3 緊急事態
四人が空港で食事を取っていると、突然空港事務所が緊急用のサイレンを鳴らしアナウンスを始めた。
『ご来客の皆様、並びに当空港をご利用のお客様に申し上げます。重大事件発生の為、当空港をしばらくの間、閉鎖させていただきます。繰り返しお客様に──』
「どういうことだ」
周囲を見回したが驚いて不安そうな顔をした客ばかりで、警察やら官憲やらがショップのある上階の方まで出動してくる気配はない。
空港の管理事務所には問い合わせの客が殺到したが、事務員の話は要領を得なかった。
仕方がないので一旦空港を出た四人が耳にしたのは、この星のブランコ刑務所から何人かの囚人が脱獄したというニュースだった。
「仕方がないね。この星は気候がいいし、どこで野宿しても大丈夫だね」
ナギの言葉を聞いてヴィーが驚いたように言う。
「とんでもない、野宿だなんて。ちゃんとホテルを取ります」
「へえ、金持ちだな、あんたは」
からかい口調のディヤーヴァにヴィーは冷たい声で言った。
「君は別に自分で部屋を取ってくれ」
「いいぜ、ナギ」
ディヤーヴァがナギを引き寄せて嬉しそうに頷いたのでヴィーは慌てた。
「分った、一緒の部屋を取ってやる」
「いや、俺らは」
「私とメイを二人っきりで一緒の部屋にする気か」
ナギとメイが顔を見合わせたのでディヤーヴァは「ちぇ」と舌打ちをして、
「仕方がないな、四人部屋で辛抱してやる」とふんぞり返った。
空港の近くにある手頃なホテルを見繕って四人が入って行くと、玄関ホールで揉め事が起きていた。
「け、け、警察を……」
「警察は今脱獄犯に人数を取られていて、あんた」
泣き顔で縋る男に受付の男が当惑気味に答えている。
「ユリアーナが攫われたんだ。売り出し中の歌手だというのに。こんな辺境の星に来たばっかりに……」
男は泣き崩れた。
「何者だ?」
ディヤーヴァが聞く。ナギとメイもヴィーの方を見ている。
「ユリアーナというこの頃売れている歌手が攫われたらしい」
ヴィーが説明すると、その声を聞きつけたか男が今度はヴィーの方にすがり付いてきた。
「王に招かれて静養を兼ねてこの星に来たんだが、公演を終えた後、ここに戻る途中で何者かに攫われたんだ。王は忙しいし警察も忙しくて、すぐには対応出来ないという。ああ、ユリアーナ、私はどうすればいいんだ」
「この星には王様がいるの?」
メイが目を輝かせて聞く。
「独立政権なんだ」
「なるほど。どこにも属していない訳か」
ディヤーヴァがニンヤリ笑う。
「ねえ、ディヤーヴァ。助けてあげようよ」
ナギがそう言い出してヴィーは目をむいた。
「君は何を考えている。信じられないことを──」
「あんたに頼んじゃいない」とナギが切って捨てた。
「面白そうね。あたしも助けてあげたいわ」とメイも乗り気になる。
「……」
ヴィーに取り縋っていた男が「あ、ありがとうございます」と土下座した。その腕をナギとディヤーヴァが両側から引っ張り上げて立たせた。
「行こうか」
「待て、ホテルには」
ヴィーが引き止めようとしたが聞きはしない。
「早い方がいいだろう」
ディヤーヴァとナギとメイは男に案内させて、そのままホテルから出て行く。
「私は彼らを守って──」
「それから?」
振り向いたディヤーヴァがニヤニヤ笑って言った。ヴィーは睨みつけて追いかける。
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