7 塔の中へ
樹木が鬱蒼と生い茂る獣道とてない密林の中だった。地中から飛び出してウネウネとのたうつように生えた太い木の根と、堆く積み上がった枯れ葉と枯れ枝が地面を覆い隠し、いきなり沼や川の支流を出現させる。
樹木に寄生する蔓性植物がぶら下って視界を邪魔し、樹上には何の動物か枯れ枝を拾い集めた巣があって行く手を遮るようにドサッと落ちてきたり、羽虫や小さな鳥が突然目の前をブンと横切って通り過ぎてゆく。
所々に誰かが通ったような跡があって、一行はその形跡を追って歩いた。
高い塔はいくら歩いても一向に近くならず、最初にやはりケビンがばてた。
「す、少し……、や、休みませんか」
目の前に垂れ下がった蔓にしがみ付いてゼイゼイと喘いでいる。
「お前、大きな蛇が出るわよ」
メイが早速ケビンを脅した。
蛇と聞いてケビンは掴まった蔓を慌てて手放した。ブラブラと蔓が揺れる。それを気持ち悪そうに見上げながら、
「……歩きますよ、でも」と苦しい息の間から、呟くように言った。
女の子に脅されてはケビンも形無しで歩く他ない。
「泣き言を言わないで。お前が一番遅いのよ」とメイはケビンを容赦なく追い立てる。
川を横切ると鋭い牙のある魚の大群に襲われた。ヴィーとディヤーヴァが剣を振るって追い払う。
沼を横切るとぽたぽたと大きなナメクジのようなものが落ちてくる。
「ギャー!! ヒルが」
ケビンが騒ぎ立てた。
「もう、お前は。仕様がないわね」
メイはケビンの腕を掴んでダッと走った。
「おいおい、力持ちだな」
あきれたように追いかけて来たディヤーヴァは、ナギを小脇に抱えている。
「俺、大丈夫だよ。ディヤーヴァ」
ナギは腕の中で降りようと藻掻いたが、ディヤーヴァは沼地を抜けて小高い丘に着くまでそのまま走った。
メイに引きずられたケビンは、蹲ってゼイゼイと息をついている。ディヤーヴァに降ろしてもらったナギが辺りを見回して歓声を上げた。
「あ、綺麗な鳥が。何羽も」
すぐ下に広がる少しばかり広い支流に、白とピンクの頭に冠を持った美しい鳥が群れを作っていた。ナギは息を呑んだように見惚れる。
「獣がいるぞ」
ディヤーヴァが注意を促した。牙のある猛獣が数頭、鳥を狙っていた。中の一頭がこちらに顔を向けて様子を窺っている。
「ここは広いな」
後から来たヴィーが丘を見回して言った。
「お前のスペースシップなら降りれるか」
「多分」
見上げれば塔はもう目の前にあった。
塔を見上げてディヤーヴァがひとりごちる。
「ユリアーナはインティなんだな」
「ど、どうしてそれを……」
もうばれてはいるだろうと思っても、改めて言われてケビンは慌てた。
「確かめただけだ。分からない方がどうかしている。行くぜ。俺達が暴れるから、お前達が彼女を助けろ」
ナギとメイに顎をしゃくってディヤーヴァは塔に向かった。ヴィーはすでに自分が員数の一人にされていることに顔を顰める。
「うん」
「行こう」
二人の子供は恐れる風も怖がる風もない。脱獄犯が居るかも知れないのに。
いや、もしかしたらもっと悪いことが。アームズが来ているのだ。脱獄犯は何をして投獄されたのか。
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