四話 古い惑星テラ
1 新人類の国王
雨季に入ったのか、雨が激しく地上に降り注いぐ中、ファンファンとサイレンを鳴らして、緑の星の警邏隊が地上をライトで嘗め回す。五人は手を上げて降伏して出た。
警邏隊はナギたち四人と歌姫ユリアーナ、そしてマネジャーのケビンと脱獄犯の死体を収容して飛び上がる。
警邏隊のスペースシップは五人を乗せて王城に着いたが、この星の植物は城の中にも侵入していて、水と緑の中に建物が点在していた。着陸できるポートは一箇所しかなく、それも狭い。一台の小型のスペースシップがやっと停まれるくらいだった。
五人を乗せたスペースシップが先に着陸し、五人と警邏の者を吐き出してすぐ飛び上がった。そして、どこかの方角へ飛んで行く。
「効率悪いんじゃねえの」
後ろ手に手錠をされたディヤーヴァがブツクサと文句を零す。
「とっとと歩け」と銃を突きつけられてフンと歩き出した。その後をナギがとっとと追いかける。ディヤーヴァは振り返って「歌姫さん、王はどこにいる」と聞いた。
「これから謁見の間に連れて行く。大人しくしろ」
飛び出た目とヒレのある、この星独特の特徴を持った警邏隊の連中の中でも、一番偉そうな男が喚いた。
そのまま五人は一列に並べられて、曲がりくねった通路を上がったり下がったりして、赤い絨毯の敷いてある広い部屋に連行された。上段に王の玉座が設えてあり、五人が案内されると間もなく王が現れる。
王はドールではなかった。居並ぶ人々と同じ、飛び出た目とヒレのある手を持った新人類だった。
「これは歌姫ユリアーナではないか。どうしたことだ」
どうやらユリアーナが行方不明になったことは、王まで話が通っていなかったらしい。王の前に進み出て、ユリアーナが言う。
「私はこちらから帰る途中、アンジェリカ・マルティーノという女に攫われました。この方達が助けてくれたのです」
愛らしい透き通った声だった。
「申し訳なかった。怖かったであろう」と王はユリアーナに謝った。
「その者達の縛めを解け」
王は警邏隊に命じて、五人の手錠を解かせた。見るからにインティと思しきナギとメイに、お尋ね者の一覧に入っていそうなディヤーヴァと、非常に美形で反って怪しいヴィーと。見たところ非常に怪しい連中だったが、別に咎めもしなかった。
「あのアンジェリカという女は、わしの弟を誑かして、謀反を企てさせたのじゃ。工場の建設など真っ赤な嘘、私の弟をいいように操って、この星を乗っ取ろうという魂胆じゃった」
王が苦々しい口調で言う。なるほどそんな大事件が起こっていたら、行方不明者の捜索どころではないだろう。
「企みが露見すると弟は自害し、女は牢に入れておいたが囚人を語らって脱走しおった。いやはや、とんでもない女じゃった。しかも、どうやらアームズの重役の女だったと聞く」
「アームズは何故そんなことをしたのでしょうか?」
皆を代表してヴィーが聞いた。
「我々独立政権が目障りで仕方がなかったようじゃが、他にも魂胆があったかも知れん。何しろ急な話じゃった」
もうアームズはこりごりと言いたげな王は、この星の住人と同じ飛び出た目を半眼に閉じて溜め息を吐いた。それから気を取り直し、歌姫ユリアーナに向かい言う。
「あなたの歌は美しかった。心が洗われるようじゃった。あなたの歌を聞いたからこそ、あの女の嘘が見破れたのかも知れん」
王は立ち上がりユリアーナに頭を下げた。
「迷惑をかけて申し訳なかった。改めてお詫びを申し上げる」
「私の歌が王様のお耳に届いてよかったです」
ユリアーナが優しい声で答える。
「空港の閉鎖は解除していただけますか」
ヴィーが聞いた。
「もちろんじゃ」
王は昂然と頭を上げ、改めて宣言した。
「この星はどこにも属さぬ自由な星。何人もこの星において、自分の権利を侵されてはならん」
* * *
ケビンの遺体は荼毘に付され、ユリアーナは遺骨を抱いて、ナギたちと一緒にランドクルーザーに乗り込んだ。車は雨の降るデコボコ道をバシャバシャと水を跳ね上げ、危なっかしげに走った。
「しかし、アームズは何をそんなに焦っているんだ?」
前のシートに乗ったディヤーヴァが、隣のヴィーに納得がいかないという顔で聞く。
「この最近、アームズの内部で何かが起こっている。統制の取れた動きじゃないんだ」
ヴィーは冷たい横顔で説明した。
「どういうことだ」
「我々は上層部で確執があると思っている」
「ベレスフォードか──」
腕を組んで考え込んだディヤーヴァに頷くヴィー。
後ろのシートではメイがユリアーナに色々話しかけている。
「ユリアーナはどんな歌を歌うの?」
「愛の歌が多いわ」
黒い肩までの髪と黒い瞳のメイと、金色の髪に青い瞳のユリアーナは、外見もだが性格も反対のようで、ちゃきちゃきと話しかけるメイにユリアーナはおっとりと相手をしている。
「歌を歌う前は何をしていたの?」
「私はテラの惑星都市に住んでいて、占いをしていたの。その人の前で歌を歌うと、歌がその人の心の中に染み込んで夢を見せるの。ケビンに会って……」
ユリアーナはそこで少し言葉を途切れさせた。
「──ケビンが人前で歌ったらどうかって言ってくれて、あたしは怖かったけど、大丈夫だって……」
ユリアーナの声が震える。メイはその肩を抱いて、慰めるように優しく摩った。ナギはその横で首を傾げて二人の様子を見ている。
メイはあっさりとした性格だった。兄である自分と出会ってもあっさりしたものだった。ケビン相手にはけつり返しそうな勢いだった。そのメイがユリアーナ相手にいやに親切だと。
「テラか……。あんたの歌は危険だ。人を惹きつける。あいつら、ついでにあんたを攫うつもりだったんだぜ」とディヤーヴァが後ろを振り返った。
「時期が合いすぎだな」とヴィーも眉を顰めた。
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