
「それはそっくりお前に返そう」
低い冷たい声がディヤーヴァの向こうから聞こえる。見ればあれほどの衝撃波を浴びた筈なのに、金色の髪は乱れもせず、きっちり着こなしたスーツもそのままで、ベレスフォードは余裕ありげに立っている。しかしその身からは、ちりちりと肌を刺すような殺気が襲い掛かってくる。
ナギはディヤーヴァの背中に張り付いた。
「ディヤーヴァ、あんたにそっくりな子供がいた。あんたの妹の?」
「妹はコイツらの所為で散々に陵辱され死んだ」
「……!?」
「借りを返させてもらう」
ディヤーヴァの剣がギンと伸びる。
「フッ、二人揃って研究材料にしてくれる」
ベレスフォードが身構えた。男達も体勢を立て直して二人に銃を向ける。誰も先程の衝撃波でひどいダメージなど受けていないようだった。ナギはディヤーヴァの後でコクンと唾を飲み込んだ。
そこに、突然「グルルルルーーー!!」と、ものすごい鳴き声を響かせて、翼をバタバタとはためかせた獣がその場に突進してきたのだ。ギザギザの歯のある口を開き、長い首とシッポが振り回される。ベレスフォードもその配下もギョッと固まって動けない。
「ラプター!」
「トラン」
そして、それを追って小さな子供が──。
「ベンジャミン様」
「わっ、そいつは何だ」
ベレスフォードは身を翻し、獣と共に飛び出してきた子供に走り寄った。小さな身体を抱え上げてディヤーヴァとナギに背を向ける。
「待て!! そいつは何だ!!」
ディヤーヴァが叫んで追いかけようとする。その前にベレスフォードの部下たちがザッと並んで壁を作った。今までの相手と違う。整った外見と強靭な肉体を持ったアームズ精鋭の部下たちが、ジャッと一斉に銃器を向けた。
「くそっ」
ディヤーヴァがナギを背中に庇って、一歩引き下がり身構える。
そのとたん、走り過ぎたラプターがドッドッと取って返した。その大きな体で部下たちの銃口の前に立ち塞がった。
「ディヤーヴァ! あれに」
ナギがラプターを指差す。ディヤーヴァはナギを抱えて獣の背に飛び乗った。
「ギュルルルルルーーー!!」
獣が長い首を振り上げ、羽を広げて咆哮した。
「わわわっ」
ラプターはベレスフォードがベンジャミンの為にわざわざ作って贈ったペットだった。傷付けてはと応戦も出来ずに部下たちが引き下がる。その中を獣は勝手に走り回った。
「おい! こら! どこに行く気だ」
片手でナギを抱え、獣に掴まったディヤーヴァが叫ぶ。
「キュルキュルキュル」
獣は叫びながら、二本の足でドタドタと盲滅法に駆けて行く。やがて広間に着いた。
「あっち」
とナギが叫んで獣はテラスに向かった。ドーーンと体当たりをしてガラス戸を開ける。テラスは海に向かって張り出している。下は目も眩むような断崖である。砕け散る白い飛沫が遠くに見える。
「うわっ」
「落ちる」
「飛べないのか」
「分からない」
喚いている内にベレスフォードの部下たちがその人数を増やして追いかけてきた。他に逃げるところはなかった。
獣は身軽く手すりに飛び上がり、海に向かって飛び出した。
追いすがってきた部下たちが銃を撃ったが間に合わない。
「わっ」
「落ちる」
獣は翼を広げ、折からの海風を受けてふわりと浮き上がった。滑空している。はるか下に凪いだ海面が見える。
「飛んでる」
「どっちにしても海の中だ」
ゆっくりと海に向かって獣が飛ぶ。海の上に丸い月が浮かんでいる。明るい月の光が獣とそれに乗る二人をくっきりと浮かび上がらせる。
「こいつ泳げるのかな」
「さあな」
振り返ると別荘の方から数台のスペースマシンが飛び出すのが見えた。
「ヤバイな」
遮るものもない海上を、アームズのマシンがぐんぐんと近付いて来る。獣の上から衝撃波を放ったら、あおりを受けて二人の方が獣から落ちてしまう。ディヤーヴァが唇を噛み締めたとき、
「見て」
不意にナギが月を指差した。
丸い大きな月に影が見える。影はどんどん大きくなって一隻のスペースマシンになった。
「ナギ、ニンシキカンリョウ!!」
見慣れた船が、聞きなれた自動音声で叫ぶ。
「アルだ。飛び移ろうディヤーヴァ。こいつも一緒に」
「仕方がない」
獣にしっかり掴まったまま二人はスペースシップに飛んだ。
ドサッとスペースシップの中に転がり込んだ。
「キュルキュル」
ラプターがどこを打ったか声を上げる。それでも元気に立ち上がって船の中を探索し始めた。どうやら一緒に飛び移れたようだ。
ディヤーヴァはもうマシンの操縦桿を握っている。船がグインと傾いて、目の前のスクリーンに別荘から追いかけてきたスペースマシンが浮かび上がる。ヒュンヒュンと赤い光線が飛び交って、一機がドーンと爆発音を響かせた。他の機体が怯んだ隙にマシンの機体を反転させる。
「全速離脱」
「了解」
海上をアルの操るスペースマシンが疾走する。
ディヤーヴァが操縦桿を離した。そのとたん、
「ディヤーヴァ」
ナギはその背にしがみ付いた。
「おい……」
「やだ、ディヤーヴァ」
しがみ付いて離れない細い体が、ひっくとしゃくり上げはじめた。
「どこにも行っちゃ、いやだ」
(結局、支配されるのか。こいつの意志に。逃げられないのか)
出会ってから少しは身長が伸びたか。その細い身体を抱き上げる。涙にぬれた瞳がディヤーヴァを見て、一層濡れた。
「泣くな、男だろ」
ナギは何も言わず唇を噛み締めて、首に噛り付いた。
周りを見回したが、アルの船の中には誰も乗っていなかった。
ディヤーヴァはナギをそのまま床に押し倒した。キスをすると濡れた瞳が見上げて、瞳を閉じる。服を脱がせて細い身体中に唇を這わせる。
「ああ、ディヤーヴァ……」
溜め息のようにナギが囁く。
「あんたが居てくれなきゃ、いやだ」
聞きたいことは色々あったが、今はそれよりも取り敢えずの飢えを貪りたい。次はいつになるか分からないのだから。
ナギがディヤーヴァのターバンを解く。黒い長い髪がナギの頬に落ちた。不思議色の瞳がナギの顔を覗き込む。
「あんたが側に居てくれなきゃ、いやだ…」
ナギは濡れた瞳でもう一度囁いた。ディヤーヴァがその唇を塞ぐ。これは自分の意思でやっているのだといわんばかりに、細い身体を抱き締めてナギの身体を押し開き身体を繋げた。
「ああ…ん…」
ナギの唇から甘い吐息が転がり落ちる。ディヤーヴァの身体に手も足も絡ませて、二人は押し寄せる官能の渦に身を任せた。
二人の甘い秘め事を知ってか知らずか、獣はキュルキュルと小さく鳴きながら、そ知らぬ顔で船の探索を続けている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます