4 攫われた歌姫


 空港のある町を抜けて船着場に向かった。この国は道よりも国土を網の目のように流れる川を利用した船を交通手段にしていた。


 空港の事務所には綺麗な顔の大人がいたが、一歩町に入ると緑がかったこの地方独特の顔をした人が多かった。誰も飛び出たような丸い目をしていて、鼻が低く、手にひれがある。


 ナギとメイが物珍しそうに見るのを連れて、一行は船着場に着いた。まだ日も暮れていないというのに既に定期船の最終便が出ていて、仕方無しに一隻のボートをチャーターして川を上流へと溯って行った。


 川は曲がりくねってどこまでも続き、途中で幾つもの支流に分かれていた。水の色は濁った茶色で、川に覆い被さるように生えている樹木は水かさが増しているのか川岸で水没していた。


 ボートを操るのは自動航行装置で、ナビゲーターの画面に現在地が映し出されていて、時々機械的な人工音声のアナウンスで付近の船着場を知らせてきた。


 行程の半分ほども行った所で日が暮れはじめる。まだ薄暗い内に最寄りの岸にボートを着けた。むき出しの船着場があるだけで、辺りには人の気配はない。民家も無さそうである。ただ、密林を少し入ったところに焚き火の跡らしき場所を見つけて、そこで野宿をすることになった。


 見知らぬ者同士、焚き火を起こして簡単な食事を済ませると、することもなくなった。ディヤーヴァがさっさと横になると、ナギはいつものようにディヤーヴァの背中に張り付いてすぐに寝息を立てだした。そのすぐ側でメイも寝てしまう。


 今更ながら男の名前も聞いていなかったことに気付いて、残されたヴィーは男に話しかけた。

「あなたの名前は」

「ああ、私はケビンと申します。ユリアーナのマネージャーです」

 男は不安そうな顔をヴィーに向けてそう言った。若い男が二人と、子供が二人だった。見るからにインティである。だが──。


(考えても仕方がない。それにインティなら少しは力があるから……)

 いつしか男も眠ってしまい、その寝息を聞きながらヴィーも眠りに落ちた。



 ディヤーヴァにくっ付いて寝ていたナギは、寒さで目を覚ました。側にディヤーヴァがいない。ナギは起き上がってディヤーヴァを探した。チャプンと水音が聞こえた。暗い森の中を木々を掻い潜って水音の方に行く。


 キラと赤い光が見えた。闇の中に暗い湖面が波打ってキラリキラリと光った。湖面からぬっと黒い影が現れた。チャプンと水音がする。長い髪を湖面から跳ね上げた。滴が辺りに飛び散る。湖面から浮かび上がった半身はまるで彫像のように整っていた。


 赤い光がふとナギの方を向いた。

「来いよ」と小さく手招く。


 ナギは頷いて服を脱ぎ捨て、湖の中に入っていった。手を伸ばすと力強い腕に抱き上げられた。浅黒い肌、真直ぐの長い髪、額に赤い宝石、不思議な色に染まる瞳。


 ヴィーは裏切り者だと言ったけれど、この男は自分を拾って助けてくれた。痩せて、小さくて、ドロドロに薄汚れていたナギを。何を信じるよりも、何を思うよりも、この男の後を付いて行くと決めた。


 首に腕を回すと唇が降りてきた。不思議の瞳を仰ぎ見て瞳を閉じキスを交わした。

 ディヤーヴァが抱かせろと耳に囁く。コクリと頷いてその身を預けた。ディヤーヴァはナギの身体のあちこちにキスをした。ゆっくりと蕾に指が入ってくる。身体を解されながら何度もキスを交わした。


 やがて抱え上げられてディヤーヴァのモノが入ってくる。足も手もディヤーヴァの身体に巻きつけてしがみ付いた。不思議色の瞳がナギを見ている。突き上げられてナギの唇から「あっ…ふ…」と声が転がり落ちた。


 しばらく二人の立てる密かな水音だけが辺りに響いた。

 その時である、誰もいないはずの湖面がグンと盛り上がった。

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