6 密林の塔
五人は岸に着けたボートに乗って川を溯った。やがてボートは目的地の王城のある街へと続く船着場に着いた。
狭くて舗装されていない道路。両側に鬱蒼と茂る密林。上空からのスペースシップの着陸を拒絶するような地形だった。
船着場には小さな集落があり、食堂やみやげ物を売るショップの他に、タクシーやレンタカーのショップがあった。
五人はレンタカーショップでランドクルーザーを借りて乗り込んだ。ボートと同じで自動航行装置が搭載されていて人工知能のナビゲーターが運転と道案内をする。
「シップはとろい」と後ろの座席にふんぞり返ったディヤーヴァがケチをつける。
「乱暴な運転で投げ出されるよりマシだ」と運転席にいるケビンの隣に座ったヴィーが返した。
「ほう、よく知っているな」とディヤーヴァ。
真ん中に座ったナギは、舗装されていてもガタガタで穴ぼこだらけの道で、所々水溜りまである悪路で車がガタゴトと揺れまくるのに、ディヤーヴァに寄りかかってぐっすりと眠っていた。
ナギを挟んでメイは二人の言い合いをよそ事に聞きながら、窓の外に黒々とどこまでも続く密林を飽きもせずに眺めている。
ランドクルーザーに乗り換えて二日目、ケビンが周りを見回して「こ、この辺りで攫われたんです」と言い出した。
「あの塔が見えてすぐでした」
ケビンの指差す方向に、覆い被さったような密林の高い木々を突き抜けて、塔のようなものが見えた。
「ナギ。起きて」
メイがナギを揺り起こすと、ナギはふぁーと大あくびをして目をこすりながら辺りを見回した。
「ここ、どこ?」
「お前も、大物になるぜ」
ディヤーヴァがナギの頭を押して車を降りる。そこらを調べて回って言った。
「ここに何人かが通ったような跡があるな。どうもあの塔に向かっているようだが」
ヴィーが運転席のケビンに降りて下さいと席を代わろうとすると、
「ま、ま、待って下さい」と、ケビンはハンドルにしがみ付いた。
「車を道の端に寄せておかないと」
ヴィーが困惑した表情でケビンを見る。
「囚人が脱獄したとニュースで言っていました。も、もし本当なら、もしかしてユリアーナは……」
「そいつらに攫われているかもな」とディヤーヴァが無情な肯定をする。
「この辺りに刑務所があるのか。それとも、逃げ込んだのがあの塔か。どっちにしてもドンパチだな。腕が鳴るぜ」
そう言って力瘤を作って見せた。ナギがすかさずそれにぶら下る。ヴィーはそれを見て少し顔を顰めた。
「君は野蛮だ。それにもう連中はあの塔から逃げ出しているかもしれない。王に助力を頼んだ方がいい」
「そ、それはダメです」
ケビンが慌てて首を横に振った。
「何故だ」とディヤーヴァに突っ込まれてグッと言葉に詰まった。
「……、お、王には今、来客が」
「「来客?」」
ヴィーとディヤーヴァが異口同音に聞く。ナギとメイも首を傾げて見ている。ケビンは一旦ためらってから恐々と続けた。
「アームズ社の連中です。王は近年、この星の近代化を図る為に、アームズの工場を誘致することを検討しているという話をチラと聞きました。アームズが何故この地に目をつけたかは分からないですが」
その話を聞いてヴィーとディヤーヴァは顔を見交わす。微かに火花が散った。
文明を拒絶したかのような星だった。エアカーどころかエアバイクもない。この星の人々は大昔の船や車にまだ頼っている。
ディヤーヴァが腕を組んでケビンに聞いた。
「無論、下っ端じゃないんだろうな」
「ええ。王自ら接待に当たられているので、相当上の方ではないかと。私達と入違いでしたのでよくは分かりませんが」
「アームズの連中と会うのは得策じゃないな」
「じゃあ、あの塔に行くしかないか」とヴィーが運転席のケビンを促す。
ケビンはよろよろと車から降りて不安げに周りを見回した。ランドクルーザーを道の端のくぼ地に停めてヴィーが一番最後に車から降りた。
「あんたは何故アームズを避けるんだ」
腕を組んだままのディヤーヴァが聞く。
「べ、別に避けているわけじゃ…」
ケビンの言葉は途中で口の中に消えた。
「見たところドールだよな」
と、ディヤーヴァに更に聞かれたが唇を噛んで答えない。
ケビンは年の頃三十半ば、茶色の髪の優男である。インティがいないとされた今では、変化していない見目良い外見の男はドール以外ではありえない。
「ふふん。行くか」
ディヤーヴァは聞くのを止めて、既に密林の中に入っているナギとメイを追いかけた。
「しかし、どうして歌姫が攫われたときに、脱獄があったり、アームズが来たりするんだ。出来すぎだな」
ヴィーがケビンを促して、密林の中に分け入りながら独り言のように呟いた。
「狙いは何だろう」
「アームズのか?」とディヤーヴァが振り返る。
「うう……」
ケビンは身を縮めながらよろよろとヴィーの後を追いかける。その様子を見て、先に行っていたナギがケビンのところまで戻った。
「大丈夫だよ、小父さん。きっと助けてあげるからね」と明るい瞳で励まされてケビンは戸惑ったようにナギを見て、それから小さく頷いた。
「一人前に言うな。少しは役に立てよ」とディヤーヴァが振り返る。
「もちろん頑張るわよ。腕が鳴るわ」とメイの方が答えた。
「あのなあ」
「お前、足手まといにならないでよ」
メイはディヤーヴァには取り合わず、ケビンに向かってはっきり言う。
「う」
そうなりそうな予感にケビンは更に身を縮めた。
五人は密林の中を塔に向かって歩き出した。
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